第四十六章 目覚めの気配
少年は、青白い液体の向こうに漂う影を凝視していた。
――あれは本当に「動いた」のか。
指先がほんのわずかに震えたように見えたのは、錯覚ではないのか。
目を凝らしたその時。
ガラスの内側で閉ざされていた瞼が、かすかに痙攣した。
少年は息を呑み、思わず後退った。
液体に包まれた顔の筋肉が、ゆっくりと動く。
その口元が、空気を求めるように微かに開いた。
ごぼ、と気泡が弾けた。
脈打つように液体が波立ち、培養槽のセンサーが淡く赤く点滅し始める。
「……嘘だろ……」
少年の声は震えていた。
警告音は鳴らない。ただ規則的な電子音が加わり、まるで鼓動の代わりのように室内に響いた。
その音が「まだ生きている」「まだ進行している」と告げているように思えた。
高宮は死んだ。だが――研究は止まっていない。
誰かが、あるいは「システム」が、計画を維持している。
少年は後ずさりながら壁際に身を寄せ、目を逸らせなかった。
ガラスの向こうの「もう一人の自分」が、ゆっくりとその瞼を開きかけている。
透き通るような眼球が、わずかに光を反射した。
その視線が少年に向けられた――そう錯覚した瞬間、背筋を凍らせる寒気が走る。
「……まだ、続いてるんだな……」
少年は小さく呟いた。
自分が生き残った意味も、逃れられない運命も、すべてこの一瞬に収束していくように思えた。




