第四十二章 決断の一閃
高宮の突進はもはや理性のない暴走だった。
手にした机の脚を振り回し、狂気に染まった目をぎらつかせ、少年を押し潰そうとする。
その瞬間、少年の中に異様な静けさが広がった。
鼓動は激しく早まっているはずなのに、不思議と頭の奥は澄み渡っていた。
――今だ。
少年の片手が、拘束の影で隠し続けていた鉄片を閃かせた。
それは錆びた床の破片にすぎない。だが鋭利に尖った一点は、狂気に身を任せた男の突進を止めるには十分だった。
「っ……!」
振り下ろされる机の脚。その軌道に合わせるように、少年の腕が鋭く突き出される。
乾いた衝突音。
次の瞬間、高宮の体が硬直した。
鉄片は、彼の脇腹の柔らかな隙間を正確に突き刺していた。
高宮の顔が歪み、口から嗚咽とも悲鳴ともつかぬ声が漏れる。
「な……ぜ……お前が……」
足元が崩れるように、高宮は少年の目の前で膝をついた。
机の脚が手から滑り落ち、床に転がる。乾いた音がやけに大きく響いた。
少年は荒い呼吸を抑えながら、高宮の目を見据える。
その瞳には恐怖も後悔もなく、ただ混乱と怒りとがない交ぜになった色が浮かんでいた。
「……終わりだ、高宮」
少年の声は震えていたが、確かな決意を帯びていた。
高宮はなおも何かを叫ぼうと口を動かしたが、声にならなかった。
彼の身体は、ゆっくりと床に横たわり、痙攣を繰り返しながら動きを止めていった。
地下室に残ったのは、少年の荒い息と、鉄片から滴る血の音だけだった。
――決着はついた。だが、この結末は始まりにすぎない。
少年の胸に、強烈な実感が刻みつけられる。
高宮という男は倒れた。しかし、自分がその血にまみれた手を持つ存在になった事実からは逃げられない。




