第四十章 決断の閃き
地下室の空気は、すでに高宮の錯乱した呼吸と独り言で満ちていた。
「俺は負けない……俺は支配者だ……誰も俺を笑えない……」
その声は嗄れ、もはや自身を守るための呪文にしか聞こえなかった。
少年は、拘束の隙間に忍ばせていた片手の存在を、ついに明確に動かした。
鉄片を握り、膝の上でわずかに角度を変える。
――カチリ。
小さな反射音が、暗がりで鋭く弾ける。
高宮が反射的に顔を上げた。
瞳は血走り、理性の糸がとうに切れている。
「やめろ……近づけるな……!」
彼の声には、支配者ではなく、追い詰められた弱者の哀願が混じっていた。
少年は、声を低くして告げた。
「先生……これは、復讐じゃない。証明です。
あなたが“過去”から逃げられなかったという……証明」
次の瞬間だった。
少年の手首が閃き、鉄片が拘束具の錆びた部分へと突き立てられた。
「ガンッ!」
金属が裂ける硬質な音が響き、錠前の一部が弾け飛んだ。
高宮の顔色が変わる。
「馬鹿な……! やめろ! 俺の計画が……!」
少年はなおも鉄片を握りしめ、残る拘束に視線を向けた。
だがすぐに外すつもりはなかった。
逃げるためではない。
――高宮を追い詰め、最後まで錯乱させるための“刃”として、目の前に突きつける。
「あなたは僕を縛った。でも……縛られているのはあなた自身だ」
囁きは静かでありながら、容赦のない真実を含んでいた。
高宮は震える手で机を掴み、立ち上がろうとしたが、膝が折れて崩れ落ちた。
口元からは意味をなさない言葉が漏れ続ける。
「俺は勝者だ……俺は勝者だ……」
だが、その姿はもはや勝者ではなく、崩壊に抗う亡霊そのものだった。
――少年は悟った。
鉄片が切り開くのは、ただの拘束ではない。
それは高宮という存在の最後の均衡を、決定的に断ち切る“閃き”なのだ。




