第三十七章 崩れゆく心
監視カメラの赤いランプが薄暗い地下室を照らす。
少年は拘束椅子に縛られたまま、頭を垂れ、力尽きたふりをしていた。だがその右手首はわずかに自由になっており、膝の下に隠された片手が、鉄片の感触を確かめるようにゆっくりと動いている。
一方の高宮は、机の前に座っていた。
モニターに映る少年の姿を凝視しながら、指先を震わせ、ペンを折る。
「……お前は俺じゃない。違う……俺は弱くなんかない……」
その独り言は、誰に向けての弁明なのか。
モニター越しに自分自身と会話をしているかのようだった。
「先生」
少年がか細い声で呼びかける。
「僕はあなたの“実験”のために生まれてきた。でも、結局……あなた自身を追い詰める存在にしかならなかった」
高宮の目が血走り、机を叩いた。
「黙れ! お前は俺の作品だ! 俺が作ったんだ! 俺が管理して、俺が壊す! そうだろう!」
言葉を吐き捨てながらも、その声音は震えていた。
自分に言い聞かせなければ立っていられない――そんな脆さが浮き彫りになる。
少年はゆっくりと顔を上げ、微笑に近い表情を浮かべた。
「作品、ですか……。なら、なぜそんなに怯えているんですか?」
高宮の唇が痙攣した。
「怯えてなんか……いない……俺は……」
次の瞬間、彼は立ち上がり、両手で頭を抱えた。
「クソッ……違う……俺は負けてない……俺はもう、昔の俺じゃない……!」
その姿は、教室の隅でいじめに震えていた少年時代の高宮と重なって見えた。
違うのは、今その光景を見ている「もう一人の高宮」が、椅子に縛られたクローン少年だということだった。
少年は薄れるふりをしていた意識を、あえて冴え渡らせる。
「先生……僕があなたの影だとしたら、その影が笑っている時点で……もうあなたは勝てないんですよ」
高宮は呼吸を荒げ、後ずさりした。
その口から、理解不能の呟きが止めどなく漏れる。
「勝てる……俺は勝てる……全部俺が……俺が……」
少年の右手の指先が、膝の下で鉄片を握りしめた。
まだ使わない。
ただ、その存在を“自分だけが知っている”という事実が、心理戦をさらに優位に導いていた。




