第二十三章 檻の中の囁き
監視カメラの赤いランプが、規則的に点滅していた。
部屋の隅から隅まで、死角はない。高宮はモニターに映る少年の姿を凝視し、わずかな動きや表情の変化をも逃すまいと神経を尖らせていた。
少年は椅子に拘束されたまま、動くこともままならない。
それでも目だけは鋭く、カメラのレンズを真っすぐに見据えていた。
まるで「監視されていること」を意識的に利用しているかのように。
「ねえ、高宮先生」
少年は不意に声を上げた。
「ずっと僕を監視してるけど……疲れない?」
高宮は反応を示さなかった。だが耳は確かに言葉を拾っている。
「あなたは僕を“完全に管理してる”つもりだろうけど、実際には逆だよね。
僕の呼吸、まばたき、わずかな動きにまで気を取られて……あなたの方が、僕に縛られてる」
モニター越しに少年が微笑む。
その表情は幼さを残しながらも、計算された冷静さを帯びていた。
「たとえば、僕が咳をするだけで、あなたは体調を疑って血圧を測ろうとする。
僕が眠らないだけで、不安になって睡眠薬を増やそうとする。
……それって“管理”じゃなくて、あなたが僕に振り回されてるってことじゃないの?」
高宮の眉がわずかに動いた。
だが視線は逸らさず、モニターの少年を見続ける。
少年はさらに言葉を重ねた。
「監視っていうのは、する側も“見られること”に依存するんだよ。
だって、もしカメラを切ったら? その瞬間、あなたは僕が何をしているのか不安でたまらなくなるはずだ」
モニターの中で、少年はわざと大きくため息をついた。
そして、目を細めながら囁くように言った。
「もう、あなたの心臓のリズムまで僕がコントロールしてる気がする」
高宮は椅子の肘掛けを握りしめた。
指の関節が白く浮き上がるほど力が入っている。
頭では分かっている。少年の言葉は挑発だ。心理戦の一環だ。
だが――確かに、心臓の鼓動が早まっていることを否定できなかった。
少年は静かに目を閉じ、わざとらしく寝息を立て始める。
その呼吸の間隔に、高宮の耳が勝手に同調していく。
まるで、監視しているはずの自分が、逆に監視されているような錯覚。
「……くだらん」
高宮は立ち上がり、モニターの電源を一時的に切った。
だが画面が黒くなった瞬間、胸の奥に強烈な不安が湧き上がる。
「今、あいつは何をしている?」
脳裏に浮かぶのは、拘束を外す手段を試みている少年の姿、笑みを浮かべながら待ち構えている少年の姿――。
高宮は舌打ちをし、再びモニターを点けた。
そこには変わらず、拘束されたまま静かに微笑む少年がいた。
「やっぱり、切れないでしょ?」
少年の唇が動いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
マイクが拾ったその声は、まるで心を読まれたかのように的確だった。
鉄の檻の中で、拘束された少年は確かに動けない。
だがその言葉と存在は、すでに高宮の心を縛りつつあった。




