第二十二章 鉄の檻
翌朝、研究室には冷たい蛍光灯の光が差し込み、少年の拘束された姿を照らし出していた。
赤く腫れた頬に青い痣が浮かび上がっている。だがその目は依然として光を失わず、高宮を見据えていた。
高宮は一睡もしていなかった。机の上にはノートPCと数枚の設計図、そして監視カメラの小型ユニットが並べられている。
「もう心理的に揺さぶられる余地は残さない……」
低く呟きながら、彼は次々と工具を手に取り、研究室を“監獄”へと変貌させていった。
まず天井の四隅に暗視対応のカメラを取り付ける。赤外線センサーを搭載し、少年の動きや呼吸の変化まで検知できる仕組みだった。
「これで、眠っている時も一挙手一投足を把握できる」
さらに机の下からは電子錠付きの鉄製ボックスを取り出し、食事用の小窓を加工した。
「食事も管理する。カロリーも栄養も、すべて私の計算通りだ」
高宮は調理器具を片付け、パッケージ化された栄養ゼリーや冷凍食品を冷蔵庫に並べ替えていく。
排泄もまた徹底的に管理された。部屋の隅に置かれた簡易トイレには電子ロックが付けられ、使用する時間を高宮が制御できるようになった。
「人間の最も原始的な自由さえ、私が握る」
その声には、もはや科学者の冷静さではなく、歪んだ支配欲が滲み出ていた。
少年は拘束された椅子に座ったまま、淡々と作業を見守っていた。
「監視カメラに囲まれて、電子錠だらけの生活か……。それって“研究”じゃなくて、ただの牢獄だよね」
皮肉めいた言葉を投げても、高宮は反応しなかった。ただ無言で工具を握りしめ、ネジを締め続ける。
数時間後、部屋は完全に改造されていた。
カメラが天井から見下ろし、電子ロックが扉と設備を固め、少年の体には金属の枷と鎖が食い込む。
鉄の檻の中に「実験体」は閉じ込められたのだった。
「これで完璧だ。お前は私の管理下でしか存在できない」
高宮は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
だがその顔には満足感と同時に、拭い切れない疲弊が刻まれていた。
少年は口角を上げ、小さく囁いた。
「完璧な檻、ね……でも檻を作るってことは、それを“壊される”可能性も作ってるんだよ」
高宮の眉が一瞬だけ動いた。
だが彼は何も返さず、黙々とモニターに映る少年の姿を確認し続けた。
こうして鉄の管理体制は完成した。
だが同時に、高宮自身がその檻の中に閉じ込められていくことに、まだ気づいてはいなかった。




