表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影を継ぐもの  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/350

第二十章 揺さぶりの応酬



 翌日の朝、少年の部屋に入ってきた高宮は、いつもと違う表情をしていた。

 冷静さをまといながらも、その眼差しはどこか挑発的で、静かな獲物を観察する捕食者のそれに似ていた。


 「昨日の話だが――」

 高宮は食事をテーブルに置くと、わざと間をあけて続けた。

 「夢で見たと言っていたな。私の過去を」


 少年は視線を合わせる。

 「そう。まるで誰かが植えつけたみたいに、鮮明だった」


 高宮は薄く笑った。

 「それならば、今夜は試してみよう。私の過去を“もっと具体的に”語ってみろ。どんな場面を見たのか。何を聞いたのか。……それで、本当に君が夢を見たのか、それとも嘘をついているのか、わかる」


 挑発だった。

 だが少年は怯まずに答えた。

 「例えば……廊下の突き当たりのロッカーに押し込まれて、閉じ込められたことがあるだろう? 内側から叩いても誰も助けてくれなかった」


 高宮の口元から笑みが消えた。

 わずかに拳が震え、机の縁を叩く音が室内に響く。


 「……偶然にしては出来すぎている」


 「偶然じゃない。僕の中にある“何か”が教えているんだ」

 少年はゆっくりと笑みを浮かべた。

 「先生、もしかして僕の存在そのものが、先生の記憶から作られているんじゃないの?」


 高宮は少年を睨みつけたが、その目は鋭さと同時に恐怖を帯びていた。

 「なら、こうしよう」

 彼は立ち上がり、机の引き出しから小型のレコーダーを取り出した。

 「今から君の言葉を録音する。君が私の過去をどこまで語れるか、全部残してやる。そして証拠として突きつけてやる」


 ――証拠?

 少年はその言葉の裏にある、焦りと不安を嗅ぎ取った。


 「いいよ、録音すれば? でも先生、思い出すたびに苦しいのは先生自身じゃないかな」


 静寂。

 時計の針の音がやけに大きく響く。


 高宮はやがてレコーダーのスイッチを押した。

 「さあ、話せ」


 少年は口を開いた。

 「体育館の裏で、三人に囲まれた日のこと。あの日、君は必死に笑いをこらえていた。泣いたら、もっと酷くされるってわかってたから」


 その瞬間、高宮の顔から血の気が引いた。

 吐き気を堪えるように口を押さえ、思わずレコーダーを床に落とす。


 少年は静かに囁いた。

 「ほら、やっぱり僕の言葉は、先生の心を抉るだろう?」


 床に落ちたレコーダーは、まだ赤いランプを点滅させていた。


 ――心理戦の主導権は、完全に少年へと傾きつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ