第十八章 檻の中の実験体
翌朝、少年が目を覚ましたとき、部屋の様子が微妙に変わっていることに気づいた。
机の上に置いていた文房具が消えている。窓の外には、細い金属製の補強格子が取り付けられていた。
まるで一晩のうちに見えない檻が作られたかのようだった。
「……何をしたの?」
少年は廊下に現れた高宮に問いかけた。
高宮は落ち着いた調子で答えた。
「君を守るためだ。外の情報は毒になる。昨夜の行動で分かっただろう」
「守る……? 監禁の間違いだろ」
少年は睨みつけたが、その目には怒りよりも不安が濃く浮かんでいた。
高宮は彼を無視して部屋に入り、小型のカメラを天井の隅に取り付け始めた。
「人は監視されて初めて正しい行動を取る。これは研究の基本だ。私も、君も、例外ではない」
カメラのレンズが少年を捕らえた瞬間、背筋を冷たいものが走った。
自分が「被験者」ではなく「囚人」になったことを悟ったのだ。
その日の午後、高宮は少年のパソコンを撤去し、代わりに古びた学習用端末を渡した。ネット接続は遮断され、使用できるのは辞書と数本のオフライン教材だけ。
「知識は与える。だが、選択肢は制限する。これは君にとって必要な環境だ」
「僕を……閉じ込めたいだけだろ」
少年は吐き捨てるように言った。
高宮は椅子に腰を下ろし、両手を組んだ。
「いいや、これは予防措置だ。君が外の世界に触れれば、すべてが壊れる。私の研究も、君の存在も。だから私は先手を打つ」
そう言うと、机の引き出しから薬瓶を取り出した。
「これは睡眠を安定させるためのものだ。服用すれば、余計な妄想に悩まされることもなくなる」
「……飲まなかったら?」
「そのときは、拘束するしかない」
高宮の声に揺らぎはなかった。
少年は黙って薬瓶を受け取ったが、目は鋭く高宮を射抜いていた。
その夜、部屋の隅に設置された監視カメラの赤いランプが、暗闇で点滅していた。
少年は布団に横たわり、目を閉じながら心の中で繰り返した。
――ここから逃げ出さなければ。
一方、高宮は書斎でモニターを見つめながら、深く息を吐いていた。
「……やはり、急がねばならん」
少年の視線の奥に、自分への反抗だけでなく、「外の世界」へ向かう欲望が見え隠れしている。
それを放置すれば、復讐の舞台は瓦解する。
高宮は机上のノートに新しい実験計画を書き込んだ。
「監視、拘束、管理……そして制御」
文字を刻む手は震えていたが、瞳は確かな光を宿していた。




