第十六章 名簿の先に
午後、研究所の一室。
高宮が眠り込んでいる隙を見計らい、少年はそっと机の引き出しを開けた。
禁じられていることだと分かっていた。だが胸の奥に溜まった違和感と怒りが、それを後押ししていた。
引き出しの中には、古びたファイルがいくつも並んでいた。
少年は手前の一冊を取り出し、慎重に開いた。
そこには、コピーされた古い卒業アルバムのページが挟まれていた。
中学二年の集合写真。
中央に写る眼鏡の少年が――若き日の高宮だった。
そして、その隣に肩を組むように笑う快活そうな少年。
その顔を見た瞬間、少年は息を呑んだ。
「……これが、僕の“オリジナル”の相手」
写真の下には手書きのメモが残されていた。
「西条 正志 現在:岐阜県在住」
そこには勤務先らしき会社名まで記されている。
少年は手が震えるのを感じた。
この老人が――高宮の人生を狂わせ、その結果、自分という存在が作られることになった。
つまり、自分の「宿命の源」でもあるのだ。
背後で布団のきしむ音がした。
振り返ると、高宮が浅い眠りから目を開け、ぼんやりとこちらを見ていた。
「……何をしている」
かすれた声。
少年はアルバムを背中に隠し、とっさに笑みを作った。
「ただの勉強だよ。写真、見せてもらってた」
高宮はしばらくじっと少年を見つめたが、やがてまた目を閉じた。
薬のせいか、すぐに再び眠り込む。
少年は胸を押さえながら、ファイルを戻した。
だが頭の中ではもう決意が固まりつつあった。
――自分は会わなければならない。
本物の「西条正志」に。
その夜、少年はこっそり自室にこもり、ネット端末を立ち上げた。
検索欄に震える指で名前を打ち込む。
〈西条正志 岐阜〉
数秒後、画面にヒットした情報が並んだ。
地元の商工会のページに、中年から老年の男が笑顔で写っている。
白髪まじりだが、面影ははっきり残っていた。
集合写真のあの少年が、今や老人となって、地域の顔役のように紹介されている。
「……生きてる」
少年の呟きは震えていた。
画面の中の老人は、温和そうな笑みを浮かべていた。
だが、その奥に「かつて自分を踏みにじった影」が潜んでいる気がしてならなかった。
少年は拳を握りしめた。
「会うんだ。必ず」
モニターの光に照らされたその瞳には、迷いよりも確かな決意が宿っていた。
過去と現在、そして自分の存在の意味を突きつけるために――。




