表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影を継ぐもの  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/350

第十一章 揺らぐ支配



 その夜、高宮は研究棟の自室にこもり、何度も資料を見直していた。机の上に広げられたカルテや実験記録の文字は、もう彼自身の目には霞んで映っていた。

 ――冷静になれ。私はまだ支配者だ。たとえ観察されていようとも、コントロールを失ったわけではない。


 そう自分に言い聞かせるが、胸の奥に張り付いた不安は剝がれなかった。

 少年の最後の言葉――「次は僕の番だよ」――が、耳の奥で反響してやまない。


 深夜二時。研究棟の監視モニターが突然ちらついた。

 「……?」

 高宮は姿勢を正した。モニターには、廊下の映像が映っているはずだった。しかし画面はノイズで揺れ、やがて白黒の縞模様になった。


 「まさか……」

 高宮は操作盤を確認した。配線に問題はない。外部からの侵入もありえない。

 だが、異変は続いた。別のモニターに切り替えると、そこには――少年の顔が大写しになっていた。


 「!!」

 声をあげたが、すぐに口を押さえた。

 画面に映る少年は、監視カメラに正面から顔を近づけ、無表情でじっとこちらを見ている。


 「……どうやって……」

 監視カメラの映像は研究棟のサーバーを通じて一元管理されている。少年が触れることは不可能のはずだった。だが画面は確かに彼を映している。しかも、映像が不自然にループし、同じ瞬きや首の動きが繰り返されていた。まるで編集された映像を再生しているようだった。


 「これは……脅し……」

 高宮は血の気が引いた。


 そのとき、机の引き出しの中から電子音が鳴った。心臓が跳ね上がる。慌てて開けると、中に仕舞っていたはずの古い携帯型レコーダーが作動していた。誰も触れていないのに。


 流れてきたのは少年の声だった。

 ――「パパ。僕ね、観察するだけじゃなくて、真似もできるんだ」

 ――「パパが監視するなら、僕も監視する」

 ――「次は、僕が試す番」


 震えが止まらなかった。これは偶然ではない。少年は確かに、自分が築いてきた支配の仕組みを理解し、何らかの形で逆用している。


 高宮は立ち上がり、研究棟の廊下に飛び出した。深夜の空気は冷たく、足音が異様に響く。

 「どこだ……どこにいる!」


 だが廊下は静まり返り、少年の姿はなかった。


 やがて、ドアの隙間から一枚の紙が差し込まれているのに気づいた。拾い上げると、それは自分が書いた研究ノートのコピーだった。ページの中央に赤いペンで大きく丸が描かれ、そこにはこう記されていた。

 ――「支配は常に逆流する」


 高宮は足をもつれさせて壁に背をついた。

 「……これは……私の言葉……」


 確かに記録の中で、自分はそう書いていた。被験者に対する恐怖の制御は、常に逆流の危険を伴う――と。かつて冷静に書き残したその言葉が、いま自分自身を追い詰めている。


 頭の奥で、過去の光景がよみがえった。

 ――校庭で笑いながら殴ってきた少年。

 ――自分が血を流しながら、心の奥で「いつか必ず報いを」と誓った瞬間。


 その憎悪を材料に生み出したはずの存在が、今度は逆に報復を誓っている。


 高宮は唇をかみしめた。

 「……私は……まだ負けていない。あれはただの模倣だ。本物の支配は……私だけができる……」


 そう呟きながらも、胸の奥では理解していた。

 ――支配は、すでに揺らいでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ