第百五章 対峙
暗渠を抜けると、湿った空気は一変し、人工的に冷却された乾いた風が頬を撫でた。
目の前に現れたのは、無骨な鉄扉と警告の赤いランプ。
廃配管のはずなのに、扉は最新の生体認証式で封じられている。
少年は端末を起動し、壁際に埋め込まれた古い保守ポートへと接続した。
幸いにも、高宮の残したコードが未だ生きており、認証の一部を欺くことができた。
数分の格闘の末、重厚な扉がゆっくりと開く。
中は広大な地下施設だった。
廃工場を改造したような空間に、サーバラックと監視モニタが並び、武装した人間たちが警戒態勢を敷いている。
少年の侵入はすでに察知されていた。
だが、彼を迎えたのは銃口ではなく、ひとりの指揮官らしき男だった。
四十代後半、軍歴を思わせる姿勢の良さ。
黒い戦闘服に身を包み、背後には冷ややかな視線の傭兵が二人控えている。
「よく来たな。逃げ隠れせず、真正面から踏み込むとは」
低く、抑揚を抑えた声。
少年は喉が張り付くように乾いているのを感じた。
だが、一歩前へ進み、かすれた声で言葉を返す。
「……あなたたちは“アダム計画”の残滓を利用している。目的は何だ」
男は口元にかすかな笑みを浮かべた。
「質問する立場を勘違いするな。おまえが持つ“鍵”こそ、我々が求めるものだ」
視線が、少年の端末へ、そして彼自身へと突き刺さる。
――ここで下手に刺激すれば、殺される。
だが、黙って従えば、仲間の犠牲もすべて無駄になる。
少年は呼吸を整え、静かに言った。
「……なら、交渉だ。俺の持つものが欲しいなら、条件を飲め」
男の眉がわずかに動いた。
「ほう、子どもが交渉か。だが――聞くだけは聞いてやろう」
緊張が濃密に張り詰める。
周囲の傭兵は指をトリガーにかけたまま。
ひとつの言葉が、銃声に変わる可能性すらある。




