表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を滅ぼす君と、本日の晩餐を 〜バリバリキャリアウーマン、ちっちゃくなった悪の親玉を拾って育てます!〜  作者: しらたき 茶々麻呂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/14

09_甘味の後には苦いものを

「うむ! 満足である!」


 ファミレスを出た帰り道。ノワールは上機嫌で日向子の前を歩いていた。


「よかったねぇ、ノワ君」


「パフェなるものは美味であったぞ。明日も食いたいのである」


「毎日はちょっと身体に悪いからなぁ。あ、でもチョコならいいよ」


「チョコとはなんだっ」


「うーん、それは明日のお楽しみっ!」


 さっきまでの修羅場が嘘のように、二人の間には穏やかで温かい空気が流れている。日向子はにこにこと笑いながら、ちょこちょこと前を歩くノワールの姿を追いかけた。


「ね、ノワ君。明日もお留守番させちゃうけれど……ごめんね」


 突然の日向子の謝罪に、ノワールは首をころんと傾げた。日向子は不思議なことを言う。勝手に押しかけているのはこちらなのに、何を気負うことがあるのか。


「構わぬのである。ヒナコにはヒナコのすべきことがあるのだろう?」


「うん。お金は稼がなきゃだもん」


 お留守番で寂しい思いをさせてしまった分、楽しい思いをたくさんして欲しい。そのためには頑張ってお金を稼がなければならない。


「でも、ノワ君に寂しい思いをさせちゃうからさ」


「……うむ。たしかに、ヒナコがおらねば張り合いがないな。テレビとやらは楽しいが」


 ノワールは立ち止まり、日向子の傍に歩いてくる。彼は日向子を見上げて、ニッと笑った。


「ワガハイは、ヒナコと過ごせるだけでうれしいのである」


「ノワ君……」


(ヒナコには生活を続けるためには、基盤を整えてもらう必要がある。仕事を続けてもらわねば困る!) 


 完全に偽りの言葉を言うほど、ノワールは野暮ではない。まだ三日ほど共にすごした女ではあるが、ノワールは日向子のまっすぐさを気に入っていた。


「ありがとう、ノワ君。あのね、私、ノワ君と一緒にいるの楽しいよ」


「む。ワガハイもであるぞ。ヒナコはユカイなのだ」


「そう? 楽しいかぁ。よかったよかった」


 日向子はノワールのまっすぐな言葉と健気な姿に、胸がぎゅっと締め付けられた。彼の頭を帽子の上から撫でてて、再度決意を固めた。


「よし、明日もお仕事頑張るぞ!」


「その意気である!」


 日向子の意気込みに、ノワールも元気よく応える。二人は自然に笑い合い、寄り添って帰路を歩いた。




 だが、その平穏は、突如として切り裂かれる。


「見つけたぞ、日向子」


 街灯の届かない暗がりの路地裏から、ぬうっと現れた影。


「朝比奈君……なの……?」


 日向子は息を呑んだ。そこにいたのは朝比奈透だった。しかし、その姿は明らかに異常だった。


 彼の肌はどす黒く変色し、目からは赤黒い不気味な光が漏れ出ている。何より、彼の背後からは、あの謎の女と同じ「濃厚なバラとユリの香り」が、どろりとした殺気と共に立ち込めていた。


「下がるのだ、ヒナコ!」


 ノワールは日向子の前に飛び出し、守るように立つ。ノワールにとって日向子は都合の良い隠れ((みの)。彼女を失うわけにはいかないと、反射的に身体が動いたのだ。


「お前が俺を拒絶するからだ……! 俺の言う通りにしていればいいものを、そんなガキと馴れ合いやがって!」


 朝比奈が咆哮すると、彼の影が生き物のように(うごめ)き、巨大な黒い獣の腕へと形を変えた。彼は人間の嫉妬と醜い独占欲を増幅され、異形の悪役(ヴィラン)へと変貌している。


「ノワ君は関係ないでしょ!」


 日向子は震える腕でノワールを抱き寄せ、朝比奈に叫んだ。


「もう私たちは恋人同士じゃないの。どうして分かってくれないの!」


 かつて日向子は朝比奈を愛していた。それでも日が経つにつれてすれ違って、彼の期待に応えられなくなって逃げ出したのだ。それなのに今更、しかも悪役(ヴィラン)に堕ちてまで追いかけてくるなんて思わなかった。


「違う……お前は俺の所有物(モノ)だ! 日向子!」


 凄まじい風圧と共に、朝比奈の影の爪が日向子たちへ振り下ろされた。


「ひっ……!」


 あまりの恐怖に足がすくみ、日向子は目を瞑ることしかできなかった。


「調子に乗るなよ、下等生物が。我が獲物を狙うとは、身の程を弁えよ」


 地を這うような、冷酷で圧倒的な声が響く。

 次の瞬間、ノワールの体から、夜の闇すら飲み込むほどの漆黒の魔力が爆発的に吹き荒れた。


 ドクン、と世界が脈打つ。


 日向子が恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 (ひるがえ)漆黒(しっこく)のマント、夜空を映したような美しい黒髪と、全てをひれ伏させる冷徹な紅き瞳。その頭には、世界を滅ぼすと言われた禍々しくも美しい、漆黒の双角が完璧な姿でそびえ立っていた。


 それは、子供のノワールではない。かつてこの国を恐怖に(おとし)れた真の姿、ノワール・ラグナロクだった。


「な、なんだお前は……!?」


 悪役(ヴィラン)化した朝比奈が、その圧倒的なプレッシャーに本能的な恐怖を感じて動きを止める。真の姿を取り戻したノワールは、表情一つ崩さず、ただ静かに右手を朝比奈へと向けた。


「消え去れ。日向子は吾輩のものだ」


 魔王の指先から、一筋の黒い雷光が放たれる。

 それは朝比奈の放った影の爪を瞬時に消滅させ、彼の身体を真っ直ぐに貫いた。


「くっ……!?」


 凄まじい衝撃波と共に、朝比奈の体から赤黒いオーラが弾け飛ぶ。悪役の力は、魔王の一撃によって完全に粉砕されたのだ。朝比奈は元の哀れな人間の姿に戻り、そのまま地面に倒れ込んで気絶した。


 勝負は、わずか一秒。


「……はぁ、はぁっ……!」


 直後、周囲に満ちていた圧倒的な魔力が霧散する。

 大魔王の姿は、陽炎のように揺らめき、次の瞬間には元の小さなフリルシャツ姿のノワールへと戻っていた。無理に本来の力を引き出した反動か、ノワールは膝をつき、激しく肩で息をしている。


「ノワ君! 大丈夫!?」


 日向子が慌てて駆け寄り、その小さな体を抱きしめる。ノワールは青ざめた顔で、しかしふんすと鼻を鳴らして日向子を見上げた。


「無事か、ヒナコ」


(ふむ……まだ、力は完全に戻っておらぬか。やはりもう少し時間が必要だな)


 ノワールは日向子に身体を預けて、甘えるようにくっついた。日向子は先程見た男の姿とノワールの姿が結びつかなかった。しかし先程見たのは、紛うことなきノワールの姿だ。


「ヒナコはワガハイが守ってやる」 


 それだけ言うと、ノワールは緊張の糸が切れたように、日向子の胸の中で意識を失ってしまった。


「ノワ君! しっかりして!」


 気絶した元カレと、自分を助けて眠り倒れたノワール。静まり返った夜道で、日向子はノワールを強く抱きしめながら、これから始まる波乱の予感に小さく身震いするのだった。


「大丈夫ですかっ!?」


 頭上から、軽やかな声が聞こえてきた。月夜に浮かぶのは可憐な魔法少女の三人。彼女たちはそれぞれの武器を手に駆けつけてくれたのだった。声を掛けてくれたのは、ドリーム・ピンクだ。


「ドリーム・トリニティ……!」


「小鳥遊さんっ!」


 ドリーム・ピンクは日向子に駆け寄って、手を差し伸べてくれた。 


「こちらに悪役(ヴィラン)の反応がありました。なにかご存知ありませんか?」


「えっと……」


「その子は、お子さんですか?」


 ドリーム・ブルーの問いかけに、日向子は言葉を詰まらせた。彼女はドリーム・ブルーの視線がノワールに向かっているのがわかっていた。ノワールは怪人、つまり魔法少女の敵組織である。ノワールの正体を知られてしまったら、きっと捕まってしまうだろう。


悪役(ヴィラン)は怪人によって変異させられた一般人です。そして怪人は、人間の魂を食らう悪の存在。私たちには、人々を守るために怪人を倒す使命があるんです」


 ドリーム・ブルーは静かに、しかし厳しい口調で日向子に詰め寄った。角を見られてしまった以上、誤魔化しきれる自身はない。でも、ノワールを守るためなら、嘘を突き通す覚悟はあった。


「この子は……」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ