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06_波乱万丈の予感!? 焼豚チャーハン

第7話です。

日向子はバリバリ働くキャリアウーマン。ノワールとの生活費を稼ぐため、今日も元気に出社するが……?

「隠し子? 朝比奈君、寝ぼけてるの? 私がいつ産んだっていうのよ」

 

 朝比奈の手を思い切り振り払った。あまりの突拍子もない言葉に、脳が激しく拒絶反応を起こす。


「隠しても無駄だ。説明しろ」

 

「友達の子供に送るプレゼントだけど」

 

 日向子が必死に絞り出した嘘を、朝比奈は鼻で笑った。

 

「嘘だな。お前の友達に、今そんな年頃の子供はいない。……つまり、男だ。まさか、新しい男の連れ子か?」

 

 朝比奈の一歩、また一歩と詰め寄る粘着質なプレッシャー。日向子が言い返そうと口を開いた、その時、チーンとエレベーターが到着を告げる。


「じゃ、仕事あるから」


「待てよ。まだ話は終わってないだろ」


 日向子は朝比奈に背を向けて、足早にエレベーターを後にした。しかし朝比奈は諦めず、後ろにぴったりついてくる。足を早めたらつられて早く、遅くするとつられて遅くなる。振り払えない鬱陶しさに、日向子は鼻を鳴らした。


(……もうっ! そういう、人の話を聞かないところがイヤで別れたのに)


 さすがに言い返してやろうと足を止めた。しかし振り返るよりも先に、名前を高らかに呼ばれて振り返る。 


「小鳥遊、朝比奈! お前たち、早く来い!」

  

 フロアの奥から、上司が血相を変えて手招きをしていた。何か緊急事態があったのかもしれない、と朝から憂鬱な気分になる。


 日向子と朝比奈は上司の元に行くと、フロア最奥の会議室に向かうように指示された。

 

「……話は終わってないからな」

 

 朝比奈が耳打ちをしてから、先を歩き出す。日向子は大きくため息をつき、重い足取りで会議室へ向かった。

 

 会議室のドアを開けると、そこには「別世界」が広がっていた。ピンク、ブルー、グリーンの鮮やかな衣装に身を包んだ三人の女性が、ホワイトボードの前に佇んでいる。


「えっ……!?」 

 

 彼女たちこそ、テレビで、SNSで、毎日見ている国民的ヒーロー『魔法少女ドリーム・トリニティ』だ。上司は、オホンとわざとらしく咳き込んだ後、日向子と朝比奈の顔を見る。そして衝撃的な事実を告げた。


「本日より、我が社が『魔法少女 ドリーム・トリニティ』の公式宣伝担当となりました。マネージャーは朝比奈、副マネージャーは小鳥遊が担当いたします」


(えぇーっ!?)


 日向子は声には出さないまま、驚きを隠せなかった。国民的ヒーローの広告塔なんて一大プロジェクトを当日知らされただけでなく、元カレである朝比奈と組まされるなんて最悪以外言いようもない。


 しかしそんな事情を知るはずもないドリーム・トリニティの三人はニコニコと愛らしい笑顔をむけてくれた。 

 

「おはようございます! ドリーム・トリニティです! 今日からよろしくお願いしまーっす!」

 

 センターで元気いっぱいに挨拶をしたのは、ドリーム・ピンク。明るいピンクの髪のボブカットに、桜色の瞳、そしてイメージカラーのピンクのシフォンスカートを揺らす明朗で愛嬌たっぷりな女の子。


「よろしくお願いいたします。広告部第一課、小鳥遊日向子と申します」

 

 状況に戸惑いながらも、日向子はビジネスウーマンとして完璧な一礼をした。しかし、日向子は気づかない。その女性が、自宅の隣に住む橘サクラであることに。


「えっ!? あっ、わぁっ!?」


 対するドリーム・ピンク、橘サクラは気付いてしまった。日向子が隣に住むお姉さんであることに。


「どうかしましたか?」


「い、いいえ! とっても綺麗なお姉さんだなぁって思っちゃって」


 隣にいた青髪のベリーショートの女性、ドリーム・ブルーが呆れたようにサクラを(たしな)める。


「ピンク、そう言うのやめなって。だから誤解されるんだよ」


「ごめんごめん」


 ブルーに怒られたサクラは、てへっと舌を出した。そのあざとい仕草も、愛らしい女性が見せると絵になる。ブルーは日向子と朝比奈に向き直り、一礼をした。それに続き、イエローも続く。金髪のツインテールがサラリと揺れた。


「私どもは広報活動においては素人です。なので、どうかご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いいたします」


 礼儀正しいブルーとイエローの態度に、日向子はにこりと微笑んで一礼を返す。


(クライアントの印象は良好。問題は元カレと同じチームってことなんだよねぇ)


 日向子はチラリと朝比奈を見やる。さすがプロというべきか、朝比奈は日向子のほうを一瞥することなくドリーム・トリニティに対してにこやかに接していた。


「我が国のために尽くしてくださるドリーム・トリニティの皆さんの、お役に立てるように尽力いたします」


 先程日向子を追い詰めていた声音とはうってかわって、爽やかな声と朗らかな笑顔を浮かべる朝比奈。そんな彼から視線を外して、窓の外を見た。その先には、自分が住むアパートがある。


「はぁ……早くお昼、食べたいなぁ」


 今日のお弁当は、今朝作ったチャーハンだ。ノワールのお昼ご飯も同様に準備してきた。お昼になれば、ノワールがあの頬袋にチャーハンを詰めているかと思えば、この疲れも吹き飛んでしまうような気がした。


「よーし、がんばるぞ!」


 そうして日向子が労働への決意を固めた頃。ノワールは一人リビングでテレビを見ていた。ピンクのパジャマをきがえ、フリル付きの襟シャツの姿は、留守番を任された子供そのものだ。人間の子供と違うのは、その頭に生えた角くらいなものだろう。


「ぐぬ……どこを見ても、あの忌まわしき魔法少女共の話ばかりである! まったく嘆かわしい!」


 丸テーブルの上で、日向子が作ってくれたチャーハンをもぐもぐと咀嚼しながらひとりごちる。


『お昼ご飯に食べてね』と釘を刺されたが、ノワールにとっては無に等しい。好きな時に好きなものを食べて何が悪い。


「うむ。この飯もうまい」

   

 ゴロッと大きめに刻まれた焼豚(チャーシュー)、 シャキシャキのネギ、ふわふわの卵、パラパラな米。それらが絶妙にマッチしたチャーハンは、まことに美味であった。あっという間に平らげてしまったノワールは、空になった皿を悲しげに見つめていた。


「これっぽっちでは、まったく足りないのであるぞ! ヒナコ!」


 当然ながら、日向子はいない。日向子はノワールの宿敵たちとのミーティング中である。そんなことを知るはずもないノワールは、ヒナコの名前を呼びながら地団駄を踏んでいた。


「ぐうぅ……ヒマだっ!」 


 魔力が戻らないことには、外に出ることもままならないことに腹が立つ。ノワールはソファにゴロンと転がって、足をパタパタと跳ねさせた。


「ヒナコ、はやく帰ってくるのである……」


 むぅ、と不服げにこぼした言葉に返す者はいない。明るく静かな部屋に小さくこだますだけだ。

 

 しかし、日向子がオフィスで何らかの気配を察知して、定時に爆速帰宅をすることになるのだが……それはまた、別のお話である。  

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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いつも読んでくださる方々、本当にありがとうございます。励みになります。

※次回第7話『これぞエンタメ! お子様ランチ』の更新は5月3日18時です

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