47:岡崎 日向
「葵を異世界に召喚した、女神・・・岡崎 日向よ」
王座に腰かけ、そう自己紹介する少女がいた。
彼女はセーラー服を着た、見目麗しい、知的な感じのする黒髪の少女だったのだ。
広げた扇子を手に持ち、にやけた口元を隠すでもなく、何やら偉そうな感じだ。
それはシーワン国の謁見の間の王座で、見ず知らずの彼女が座って良い場所ではない。
それなのに腰かける彼女の傍らには、まるで当然のようにアイテールが立ち、こちらを見ていたのだ。
それはまるで従者と主人のような、立ち位置だったのだ。
私達は謁見の間に案内され、その少女の前で、立ち尽くしていた。
そして私の魔力感知が、彼女こそが今回の旅の、私達の・・・いや、私の・・・ラスボスであることを告げていた。
シーワン国に到着した私達は、待ち受けていた宰相ディノスにより、すぐさま謁見の間に案内されてきた。
このシーワン国へ来るまでに、魔道航空機に乗り、色々な気になるエピソードはあった。
皆が機内弁当のクォリティーに驚愕したり、ニャーさんが感激のあまり、弁当を買い占めようとして「弁当は一人、お一つまでです!」と注意されへこんだり、ハーピーによる美声のアナウンスに酔いしれたり、シーワン国のあまりの超文明ぶりに驚いたりしたが、その全てが、目の前の少女のインパクトで、全て消し飛んでしまったのだ。
「先輩・・・・」
そして涙で目を潤ませ、葵ちゃんはそう呟いたのだ。
先輩? まさか目の前の少女は・・・!?
「せんぱ~~い!!」
「あおい~!!」
バシ~ン!!
そして2人の少女の、抱擁が交わされるかに思われたその時・・・・。
何かが弾ける音がしたのだ。
「ってするわけあるかあああ!!!」
見ると葵ちゃんの正拳突きが、少女に命中していたのだ。
いったい葵ちゃんは、どうしたと言うのだろうか?
なぜそのような暴挙に、及んだというのだろうか?
「こんな悪戯するなんて酷いですよ先輩! すぐに私を元の世界に戻してください!」
葵ちゃんは激怒ぷんぷん状態であった。
確かに突然こんな異世界に連れて来られたら、激怒しても可笑しくはない。
ボム~ン!
すると煙がもくもくと立ち込め、まるで狸の変身がとけたように、無様に転がる、ヘカテーちゃんが現れたのだ。
そこにあの美少女の姿は、かけらも見当たらなかった。
「えええええ!! 先輩が幼女になっちゃたよ~~!!」
その様子に目が飛び出るくらい驚愕する葵ちゃん。
そう・・・・美少女、岡崎 日向の正体は、ヘカテーちゃんだったのだ。
「ぶひゃひゃひゃひゃ!!」
「「はあ?」」
「にゃにゃにゃなんだこりゃあああ!?」
それを見て笑い転げるクマさん。
開いた口が塞がらない、アルバート、トニー。
なぜか腰が抜けて、怯えているニャーさん。
周囲は既に、収拾がつかない状態と化していた。
「あの・・・・。貴女本当にあの先輩なの?」
「間違いなく妾は、この世界に転生した、岡崎 日向の生まれ変わりの、ヘカテーなのん・・・・」
葵ちゃんのその問いに、ヘカテーちゃんはゆっくりと立ち上がりつつそう答えた。
ヘカテーちゃんは原初のエルフにして、10000年以上も生きたエルフの神である。
そのヘカテーちゃんに、あんな正拳突きが命中するはずもないのだ。
あの正拳突きを受けたのは、ギャグとかそういう理由ではなく、申し訳ない気持ちから甘んじて受けたのだろう。
しかもあれほど吹き飛んだにも拘わらず、ヘカテーちゃんはまったくの無傷の状態だ。
ヘカテーちゃん程の原初に、あのような攻撃は無意味に等しい。
「でもこれだけは言わせて欲しいのん・・・・・」
ヘカテーちゃんはそう前置きをすると、再び口を開いた。
「葵はすでに死んでいるのん・・・・。その葵をこの世界で復活させたのが・・・・妾なのん」
そしてヘカテーちゃんは、葵ちゃんに対して衝撃の告白をした。
そう・・・・。葵ちゃんはこの世界にただ転移したわけではない・・・・。
すでに死んだ葵ちゃんの魂を元に、体を復元し、復活させた存在なのだ。
まあその体は、胎児の状態から急激に成長させ、造り上げるしかないので、転移というよりは、むしろ転生ということにもなるが、ややこしくなりそうなので、この辺りは説明から省いておく・・・・。
「えっと・・・・。いったい何を言って・・・?」
ところが葵ちゃんは、そのヘカテーちゃんの説明に、ついていけないようだ。
ここらの説明は正直、難しい・・・・。
この世界はあの地球であり、私達のいたあの時代から、300万年も先の未来なのだ。
葵ちゃんはその未来に復活させられた人間の一人だ。
葵ちゃんの精神的安定を考えるなら、それを今言うのは憚られるだろう。
「確かに葵ちゃんは一度死んで、この世界に復活しましたが・・・・一ヶ月だけなら・・・・元の世界へ・・・・家族の元へ・・・・帰ることができますよ」
私がそれを告げると、葵ちゃんは唖然とした様子でこちらに振り返る。
白い空間を使い、あちらの世界の様子を知れば、葵ちゃんが死んだ後の、あの世界の様子を知ることが出来る。
そうすれば葵ちゃんは、自分の家族の口から、自らの死を聞かされるだろう。
なぜなら葵ちゃんも、例の『東京都K区氷結事件』で亡くなった方々の、一人だったからだ。
その事実は葵ちゃんの家族を実際に訪ね、確認したから間違いはない。
「たったの一ヶ月・・・・」
するとそれを聞いた葵ちゃんは、ショックだったのか、放心状態で座り込んでしまう。
あの白い空間にいられる期間は、どんなに頑張っても一ヶ月間だけだ。
その制限時間だけは、変えてあげることは出来ない。
なぜならあの世界を維持できる、私の限界が、その期間だけだからだ。
もちろんあの世界は、アイテールが復元したものなので、アイテールでもあの世界の維持は可能かもしれない。
だが今の復活したてのアイテールは、私の魔力の一部によって、その体を維持しているにすぎない状態なのだ。
そんな状態のアイテールが、再びあの世界を維持するのは、相当に負担がかかることだろう。
だからここは、私がやるしかないのだ。
「お願い・・・・その一ヶ月でもいいから・・・・うぅ・・・・私を元の世界へ・・・・家族のいる場所へ帰して・・・・」
葵ちゃんは再び口を開くと、私の手を両手で硬く包み、涙を流しつつそう頼み込んできた。
ところがそれが面白くないのか、歯噛みしながら、こちらを睨み付けている者がいた。
それがヘカテーちゃんだったのだ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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