40:港街ノースポー
「おお! 海だ~!」
「でけえ! これが海か!?」
ヘンツさん2号の窓から、海を眺めながら、リンデルとアイリンがはしゃぎ、大声を上げる。
王都を発って3日後、私達は、港街ノースポーへ到着した。
私達の乗るヘンツさん2号が、2頭の馬に引かれ街へ入ると、人々の注目を集める。
ヘンツさん2号にエインズワース侯爵家の旗が付けられているために、寄ってくる人間はいないが、やはりその未確認飛行物体のような見た目は、この異世界でも目立つようだ。
乗り心地が良いためか、クリフォード侯爵とエリザベート夫人は、ヘンツさん2号の座席で、まだ寝息を立てているようだ。
使用人のメイアちゃんはかろうじて起きているようだが、その隣にいる娘2人は、寝てしまっている。
「クリフォード様! 奥様! ノースポーに到着しましたよ!」
「お・・・もう到着したのか?」
御者のおじさんの大声で、どうやら寝ていた人達も目を覚ましたようだ。
この港街にやってきた理由は、ホウライの魔道船に乗せてもらうことだ。
そして魔道船に乗って未だ見ぬ他国へ行き、未知の食材を得るのだ。
「問題はどうやって魔道船に乗せてもらうかだよね・・・」
魔道船はホウライ王国の、国宝とまでいわれている船だ。
おいそれとは乗せてもらえないだろう。
「何言ってんだ嬢ちゃんは? 魔道船にはお金さえ払えば、誰でも乗れるんだぜ。ちと値は張るがな・・・」
クマさんの言うには、どうやら魔道船は誰でも乗れるようだ。
そう言われると冒険気分が、いっきに観光気分になっていく。
「魔道船に乗る目的は、ホウライ王国、猫人国、ソロモン獣人国に行くことがほとんどだぜ。だいたいは物品搬送の仕事を請け負った冒険者が、行くことが多いな。どこも狩効率も悪いし、過ごしにくいから自分から行こうと思う奴はいねえ。嬢ちゃんのように観光で乗ろうとするような、余裕のあるやつはまずいねえのさ」
確かに冒険者が狩りに行くにしても、ホウライ王国では慣れない船での狩りが主流だ。
猫人国、ソロモン獣人国では普人族に対する差別があり、とても過ごしやすい国とは言えない。
それを考えると、冒険者が進んで行きたい国とは、とても思えない。
「確か猫人国には砂糖がありましたよね? 交易品に魔道船で砂糖を運んだりはしないんですか?」
イーテルニル王国にも、高価だが砂糖はあったし、もしかしたら魔道船で運んでいるのではと思ったのだ。
「砂糖なんかの交易品は、そのほとんどが、エラシア王国に運ばれているんだ。イーテルニル王国にまでは回ってこねえ」
「じゃあイーテルニル王国の砂糖はどこから運んでいるんですか?」
「あれは陸のルートから運んでくるんだ。詳しくは知らねえが、なんでも砂糖のある国に行くまでの、安全なルートが存在するらしいぜ」
クマさんによると、砂糖はイーテルニル王国からはるか南にある猫人国で、手に入るようだ。
猫人国とは過去にホウライ王国から、イーテルニル王国に帰還する途中で、立ち寄った記憶がある。
「魔道船が見えてきましたぞ!」
クマさんとそんな話をしていると、クリフォード侯爵が興奮気味にそう叫ぶのが聞こえた。
「本当だ! あれが魔道船か!」
「大きい!!」
リンデルとアイリンも、窓から魔道船を見て大はしゃぎだ。
馬車の列が魔道船の付近に到着すると、皆馬車を降りて、皆魔道船に向けて歩いていく。
私もトテトテと歩いて、魔道船に向かっているよ。
「はやくこいよリンネ! クマジロウ!」
「置いていくわよ!」
リンデルとアイリンは、大はしゃぎで魔道船へ駆けていく。
「子供は元気がありますね、クマさん」
「嬢ちゃんがそれを言うと、ちょっと違和感がある」
魔道船の停泊している場所を見ると、その付近に露店のような店を出して、交易品を並べているのが見えた。
皆法被にちょんまげと、あいかわらず江戸時代風の出で立ちだ。
露店の前には店主らしき行商人のおじさんがいて、何やら見習らしき少年数人に指示を出している。
露店の両端には、屈強な体つきの護衛の侍が2人立っていて、周囲に睨みをきかせている。
「これはクリフォード様、エリザベート様。よくぞおいでくださいました」
クリフォード侯爵がエリザベート夫人を伴って近付くと、行商人のおじさんが挨拶をしてきた。
「久しいなカクタニ・・・・今日は知人を連れて来たぞ。其方も良く知る御仁だ」
「はあ? 聖獣様と・・・どちら様でございましょうか?」
カクタニさんの顔を見ると、以前とは顔も体系も、違うおじさんだった。
背高のっぽで鼻が高く猫背。今のカクタニさんはそんな感じだ。
私も見覚えはないが、向こうも同じく、こちらに見覚えはないようだ。
「もしかして・・・リンネ様でございましょうか?」
のっぽのカクタニさんは、私の顔を見るなり、そんなことを尋ねてきた。
「ええ。間違いなく私はリンネですが・・・・」
「噂には聞いていましたが、まさか本当に幼子のままの見た目だとは!? わたくし20年ほど前に、リンネ様に蜂蜜の丸薬をいただいた、カクタニ屋で見習いをしていた者でございますよ!」
そう言えば20年ほどまえにもこのノースポーで、行商人のカクタニさんと醤油などの取引をしたのだ。
その時に働いていた使用人の少年に、蜂蜜フルーツ飴をあげた記憶がある。
どうやら目の前のカクタニさんは、あの時の少年のようだ。
あの時は痩せて小さかったのに、ずいぶんと背高のっぽになったものだ。
年齢は30代くらいになるのだろうか?
この異世界の人達は、高魔力者などの例外もあるが、基本成長も早く、歳をとるのも早い。
あの少年がもうすっかりおじさんだ。
「わたくしカクタニ屋に婿入りをしまして、現在カクタニの名を継いでおりますです」
前のカクタニさんは隠居をして、静かに余生を過ごしているようだ。
魔道船に乗ってホウライに行ったら、挨拶にいってみるのもいいかもしれない。
「今回も醤油やお米がご入用でしょうか? 取引の方は、今回も物々交換でもよろしゅうございますよ」
そしてさっそくのっぽのカクタニさんは、手を擦り合わせながら、そう尋ねてきた。
見ると今回も、醤油やお酢、お酒やお米ななど、数々の商品を取り揃えているようだ。
今から取引するのが楽しみでわくわくしてくる。
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