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36:アイリンの旅立ち

 アイリンの旅立ちの日、多くの人々がエテールの屋敷の前に集まり、盛大な見送りとなった。

 それを見るとアイリンがどれだけ街の人達に、愛されているかがわかる。

 


「アイリン、風邪ひかないようにしなさいね!」


「リンネ様の言うことをよく聞くのよ!」



 エイリーン夫人とエマちゃん、アイリンの2人のお母さんが、旅立つアイリンに涙を浮かべながら言葉を送り、抱擁を交わす。



「わあああん! アイリンちゃん! もう一度お顔をよく見せて!」



 アレクシア夫人は別れを惜しんで泣きじゃくっている。

 やはり義理であっても孫は可愛いものなのだろう。

 フォンティールのお爺ちゃんも、その後ろで涙を浮かべている。



「アデラール! お姉ちゃんもっと強くなって帰ってくるから!」


「ええ~! お姉ちゃん今よりもっと強くなるの!?」


「「わはははは!」」


「アイリンお嬢様はすでに強えからな!」



 アイリンと弟のアデラールくんとの挨拶で、皆から笑いが巻き起こる一幕もあった。

 

 

「元気でな、アイリン・・・」



 そして最後にフェリックス伯爵と抱擁を交わしたアイリンは、すでに私達が乗り込んでいるUFO型ゴーレムヘンツさんの、後部座席に乗り込む。



「皆娘をよろしく頼むわね!」


「リンネ様も聖獣様もお元気で。リンデル王子も女王様によろしくお伝えください」



 エイリーン夫人とエマちゃんがやってきて、私達にも挨拶をする。

 エマちゃんには最後に抱き上げられて、頬ずりされてしまったが、恥ずかしいので止めていただきたい。



「みんな!! ありがとう!! 必ず元気に帰ってくるから!!」



 そう皆に向けてアイリンが大きく手を振ると、私はヘンツさんを出発させた。


 予定ではこの後宿場街に向かい、太陽の木漏れ日亭で昼食をとり、その後王都に向かうことになっている。

 それはクリフォードくんが王都に用事があるため、港街ノースポーに向かう前に、クリフォードくんと王都で落ち合うことになっているからである。


 ついでにアリスちゃんや王宮の皆に、アイリンを紹介しておかなくちゃね。





「途中で、蜂蜜が採れる場所があるんだがどうする?」


「もちろん取りに行くわ!」


 

 そういうクマさんの提案に、アイリンが大きな声で答える。

 私達の旅には、こういう寄り道もつきものだ。


 アイリンは丈夫さを上げる身体強化が得意なようで、ビッグハニービーの殺人針を防ぐ術を、あっという間に身につけた。


 リンデルもさすがにこの時には、身体強化で殺人針を、防げるようになっていたようで、蜂蜜採取に参加していたよ。

 


「あま~い! これ駄目になる味だ・・・」



 アイリンは蜂蜜採取中に手についた蜂蜜を舐めて、とろけるような表情をしている。

 こんなところを見ると、アイリンは本当に私の娘なのだなと思う。



「おい! はしたないぞアイリン!」


「うっさいリンデル!」


「なんだとアイリン!」


「まあまあ。2人とも喧嘩しないで、ヘンツさんに乗りながら、蜂蜜フルーツ飴でもなめようよ」


「そのアメならオイラにもくれ」



 アイリンとリンデルは、お互いをライバル視しているようにも見える。

 実力も均衡しているし、お互い性格がちょっと合わない部分があるから、こうなっても仕方ないのかもしれないがね。


 私達はその日の昼ごろには宿場街に到着した。

 そして昼食をとるために、太陽の木漏れ日亭に向かったのだ。



「向こうに人の列が出来ているけどあれは何?」



 アイリンの指し示す方向を見ると、そこには人の列が出来ていた。

 あの列はおそらく、例の聖獣の氷の神殿への参拝者なのだろう。



「ありゃあリンネとクマジロウを祭ってんだ! 祭壇では氷が出来るんだぜ!」



 リンデルがアイリンに、得意顔でそう説明する。

 そう言われると、否定も肯定も出来ない。

 もともとあの建物は、氷が欲しいと望むこの宿の人達のために建てたというのに、なぜ皆あんなに並んでまで拝もうとするのか?



「へええ! 面白そう! ワタシも行ってみたい!」


「はいはい。お昼ご飯を済ませてからね・・・」



 ちょうど時間は昼時なので、さっそく太陽の木漏れ日亭の食堂に向かう。

 この太陽の木漏れ日亭は、貴族も泊まる高級宿で、料理が評判なのだ。





「なにこの料理!? どれも美味しいし面白い!」



 アイリンが宿の料理を絶賛する。


 さすがこの宿の料理は、どれも工夫が凝らされていて美味しい。


 今日の昼食の内容は、ロールキャベツに、魚介のスープ、サイコロ状に切ったフルーツをふんだんに加えたサラダだ。

 どれも贅沢な食材を使った、豪華な一品ばかりだ。



「どれも美味いな!!」



 リンデルは教えたはずのマナーが崩壊し、すでにガツガツと豪快に食べ始めている。

 食事が美味しいのはわかるが、王子がマナーを忘れるとは、いかがなものか?

 これは如何なる時も、自然に優雅に食べられるように、教育する必要があるだろう。



「リンネ様・・・シェフが貴女様にぜひ会いたいと申しております」



 そして食事も終わり、デザートを頼もうとすると、毎回のようにホールスタッフがやってきてそう告げてくるのだ。



「え? 何々? なんでここのシェフがリンネに会いたいの?」



 その様子にアイリンは困惑を隠せない様子だ。



「ようこそおいでくださいましたリンネ様。今回のデザートはこちらになります。是非感想をお聞かせください」



 そこへコック長のアラグノールが、ラッセルさんを連れて、デザートを運んでやってきた。

 わざわざ私にデザートの感想を聞くためだけに、2人でこの場に出てきたのだろうか?



「ほう? これはパープルスイートポテトのケーキですね?」



 アラグノールの運んできたスイーツは、紫芋を使ったモンブランだった。

 紫芋はわりとエルフに好まれており、エルフの食卓にもよく並んでいたのを思い出す。

 

 そして以前教えたモンブランに、この紫芋を使用してくるセンスは、さすがだと言わざるを得ない。


 私がそう思いつつ、アラグノールにニヤリと笑みを浮かべると。

 向こうも同じような笑みを返してきた。

 

 どうやらこの紫芋のモンブランの発案者は、予想通りアラグノールであるようだ。



「紫だ!!」


「本当! 初めて見るケーキよ!」



 エテールではわりかし私の広めたショートケーキなどは出回っていたが、この紫芋のモンブランは、確かに言われてみると初めてかもしれない。

 私はそう思いつつ、目の前のスプーンをとる。



 カチ・・・



 紫芋のモンブランにスプーンを入れると、中から生クリームが出てきた。

 その断面の美しさが、さらに食欲をそそる。

 

 スプーンで1口すくい、さっそくその紫芋のモンブランを味わうことにする。

 滑らかな舌触りに、ちょうどよい甘さ加減。

 そして紫芋と生クリームの風味が合わさり、口の中でまろやかさが生まれる。


 これは絶品だと言わざるを得ないだろう。



「美味え!!」


「美味しい~! 幸せ~・・・」



 そしてこの2人の幸せそうな顔を見れただけでも、ここへ来たかいはあるというものだ。



「このパープルスイートポテトのケーキは、とてもよく出来ていると思います。あとは飾り付けに工夫があれば、もっと見た目が華やかになると思いますよ」



 前世で見た紫芋のモンブランには、さまざまな趣向を凝らした、飾り付けがしてあったのを思い出す。

 私はそのことを、思い出しながら、モンブランの飾り付けを提案してみた。


 モンブランはシンプルなのもいいが、チョコや果物やクリームなどで飾り付けたものも、見た目が華やかでいい。



「なるほど。大変参考になります」


「やはりリンネ様に意見を伺って良かった」



 2人は話を聞き終えると、すぐに厨房へと引っ込んでいった。

 きっと今から2人であれこれと、私の意見を参考に、モンブランの飾り付けを試すのだろう。





 食事の後は、聖獣の氷の神殿に参拝に向かう。

 

 ちなみにクマさんは今、光魔法の光学迷彩で姿を消している。


 私らしき石像と、クマさんの石像のある場所に、顔を出せば大騒ぎになりそうだが、実はクマさんさえ姿を消していれば、意外と地味な顔つきの私は、気付かれることはないのだ。


 まあリンデルとアイリンと3人で歩いていれば、一番下の妹とかと思われるだろう。



「あ! 聖獣5柱のお菓子だって!」



 アイリンが指さす方を見ると、列の先に屋台があり、饅頭(まんじゅう)を焼く美味しそうな匂いが充満していた。

 どうやらこの1ヶ月ほどで、私の提案した聖獣饅頭の屋台を開けたようだ。

 私はさっそく聖獣饅頭を買うことにした。



「10箱ください。」


「お! 気前がいいね嬢ちゃん!」


 

 屋台おじさんにお金を見せながら頼むと、手早く頼んだ10箱を用意してくれる。

 

 聖獣饅頭は、1箱に6個づつ饅頭が収められているのだ。


 聖獣5柱のお菓子なのに、6個目にアイテールの饅頭が入っている理由は、聖獣5柱はアイテールなくしては語れないという、宗教的理由からである。



「そんなに買ってどうすんだよリンネ?」


「1つは私達で食べる分で、あとは王都の皆へのお土産かな?」



 参拝が終わった後は、再びヘンツさんに乗り、王都へと直行した。

 そして夕方ごろには、無事王都へと到着することが出来たのだ。


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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