32:リンネの料理自慢
「おや? その白いものは?」
クリフォードくんは、その白いお菓子が何か理解できず、怪訝な顔付きをする。
その箱の中には、長細い正方形の、小さな白いお菓子が、ぎっしりと詰め込まれていたのだ。
現在私達は、魔道列車の試験乗車により、エテールの街から出発して、エインズワースの街まで来ている。
エインズワースの街では、クリフォードくんを初め、エインズワース家の方々が出迎えてくれたのだ。
そして次の魔道列車の発車時間まで、エインズワースのお屋敷で、お世話になることになったのだ。
そこで久々に会ったメイアちゃん、シェリーちゃん、コーリーちゃんが作ったお菓子をご馳走になり、そのお礼にと私が出したお菓子が、ある白いお菓子だったのだ。
「あ! それホワイトチョコレートでしょ!」
するとアイリンがその白いお菓子の正体を、ばらしてしまったではないか。
「もお! アイリンばらさないでよ~!」
「ごめんねリンネ。ついうっかり・・・」
アイリンはそんな私に、テンプレ技の一つである、てへぺろをしがら謝罪する。
「は!? ホワイトチョコレートだって!? 確かホワイトチョコレートは、空想上のお菓子だと聞いたことがあるのだが!?」
そのお菓子の正体を聞いて、クリフォードくんが驚愕の声を上げる。
相変わらずクリフォードくんは大げさのようだ。
そのホワイトチョコレートが空想上のお菓子だという逸話は、おそらく王都のホワイトチョコレートという名前のお店の関係者に聞いたものと思われる。
「まあ見てばかりいないで、まずは一口食べてみてください」
私はそんなクリフォードくんに、さっそくホワイトチョコレートを勧めた。
「ウーゴ・・・頼む」
「わたくしのもお願い・・・」
「承知いたしましたクリフォード様、エリザベート様」
クリフォードくんとエリザベート夫人が執事のおじさんに何か頼むと、執事のおじさんは小さなトングでホワイトチョコレートを摘まみ、器用に小皿に移していく。
そしてホワイトチョコレートの乗った小皿が、クリフォードくんと、エリザベート夫人の前に置かれる。
「カリ! 驚いたな・・・本当にこの白いのはチョコレートだ。いやホワイトチョコレートだったね? まさか空想上のお菓子を、再現してしまうとは・・・」
「美味しいわ! 以前食べた黒いチョコレートよりも、甘みを強く感じるのね!」
クリフォードくんとエイリーン夫人は、ホワイトチョコレートを口に運ぶと、それぞれ感想を述べた。
「メイア、シェリー、コーリー。お前達もこれを食べて感想を聞かせてくれ・・・」
クリフォードくんがそう言うと、執事のおじさんが再びいくつかホワイトチョコレートを小皿に移して、今度はメイアちゃん達3人の前に持っていった。
3人はそれぞれ緊張の面持ちで、そのホワイトチョコレートを口に運ぶ。
「カリ! 甘いわ! それにずいぶんとまろやかなのね?」
「濃厚なミルクをふんだんに使っているのね? でもそれだけではここまで白くはならないわね?」
「いったいどのような魔法を使って、このチョコレートから黒い色を抜いたのか気になるわね」
3人は色々と憶測をしながら、意見を述べていく。
「チッチッチッ! そのホワイトチョコレートは魔法を使わなくても作れるんですよ!」
私は指を横にふりつつ、魔法という言葉を否定してみる。
「魔法を使わずに、チョコレートをここまで白く変えたのかね!? いったいどんな方法でこのような色に!?」
その私の言葉を聞いたクリフォードくんが、私にそう尋ねてくる。
「申し訳ありません。製法の方は魔術学園の料理科の方で口留めされているんです」
ホワイトチョコレートの製法は、当分誰にも伝えないと約束しているので、伝えることはできないのだ。
「ああ。あの学園の・・・それでは深く追及はできないな・・・」
クリフォードくんはそれを聞くと、がっかりしたように引き下がった。
エリザベート夫人は腕を組んでため息をつき、シェリーちゃんも両手を上に向けて首を振っている。
他の2人もとても残念そうだ。
「でも今日の本題は他にあるから、そっちは期待していいですよ!」
そう言うと、次に私はバスケットに入った、沢山のクロワッサンを収納魔法で出した。
「リンネ様の新作のパン!!」
そのクロワッサンを見たメイアちゃんが、声を上げる。
「すまぬなリンネ殿。メイアは君のパンの愛好家なのだよ」
「た、大変失礼しました・・・」
クリフォードくんがメイアちゃんに代わり謝罪すると、メイアちゃんも顔を赤らめて謝罪する。
「このパンは今朝早起きをして、ビリーくんと焼いたんですよ」
「ワタシも手伝ったよ~!」
アイリンが手を上げて、自らもパン作りに参加したことを主張した。
そしてクロワッサンが、執事のおじさんによって、それぞれの皿に取り分けられていく。
「ほう? バターの香りが強いパンだな・・・」
「軽い感じがしますわね・・・」
クリフォードくんとエリザベート夫人は、まずクロワッサンを手に取ると、匂いを嗅いだり、手で触った感じを確かめだした。
「ほう! 美味いな! パリパリとして中はふわふわだ!」
「あら本当! とても美味しいわ!」
そしてクロワッサンを口に運び咀嚼すると、クリフォードくんとエイリーン夫人がそう感想を述べる。
同じくクロワッサンは、メイアちゃん達にも配られた。
クリフォードくんは、彼女らの感想も聞きたいのだろう。
「さすがリンネ様だわ。これは間違いなく今までにない新食感のパンね」
「これは来年の天使のパンに選ばれるほどのできだわ」
「そうねシェリー! これはすごいパンよ!」
3人はクロワッサンを食べた感想を、それぞれ述べていく。
この世界にもクロワッサンに似た、パイのような食べ物はあるのだが、ほぼ層がなく、硬いのだ。
なのでこのふんわりパリパリとしたクロワッサンに、彼らが衝撃を受けるのは無理もない話だ。
「このパンのレシピ、知りたいですか?」
「ちょ・・・ちょっと待ってくれリンネ殿。これほどのパンのレシピだ。エテール領の極秘事項ではないのかね?」
クリフォードくんは何か確認するように、エテール領の商業ギルド長であるエイリーン夫人の顔を見た。
「クリフォード様、その説明についてはわたくしが・・・」
ここで私に代わり、エイリーン夫人が説明をすることとなるのだ。
実はこのクロワッサンのレシピについては、クリフォードくんやメイアちゃん達には伝えてもいいことになっている。
それは今年の天使のパンの発表に、エインズワース領を巻き込んで、大々的なイベントにするためだ。
その方がエテール領にとっても、旨味が大きいようだ。
「これはどうやらエテールに、主導権を握られる形になりそうではあるな・・・。だがそのパンのレシピは、それを補って余りある価値がある」
そう言うとクリフォードくんは、エイリーン夫人と固く握手を交わすのだった。
クロワッサンのレシピは、後日ビリーくんも交えて、エインズワース領の方々に伝えることになった。
こうして今年の天使のパンの新作発表は、大領地エインズワース領も巻き込んだ、大きな祭りになることが決定した。
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