30:魔道列車の開通
現在私とリンデルは、エテールの屋敷でお世話になっている。
そんな中私は毎日パン工房に通い、ビリーくんとともに、パンの開発に励んでいたよ。
収穫としては、ついにクロワッサンが形になりはじめたことだろうか?
あとは前世で食べたあの食感に、どれだけ近付けるかというところだ。
リンデルは魔拳流道場に通い、戦闘技術をみがいたり、アイリンとともに家庭教師のもと、色々な学問や、礼儀作法を学んでいるらしい。
クマさんはその間エテール家には顔を出さず、ゴドウィン卿とともに、魔道列車の研究を進めていたようだ。
そんなクマさんがようやくエテール家に顔を出したのだ。
「エインズワース領までの道のりに、魔道列車が開通したんだが、嬢ちゃんも一緒にエインズワース領に行ってみねえか?」
そして私の前で唐突に、そんなことを口にしたのだ。
「面白そうですね。開通式でもやるんですか?」
「いいや。まだ人を大勢乗せての試運転の段階だから、開通式まではやらねえ」
どうやら魔道列車もまだ、試運転の段階のようだ。
街内にも試運転のために走らせていたが、どうやらエインズワース領に向かう魔道列車も開発していたようだ。
エテール領とエインズワース領は、お互いに身内を嫁がせるくらい、良好な関係なのだ。
ついには行き来までもが簡単に、出来るようになるようだ。
エインズワース領といえば、現在クリフォードくんが領主代行となって治めている領地だ。
チャールズのおじさんは、宰相になってからクリフォードくんに領地のことは、全て任せてしまっているのだ。
またエインズワース領には、エテール領からエリザべート夫人が嫁いでいる。
彼女には商業ギルドで、天使のパンを販売する時に、色々とお世話になったのを思い出す。
リンリン~ン! リンリン~ン! シュシュシュシュ・・・!
「おお! 魔道列車がやってきましたよ!!」
線路の上を走りベルを鳴らしながら、魔道列車が駅のフォームへと入ってくる。
その駅はもともと公共の馬車駅だったようで、所々にその名残を残しているが、急遽魔道列車の駅に仕立てたようだ。
駅にはその魔道列車を一目見ようと、多くの人々が集まっている。
エテール家の人達やその関係者も、ほぼ全員がその駅にやってきて、魔道列車を熱い視線で見つめている。
今回魔道列車に乗るのは、商業ギルド長でもあるエイリーン夫人と、私とクマさんと、リンデルとアイリンである。
その護衛や使用人も数人ずつ乗り込むので、エテール家の関係者だけでも10人はいる。
その他魔道列車の製作に携わった貴族や領民が、乗り込んで行くようだ。
「久しいなリンネ殿! 今日はこの魔道列車の試乗を、ぜひ楽しんでくれたまえ!」
魔道列車からゴドウィン卿が降りてきて、挨拶してくる。
ゴドウィン卿は職員を引き連れて、今回の試乗データをとるようだ。
「さあ乗ってくれ!! 魔道列車を出発させるぞ!!」
ゴドウィン卿がそう大声で叫ぶと、皆次々に魔道列車に乗り込んで行く。
その顔は誰もかれもが笑顔で、期待に満ち溢れていた。
魔道列車の中に入ると、まるで博物館で見た機関車の中のような、感覚を受けた。
地面や壁、天井は木で出来ており、並んでいる椅子も全て木製なのだ。
もしかしたら軽い材質を選ぶ過程で、この木になったのかもしれない。
「リンネちゃん! わたくし達の席はこっちよ!」
エイリーン夫人がキョロキョロとよそ見をして、なかなか座席についてこない私に声をかける。
見るとリンデルやアイリンは、すでにエイリーン夫人とともに座席に座り、窓の外を見ていた。
クマさんはどうやら、運転席の方へ向かったようだ。
運転手の操作の具合を見るそうだ。
リンリン~ン! リンリン~ン!
「魔道列車が出るぞ!!」
その掛け声とともに、ゆっくりと魔道列車は動き出し、徐々に速度を増していく。
「すげえ! ついに走り出したぞ!」
「リンネのヘンツサンみたいに、揺れもガタつきもないわね!」
確かにレールの上を走っているだけあって、この魔道列車にはゆれもガタつきも感じない。
まるで滑るように走っているようだ。
窓の外を見たところ、ヘンツさんくらいの速度は出ているかもしれない。
多くの人が乗り込めることと、エネルギー消費効率が良いのが、この魔道列車の優れた部分だ。
ただ線路の上を走るだけなので、自由度はないし、その大きさから考えて、小回りはヘンツさんほどきかないようだ。
しかしイーテルニル王国の人々にとって、これは交通における革新的な第一歩と言えよう。
そして魔道列車の中で、外の風景を見たり、おしゃべりをしたり、お菓子を食べながら過ごし、わずか4時間ほどでエインズワースの街が見えてきた。
「ようこそエインズワース領へ! 私はこのエインズワース領の領主代行、クリフォード・イーテ・エインズワースだ!」
エインズワースの街の駅に到着すると、駅のフォームで多くの人々と領主代行のクリフォードくんが、街に到着した皆を出迎えた。
クリフォードくんはさらにふくよかな体型となり、背も伸びて、口ひげを生やしたようだ。
その横には奥さんのエリザべート夫人もいる。
エリザべート夫人は、最初に会ったころよりは背も伸びて、大人びた印象を受ける。
若いころのアレクシア夫人に似ているが、あのころのアレクシア夫人よりは、落ち着いた印象を受ける。
「よくきたわねエイリーン。お父様とお母さまは来られなかったのね?」
「わたくしがいなくなるとアデラールが寂しがるから、義父と義母には残ってもらったのよ」
エイリーン夫人とエリザベート夫人が挨拶を交わす。
アデラールとはフェリックス伯爵とエイリーン夫人の息子である。
まだ小さいために魔道列車への乗車を見合わせ、エテール領に残してきたのだ。
エテール領の商業ギルド長であるエイリーン夫人は、今回の魔道列車への乗車を断れない事情があったようだ。
「エイリーン、元気そうでなによりだ」
「お兄様もご壮健でなによりです」
そしてクリフォードくんと、エイリーン夫人が、兄妹の抱擁を交わす。
思えば私が出会った時には、この2人は一緒にいたのだ。
とても仲の良い兄妹だったのを覚えている。
「リンネ。ずいぶんとご無沙汰だったわね。貴女はまったく変わらないから、逆に驚いているけれど・・・」
「よくこの幼い容姿の私を、私本人だと気付きましたね?」
エリザベート夫人とは、この幼い容姿で21年前にあったきりで、それから一度も会っていない。
本来なら私はもっと成長して、大人の姿になっていなければ、私本人とは特定できないはずなのだ。
「貴女の噂は、あれから色々と聞いているからね・・・」
どうやら彼女は色々な人から聞いた噂から、私を本人だと特定していたようだ。
そして21年ぶりに、エリザベート夫人と抱擁を交わす。
「貴女が無事で・・・本当に良かった・・・」
そしてエリザベート夫人は、薄っすらと目に涙を浮かべた。
ルドラの呪いの件では、エリザベート夫人にも心配をかけてしまったようだ。
彼女はエテール領にいたころも、私を妹のようにかわいがってくれていたからね。
「リンネ殿、ご無沙汰だったのは私も同じだよ。10年前の英雄的活躍については聞き及んでいるよ。君にまた会うことが出来て本当によかった」
クリフォードくんも私を心配してくれていたようだ。
クリフォードくんは私にとっては、グルメ談義で花を咲かせる、友人のような存在だ。
そのクリフォードくんとも、固く握手を交わす。
貴族同士の握手はこの国ではお互いの友情を示すのだ。
その様子を、リンデルとアイリンが、目を丸くして見ていた。
私よりも20は年上に見える彼らと、私がまるで同級生のように話している様子が、2人には不自然に映ったのかもしれない。
「リンネお前いったいいくつなんだ?」
「ええ? 女性に年齢を聞くのは失礼だよリンデル・・・」
そう言って年齢を誤魔化すと、周囲から笑いが起こった。
「リンネ殿、そちらはもしやアリスフィア女王の?」
「はい。色々とありましてね」
さすがクリフォードくんは、リンデルが王子であることを察したようだ。
お忍びか何かと思ったようで、それ以降はリンデルについて、詮索してくることはなかった。
その後は迎えの馬車に乗って、エインズワースの屋敷を目指す。
次の乗車の時間まで、エインズワースの屋敷で待たせてもらう予定なのだ。
エインズワース家の馬車はずいぶんと開発が進んでいるようで、揺れはずいぶんと改善されていた。
まあ私はわずかな揺れに敏感なので、馬車の中では土雲に乗って、浮遊していたがね。
【★クマさん重大事件です!】↓
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