28:パン工房のビリー親方
「お! あんなところにもリンネの像だ!!」
リンデルがパン工房の前の広場にある、少女の石像を見付けて、そんなことをのたまった。
現在私達は、昔私がお世話になった孤児院に来ている。
孤児院の様子はすっかり様変わりしており、孤児達に勉強を教える孤児院、孤児や住処のない人が住む集合住宅、天使のパン工房、パンを売るためのパン屋などの、様々なの建物が、そこには建てられていたのだ。
すでに孤児院と集合住宅を見学した私達は、最後にパン工房を目指していた。
現在はヘンツさんを停車して、少女の石像の前にいる。
リンデルは王都にいたころに、魔術学園の見学をしたことがあり、その時に同じような石像を目にしているようだ。
「ははは・・・。 リンデルったら。そんなにポンポンと私の石像が建てられていたら逆に怖いって・・・」
確かにこれとそっくりの私の石像を、魔術学園で見たが、この石像がまだ私の像であることは証明されていない。
だからこの石像が私の石像とは限らない。
「確かこの石像は、天使のパンの製法を孤児達に伝えた少女の像だったと記憶しているわ。昔エテール領で、天使のパンを広めたのは、リンネちゃんだと聞いていたけれど?」
するとエイリーン夫人が、そう説明してきた。
どうやらあの石像は、私で間違いないようだ・・・。
「へ~・・。リンネの石像って、あちこちにあるのね?」
そんなことを言いつつ、私をジト目で見るアイリン。
「ハハハ。たまたまだよ。たまたま・・・・」
私は誤魔化すように笑いながら、そう答えた。
うどん村にも同じような像があることは、黙っておこう・・・。
「これはエイリーン夫人! ようこそおいでくださいました!」
そんな会話をしていると、ごっつい髭面のおじさんが、パン工房から出てきた。
「ごめんなさいね。騒がしかったかしら?」
「いえ!! そんな!! めっそうもございません!!」
エイリーン夫人のその謝罪を、焦ったように否定する髭面のおじさん。
「こちらパン工房の工房長のビリーよ。皆親方ってよんでいるわね?」
ふぁ? もしかしてこのおじさんはあのビリーくん?
確かビリーくんはエテールの街のパン工房の、親方になったと聞いている。
なら目の前のおじさんがビリーくんなのは間違いないだろう。
「今日はアイリンお嬢様とご一緒ですか? 他のお子様方はどこの坊ちゃんやお嬢様で?」
「やだわビリー親方。その少年はともかく、そこにいる少女は、貴方の尊敬して止まないリンネちゃんよ?」
「リ、リリリリリ、リンネ様だって!?」
エイリーン夫人が私のことを紹介すると、ビリーくんは目が飛び出さんばかりに驚愕した。
「か、変わらないとは噂に聞いていたが・・・まさかここまでとは・・・さすがリンネ様だな・・・」
何がさすがなのかはわからないが、そう言いつつビリーくんは、私の顔をまじまじと見た。
「ビリーくんは変わったね。髭も生やしたし、なんだか貫禄が出たね」
「ま、まあそりゃあそうでさあ! これでも家庭をもつ3児の親でございますからな!」
どうやらビリーくんは、同じ孤児院にいた、3つ下のメリーヌちゃんと結婚し、3児のパパとなっているようだ。幸せなようでなによりだね。
まあそのメリーヌちゃんについては、残念ながら記憶には残っていないが・・・。
「私にも息子がいるんだよ。ほら、このリンデル・・・」
私も負けじと、息子のリンデルを紹介する。
「む、息子でごぜえますか・・・それはようござんした・・・」
するとビリーくんは、なぜか目を泳がせながらそう口にした。
こいつ信じちゃいねぇ~な!
「コーリーちゃんとシェリーちゃんはいないんだよね?」
「ああ。あの2人は他領にいっちまいましたからね」
同じくビリーくんと天使のパンを作っていたコーリーちゃんとシェリーちゃんは、今はエインズワース領に行ってしまい、エテールの街にはいないのだ。
なんでもあの頃から天使のパンを作り続けていた孤児達のほとんどが、他領へ引き抜かれたりして、このエテール領から出ているそうだ。
「で? 今日は工房の見学か何かで?」
「ふっふ~ん! それもあるけどね・・・実は新しい味を届けにきたんだよ!」
「新しい味ですかい?」
私がそう得意げに言うと、ビリーくんはなにやら思案を巡らせ始める。
「もしかしてそいつぁ・・・カレーとかチョコレートのことですかい?」
おや? もしかしたらすでにカレーやチョコは広まっているのか?
いや・・・王都にいる間に、カレーやチョコが広まっている様子など一度も耳にしなかったが?
「英雄の演劇では、有名な話でさあ。リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーが王族に振舞った伝説級の料理・・・。カレーとチョコレートといえば、有名な料理ですからねえ」
確かにあの劇ではあのカレーやチョコが、黄金色の奇跡の料理みたいに描かれていた記憶がある。
「それじゃあカレーやチョコレートはすでに体験済みなの?」
「はは! まさか・・・。確かにそのカレーやチョコレートを、一部の貴族や王族が口にした話は聞きやすが、おいそれと平民の俺の口に入ることはありやせん」
あれから18年も経つのに、いまだにカレーやチョコレートは、一部の貴族にしか広まっていないようだ。
まあ見せたいのはホワイトチョコレートだったのだが、カレーや普通のチョコを知らないなら、ご馳走してあげてもいいかもしれない。
「あら? ビリーは天使のパンや、ウスターソースを広めた功績を認められて、騎士爵を与えられていたはずでしょ? 確かルゴー家だったかしら?」
「はは・・・。どうもその爵位とやらになじめませんで、今でも自分を平民だと意識しちまっているところがあるんでさあ・・・」
どうやらビリーくんは、功績を認められて貴族になっていたようだ。
騎士爵といえば一代限りの末端の爵位だが、貴族には間違いない。
たしか騎士爵は村長くらいには偉かったはずだ。
そんな騎士爵になれるなんて、ビリーくんは頑張ったんだね。
「で・・・もしかして、そのカレーとチョコレートをお持ちで?」
私が1人でそんな感傷にひたっていると、ビリーくんが期待を込めて私に尋ねてくる。
「もちろんカレーもチョコレートもあるよ。でも今日はそれよりもさらに新しいものもあるんだ」
「かあ~! また何か新しい味を作り上げちまったんですかい!?」
ビリーくんは私の話を聞いて、驚いたような呆れたような、それでいて悔しそうな表情をした。
「なになに!? リンネ、あのチョコレートを持っているの!?」
「チョコレートならオレも食べたいぞ!!」
そしてアイリンとリンデルがチョコの話に食いつく。
「まあまあ。カレーとチョコレートは、パン工房の見学の後にいただきましょう?」
するとエイリーン夫人が、2人をなだめるようにそう口にした。
そしてビリーくんの案内で、まずはパン工房見学をすることになった。
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