25:エテールの魔拳流道場
翌朝私達は、エイリーン夫人を伴って、ヘンツさんでエテールの街にあるという魔拳流の道場にやってきた。
それはエマちゃんの家にお泊りしているという、アイリンを迎えに行くためである。
エイリーン夫人の他には、クマさんとリンデル、お世話役のメイドが1人ついてきている。
どうやらこの魔拳流の道場が、エマちゃんの家のようだ。
もうちょっとしたお屋敷だね。
「これはエイリーン夫人。アイリンお嬢様のお迎えですね?」
私達が屋敷の前に行くと、ごつい感じのゴリラ顔のおじさんが、応対してくれた。
彼はこの道場の門番でもしているのだろうか?
「どうぞ。このまま訓練場までお進みください・・・」
彼が指し示す玄関から入って左側を見ると、そこは訓練場のような庭につながる通路になっているようだ。
「「えいや! えいや!」」
その通路から開け放たれた部分から庭が見えて、朝から鍛錬に励む、門下生達の姿が見えた。
「まあエイリーン様、リンネ様、クマジロウ様とリンデル坊ちゃまも一緒なのね。」
訓練場に行くとエマちゃんが出迎えてくれた。
ちなみにエマちゃんは、メイドのお姉さんとも、無言だが笑顔の会釈を交わしていた。
「アイリンを迎えに来たのですが、今はどちらに?」
「アイリンは今、大人に混ざって早朝稽古の最中ですわ」
エマちゃんが指し示す方向を見ると、確かに大人に混ざって稽古を行う、アイリンの姿が見えた。
「今朝は礼儀作法の練習をすると伝えておいたのに・・・」
エイリーン夫人は、そんなアイリンを少し不貞腐れた様子で見た。
どうやらアイリンは、礼儀作法の練習から逃れるために、この稽古に参加しているようだ。
リンデルもそうだが、アイリンも礼儀作法の練習が嫌いなんだね。
「あらおかあさま・・・それに3人とも来ていたのね? リンネにリンデルに・・・聖獣様だったかしら?」
ひとしきり稽古が終わると、アイリンはこちらに挨拶にやってきた。
「クマジロウでいい・・・」
「それじゃあクマジロウってよぶわね」
どうやらアイリンのクマさんへのよびかたも、『クマジロウ』で定着しそうだ。
「アイリン! 貴女今朝は礼儀作法の練習だったはずよ!」
「今日くらい良いじゃないおかあさん! ほら、お客様も来ているし!」
そう言うとアイリンは、エイリーン夫人から逃げるように、訓練場の端に駆けていった。
「ちょっと! そんなところにいないで来なさいよ! 今から組手をやるんだから!」
「組手か? 面白そうだな!」
アイリンがそう叫ぶと、リンデルもつられて駆けていく。
私とクマさんも、その後に続いて歩いていく。
エマちゃんとエイリーン夫人も、世間話に花を咲かせながらその後についてくる。
どうやらあの隅の方で、組手の様子を見学するようだ。
「オレも実は剣術をやるんだぜ?」
そう言いつつリンデルも、木剣を収納ポーチから取り出す。
すでに自分も組手に加わる気満々のようだ。
「あら面白い。誰か相手をさせましょうか? 木剣なら使ってかまわないわよ」
「ならあのでっかいので・・・」
リンデルが指名したのは、先ほど道場の門番をしていた、大柄でゴリラ顔の屈強な男だった。
リンデルはああ見えても、その辺の大人では、全く歯が立たないほど強いようだ。
そしてリンデルと、大柄の男が向かい合う。
「本当に大丈夫!?」
アイリンはリンデルに、そう大声で尋ねる。
リンデルは落ち着いた様子で、無言で手を振りながらそれに答えた。
「本当に大丈夫かしら?」
「リンデルはああ見えても強いんですよ。王都ではアルフォンス最高騎士団長に鍛えてもらっていましたから・・・」
「え? まじで!? 彼奴おじさまに鍛えてもらっていたの!?」
そういえばアイリンはエテール家の一員だったね。
ならアルフォンスくんは、叔父さんにあたるわけだ。
ならあのアルフォンスくんの強さも知っているはずだ。
組手は4組一度に行い、他の門下生は見学に回るようだ。
これを何本か相手を替えて、繰り返していくのだろう。
ドムンッ!!
「ぐあっ!!!」
そして勝負は一瞬でついた。
大柄の男の手加減した拳の1撃を、躱したリンデルは、強烈な突きで反撃して、大柄の男を吹き飛ばしたのだ。
その様子を周囲の門下生達は動きを止め、驚愕の表情で見ていた。
「へえ~・・・。さすがおじさまの弟子なだけあるわね・・・」
そう言うとアイリンは、リンデルの前に出てきてゆっくりと構えをとった。
今度は自分が相手をするということなのだろう。
「なんだ~お前? 怪我しても知らねえぞ?」
リンデルはそんなアイリンに、木剣を向けながらそう口にする。
「貴方もね・・・」
ズバン!!
そういうとアイリンは、瞬時にリンデルに詰め寄り、前蹴りを抜き放った。
リンデルは上手くその1撃を躱したようだ。
この組手の順番は、どうなっているのだろうか?
もしかして割り込み自由なのだろうか?
バシン!! ドドド!! ドパン!!
その後もリンデルとアイリンの激しい攻防が続く。
リンデルの一文字の胴打ちを、アイリンが回転するように躱すと、そのまま回し蹴り、正拳突きの連打が襲い掛かる。
だがそのどれもを、紙一重で躱すリンデル。
「すごいわねあの子! さすがアリスフィア殿下のお子だわ!」
その子供ならざる激しい組手を見て、エマちゃんが興奮気味に口にした。
あまり戦闘に興味なさげなエイリーン夫人は、その様子をおろおろと見ている。
クマさんはその組手の様子をただ腕を組み、黙って真剣に見ているのみだ。
こんなクマさんは久しぶりに見る。
聖獣にとって彼らの成長は、少なからず気になるものなのかもしれない。
あのアイリンという娘は、すでに身体強化が使いこなせているようだ。
その証拠に、あの怪力で定評だったリンデルの1撃にも、まったく動じた様子もない。
それになによりあの動きは、ただの子供の動きではない。
まるでカンフー映画でも見ているようだ。
ただその勝負は、あっけなく幕を下ろした。
「ぐあ!!」
ドピュゥゥ~!!
なんとリンデルが攻撃を受け止めていたにもかかわらず、大きく仰け反って吹き飛んだのだ。
そして無様に地面を転がり、仰向けに倒れた。
あれは魔拳流の内魔衝?
内魔衝は防御の上から、魔力で相手に1撃を与える内部攻撃だ。
だがあれとは少し違う気がする。この気配・・・風魔法か?
まさかアイリンはリンデル同様に、あの歳で魔法が使えるというのか!?
「ずっりい!! 今の風魔法だろ!?」
その突然の魔法攻撃に、リンデルが座り込みながらアイリンに抗議する。
「魔拳流の組手に、魔法を使ってはいけないというルールはないわよ!」
どうやら私の子供達は、普通の子供とは違い、低年齢で魔法の行使が可能のようだ。
「はあ~・・・。あの子最近わたくし以外には、負けたことがないのですよ。すっかり天狗になっちゃって、困ったものね・・・」
エマちゃんは困ったように頬に手をやり、ため息をつく。
「じゃあ次は私がやろうか?」
そんなエマちゃんの様子を見て、私はそう答えていた。
【★クマさん重大事件です!】↓
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