21:ディナーとモンブラン
「今夜のお食事はこちらになります」
食堂に行き席に付くと、さっそく食事が運び込まれ、テーブルに並べられていく。
「おお! すげえご馳走!」
リンデルがそのご馳走に大喜びだ。
王族であるリンデルならば、これくらいは普通に食べていると思われがちだが、女王であるアリスちゃんは、食事に関しては少し厳しいのだ。
お客さんが来れば見栄を張るために、それなりの食事を用意しているようだが、普段はあまり贅を凝らしたような食事は控えているようだ。
国民の税金で食べている意識をもち、リンデルが贅沢な大人に、育たないようにとの計らいのようだ。
そして今夜の食事の内容は次のとおりだ。
緑のスープに、茹でタコのカルパッチョ、巨大なムール貝のワイン蒸しに、メインは分厚く切ったビッグオストリッチのステーキだ。
それにふわふわのロールパンがつくのだ。
デザートがないのが少し気になるが、必要であればあとで追加注文すればいいだけだ。
「美味い! この肉もパンも最高だ!」
リンデルは左手で持ったパンにかぶりつき、右手にはフォークに刺したステーキにそのままかぶりついている。
「リンデル・・・貴方は王族なんだし、人に見られる立場の人だからね。これからはマナーも勉強しないと・・・」
私はそんなリンデルのマナーについて注意する。
「うるせえな! リンネまで母ちゃんみたいなこと言うなよ!」
するとリンデルはそう言い返してきた。
まあマナーは少しづつ教えればいいだろう。手本はすぐ隣にもいることだし。
私はそんなことを思いながら、クマさんの綺麗な所作を見る。
「このスープ・・・枝豆?」
私が最初に口に運んだのは緑のスープだ。
このスープは枝豆のような穀物をすりつぶし、クリームを加えてあるのだろう。
豆好きのエルフらしいスープだ。
枝豆と、ミルクの風味がよく合って美味い。
「はむ・・・・むぐむぐ」
ここでふわふわのロールパンを口に運ぶ。
外はカリカリで、中はふんわりと柔らかい。
次はこのカルパッチョだ。
まさかこの国で茹でタコにお目にかかるとは思わなかった。
「しゃくしゃく・・・・」
スライスした茹でタコの食感と、様々な野菜の食感が合わさり心地いい。
ドレッシングはオレンジとオリーブを合わせたもののようだ。
とてもこのカルパッチョに合っている。
次に私が目にしたのは、その巨大なムール貝だった。
大きさは私の手の平の3倍近くあるだろうか?
黒々とした光沢のある貝殻が、その存在感をさらに主張している。
匂いはトマトと香草がまじったような感じだ。
さっそくそのムール貝をナイフで切り、フォークで刺して口に運ぶ。
「むにむに・・・」
口に含むと生臭さはなく、そのわずかな香りから、ワイン蒸しであることがわかる。
トマトを小さく刻んだものと、少し苦みのある香草がそのムール貝特有の味をさらに引き立てている。
最後に分厚いビッグオストリッチのステーキに取り掛かる。
ビッグオストリッチの肉は、赤身の牛肉に近い味がするのだ。
大きい固体で6メートルはあるので、それなりに分厚いステーキにすることができるのだろう。
ギシギシ・・・
「はむ! もにゅもにゅ・・・」
表面はこんがりと焼けて香ばしい。
中は分厚いわりに柔らかく、私の弱い顎でも簡単に噛みちぎれた。
上にかかっているソースは、肉や骨の出汁を赤ワインに合わせて、素材の油や塩で味を調えた赤ワインソースであることは間違いない。
この赤身の肉と赤ワインソースの組み合わせが、口の中で絶妙な味のハーモニーを奏でる。美味い!
「さて・・・次はデザートでも・・・」
次はデザートでも頼もうと、水を一口口に含む。
「シェフが貴女様にぜひとも会いたいと申しております・・・」
するとそのタイミングで、そんなことを伝えにホールスタッフがやって来た。
こんなやり取り以前にもあったな?
「お久しぶりでございますリンネ様・・・」
そしてやって来たのは、コック服に身を包む、エルフのアラグノールだった。
なんでも言葉使いは、ラッセルさんが教育しなおした結果のようだ。
まあ一流宿だし接客商売だから、言葉使いについては、仕方ないのかもしれないけどね。
アラグノールは口調も変わり、口ひげを生やし、以前の面影がまるでない。
かろうじて昔のままなのは、髪の色と、その顔立ちくらいだろうか。
「まずはこの世界を救っていただいたこと、感謝いたします」
どこからその情報を得たのか、アラグノールは恭しく、そうお礼を述べてきた。
情報源はファロスリエさんかな?
「ほう? それだけでこちらに顔を出したわけではないのでしょう?」
私は何か意味ありげに、アラグノールにそう尋ねる。
「もちろんでございます」
アラグノールは口角を上げてそう返してきた。
ピン!
「例の物をお願いします!」
アラグノールが指を鳴らし、そう指示すると、ホールスタッフが何やらケーキののったワゴンを運んできた。
「こちら本日のデザートになります・・・」
やはりそういうことか・・・
アラグノールがホールスタッフに運ばせたのは、クリームケーキの乗ったワゴンだった。
それはもう10年以上前に、この宿に食事に来た時のことだ。
彼は以前も同じように、デザートだけを別に、食事が終わると同時に私の席へ持って来たのだ。
その時に彼が出したデザートが、栗アンのアンパンだ。
ただその時の食感が若干気になり、栗にクリームを混ぜてみてはと、提案したことがあったのだ。
目の前のデザートは、あの時のリベンジのつもりなんかもしれない。
まさか10年以上もそのことを引きずっていたとは・・・。
彼が出したデザートは、こんもりと生クリームがのった、クリームケーキだ。
まさにその見た目は、生クリームの塊と言ってもいい。
今回はパンにこだわらず、ケーキとして出してきたようだ。
きっとこの生クリームの中に、何か工夫がされているのだろう。
「それではいただきます。はむ・・・」
皆が見守る中、私はその生クリームにスプーンを差し込み、口に運んだ。
そのクリームは口当たりもよく滑らかだ。
中に入っている黄色い部分は、栗のペーストのようだ。
この生クリームと栗の相性は抜群だ。
だが私的にはもうひと手間足りないような、そんな気がしたのだ。
「このケーキに、もうひと手間加えてみてもいいですか?」
「構いませんが・・・いったいどのようにするつもりですか?」
「まあ見ていてくださいよ」
私は困惑顔のアラグノールに、笑顔でそう返した。
私はクリームと栗のペーストを同じ分量ずつケーキからとると、その2つを魔法で浮かべた。
そしてその2つを混ぜ合わせ、マロンクリームを作り上げる。
にゅるにゅる・・・
最後にマロンクリームを、クリーム絞り器で押し出すのだ。
絞り器の口金の形は、もちろん無数に穴の開いた、例の口金だ。
それを皿の上に残したクリームケーキの上に、芸術的にかけていくのだ。
そこに顕現していたのは、あのモンブランだった。
「おお! 美しい!」
アラグノールがそのモンブランに大興奮する。
「オイラの白いのも同じようにしてくれ」
「オレのも頼むぜ!」
するとクマさんとリンデルも、自分のケーキをモンブランにしてくれと要求してきた。
にゅるにゅる・・・
「はい、完成!」
仕方なく2人のケーキも、モンブランに変えて差し上げた。
「見た目だけでも味の印象は随分と変わるものだな?」
「本当だ! さっきと全然違う!」
2人はさっそくそのモンブランを食べ始めた。
私もモンブランを一口口にふくむ。
「むぐむぐ・・・・」
表面の粘りのあるマロンクリームに、中の口溶けのよい生クリームが合わさり、食感に複雑さが出たような感じだ。
栗の風味も心なしか、先ほどよりも強く感じられた。
先ほどの生クリームの塊でも悪くはないが、今の私の気分はこっちかな?
「そ、その口金があれば、そのような飾り付けができるのか!?」
興奮のためか、アラグノールの口調は昔の口調にもどっている。
「ええ。この口金、モンブラン口金っていうんですよ」
そう。この口金はモンブランを造るための口金で、モンブラン口金と名付けられているのだ。
もちろんこの異世界には、存在しないものだけどね。
「よろしければ差し上げますよ」
私はそう言うと、モンブラン口金を浮遊させて、アラグノールの手の平にのせた。
「あ、ありがたい! さっそくいくつか師匠と飾り付けを試さねば!」
モンブラン口金を受け取ったアラグノールは、さっそく色々試すために、調理場へと消えていった。
まあその後クマさんとリンデルは部屋に戻ったが、私は厨房へ行き、料理がてら、料理人達と料理談義に花を咲かせたんだけどね。
口金もいくつか造って披露したが、先ほどのモンブラン口金も合わせて、全て彼らが買い取ってくれたよ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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