05:黒髪の少年
その日再び私は、王都に帰ってきた。
エルフの村から乗ってきたジャイロさんを野営地に着陸させて、収納魔法で収納し、そこからトテトテと歩いて、王都の関所へと向かう。
「また嬢ちゃんがノロノロ歩いてからに!」
横でわざわざ私の速さに合わせて歩いているクマさんが、何か言っているが気にしない。幼女の歩みは遅いものなのだ。
そして関所の前に来ると、商人や旅人が列をつくり、ごったがえしていた。
私はその列の最後尾にしれっと並ぶ。
「嬢ちゃんは貴族だろ? 貴族側の入り口に並ばなくてもいいのか?」
クマさんが言うように、貴族である私は、関所でも貴族の通り口に並ぶのが普通なのだ。
しかし私が並んだのは、平民の並ぶ通常の通り口だ。
「あっち側に並ぶと、そのまま王宮に連行されそうで怖いんですよね・・・」
10年も留守にしたのだ。
国王はもちろん、アリスちゃんや皆も心配しているはずだ。
そんな中私がいきなり帰還したとなると、大騒ぎになることは間違いないのだ。
そしてきっと衛兵にバレれば、王宮に連行されるに違いない。
それに10年もご無沙汰だと、今更どんな顔で皆に会っていいかわからなくなる。
「はあ~・・・。嬢ちゃんも面倒な性格してるな・・・」
クマさんがため息をつきながら、そんなことを呟いた。
「あれ? お嬢ちゃん1人だけ? その子熊はお嬢ちゃんの従魔? お父さんかお母さんはいないの?」
私の順番がくると、見慣れない衛兵のお兄さんに、さっそくそんなことを聞かれた。
やはりこちらの事情を知らない相手には、見た目幼女の私には、かなりやりにくいのだと痛感する。
「あの・・・父が急病ですので・・・」
とりあえず存在しない父親をでっち上げて、適当に言い訳してみた。
「親父さんが急病なのかい? それは大変だったね? 通行税はその従魔と合わせて銅貨15枚だけど、払えるかな?」
すると衛兵のお兄さんは、勝手に何かを解釈して悟り、通行税を求めてきた。
これでなんとか上手く乗り切れそうだ。
ジャラ・・・
私はすかさず銅貨15枚を出して、衛兵のお兄さんの差し出した木の器に入れる。
そして間髪入れず身体強化を使って、スルスルと関所をすり抜けていく。
「オイラ、嬢ちゃんがたまにわからなくなるぜ・・・」
クマさんはそんなことを言うが、長年音沙汰のなかった昔の仲間に会うのには、心の準備が必要なのだ。
ひさびさの王都は、ほとんど昔と変わらない様子だ。
見覚えのある建築物が、あちこちに立ち並び、10年も経っていることが嘘のようだ。
見るとあちこちで工事はしているようだが、建物の様式が変わらなければ、そこまでの変化は感じられないのかもしれない。
「どうするんだ嬢ちゃん? とりあえずエテールの屋敷にでも行くか? まだエテールの屋敷が王都にあればだがな・・・」
「う~ん・・・・。まだ心の整理がつかないんですよね・・・。しばらくそこらで屋台でも出しながら、考えようと思います」
懐かしいあのエテールの屋敷には行ってみたい気もするが、やはり昔の仲間に会うのが、どうにも億劫なのだ。
「じゃあ次は商業ギルドだな・・・」
そして私は屋台を出す許可をもらうために、商業ギルドを目指したのだった。
ジャ! ジャ! ジュ~~~・・・
「焼きそば3パックね!? そっちは何!?」
あれから1週間が経った。
相変わらず私の屋台の前には、長蛇の行列が出来て大忙しだ。
ひさびさにガチャポンくんも全部出してフル稼働だ。
「なあ嬢ちゃん? いつになったら皆に会いに行くんだ?」
するとカウンター席に腰かけているクマさんが、核心に触れてくる。
ジュジュ~・・・
「か、覚悟が・・・なかなか決まらないんです・・・」
私は追加注文の焼きそばを焼きつつ、目をそらしながらそう返した。
「まったく煮え切らねえな嬢ちゃんは・・・・。オイラその辺散歩でもしてくるぜ」
私のその態度に呆れたのか、クマさんは建物の屋根に向けて、飛んで行ってしまった。
「次の人は何!?」
「タコヤキ2パック頼む!!」
私はその現実から逃げるように、休む間もなく次の注文を受けるのだった。
第三人称視点~
クマジロウがリンネの屋台から飛び去った理由は、気になっていたある魔力の気配が、接近してきていたためである。
その魔力の気配は、何やら懐かしいような身近な感じのする、またそのどれでもないような、曖昧で、初めて感じる魔力の波動だった。
だがクマジロウには、その魔力の気配に覚えがあった。
「お前アリスの子供か?」
クマジロウが見る先には、短髪で黒髪の少年がいた。
その少年はクマジロウと同じように、屋根の上をつたって移動していたのだ。
少年の魔力は、あのアリスフィアに似ていたのだ。
そのためクマジロウは少年にそう尋ねた。
「アリスって誰だ?」
アリスという呼び名では、少年には伝わらないようだ。
クマジロウに声をかけられた少年は足を止め、クマジロウに言葉を返す。
「アリスじゃあわかんなかったか? それじゃあアリスフィアはお前の母ちゃんか?」
クマジロウは再び少年に、言葉を変えて同じ問いかけをする。
「そうだぜ。お前オレの母ちゃんを知っているのか?」
「まあな。昔色々と世話をしたことがあってな。」
「じゃあもしかしてお前が聖獣か? 母ちゃんが言っていたんだ。子熊の姿で、まるで人間のように流暢に言葉を話す獣は聖獣だって・・・」
少年は母親に、聖獣についての話を聞かされていた。
それはしゃべる獣、聖獣との冒険の話であった。
そして少年はあのアリスフィア女王の息子であったのだ。
「おう! オイラ、聖獣のクマジロウってんだ。お前は?」
「オレはリンデルだ。聖獣に会えるなんて今日は運がいいぜ! 母ちゃんに自慢話が出来る!」
リンデルはクマジロウに会えたことをとても喜んでいた。
そしてクマジロウとリンデルは、お互いにとても打ち解けた様子だった。
「お前、腹減ってねえか?」
「えっと・・・さっき食べてきた・・・」
ぐうぅぅぅ~・・・
しかしリンデルの答えとは裏腹に、腹の虫が泣き始める。
「育ち盛りだからな。腹もすぐに減るだろ? 丁度近くに美味い屋台があるんだ。良かったら一緒にどうだ?」
「いや・・・。オレお金持っていないし・・・」
「安心しろ! オイラの奢りだ!」
クマジロウはニカッと笑みを浮かべながらそう口にした。
リンネ視点~
「嬢ちゃん、客連れてきたぜ!」
お客さんも途絶え、私が屋台の奥で寛いでいると、悪い笑顔をしたクマさんが帰ってきた。
いったい今度は何を企んでいるというのだろうか?
「早かったですね。いったいどこに行っていたんです?」
カウンターに戻り、客席の方をのぞき込むと、クマさんが見知らぬ男の子を連れて来ていた。
男の子は黒髪で、どこか顔立ちが、アリスちゃんの幼いころに似ていた。
「君どこの子? 黒髪なんて珍しいね?」
ここらで黒髪は珍しい。
街を歩いていても、めったに見かけないくらいだ。
「ん? この髪か? 確か親父の髪の色が黒だって聞いていたかな? そんなに珍しいか? お前だって黒髪じゃないか」
そう言えば私の髪の色も黒だった。
そう思うと目の前の男の子には、親近感がわいてくる。
「嬢ちゃん、オイラとこいつにヤキソバを1つずつ頼む! お代はオイラのつけにしといてくれ!」
「クマさんの奢りなら無料でいいですよ」
クマさんには随分とお世話になっているし、私の我がままで食材を手に入れると、全部私に譲ってくれるのだ。
こんな時くらいその恩返しをさせてほしい。
ジャ! ジャ! ジュ~~~!
「お前チビなのにすごいな! まるで屋台のおじさんみたいだ!」
私のヘラ捌きのテクを見て、少年が興奮気味にそう語る。
屋台のおじさん? それは誉めているのだろうか? 貶しているのだろうか?
「君、名前は?」
「あん? オレか? オレはリンデルってんだ!」
少年は胸を張り、得意げにそう名乗った。
「私はリンネ! この屋台の主人だよ!」
「ええ!? うっそだろ!? なんでそんなチビなのに屋台なんてやってんだ!?」
「え? 楽しいから?」
「お前変わってんな・・・」
なんで屋台をしているかと聞かれたら、楽しいからとしか言いようがない。
それなのになぜか変な奴扱いされてしまった。
「はいお待ちど~う! 焼きそば2皿ね!」
私はお皿に焼きそばをよそって、カウンター席に座るクマさんとリンデルに渡す。
「むぐむぐ・・・。さすが嬢ちゃんのヤキソバは美味いな」
クマさんはフォークを使い、綺麗な所作で焼きそばを食べている。
「美味! なんだこのパスタ!?」
ん? パスタ? 王都には焼きそばがなかったかな?
確か何度か作り方を聞かれて、教えた記憶はあるんだけど?
「リンデルはヤキソバは初めてだったか?」
「おう! 初めてだぜ! ヤキソバっていうのかこれ!」
もしかして焼きそばは、この10年ほどで王都から忘れられている可能性があるね。
それとも焼うどんの方が有名になりすぎて、あまり広まらなかったのか?
「ご馳走様! ヤキソバ美味かった! じゃあな!」
そう言うとリンデルは、建物の屋根に飛んで行った。
まるで猿のような動きだ。身体強化でも使っているのかな?
年齢は7~8歳くらいだろうか?
あの年であれくらいの身体強化を使えるのは、すごいことなのだろう。
いったい彼は何者なのだろうか?
「オイラ、リンデルを送っていくぜ!」
そういうとクマさんも、建物の屋根に飛んでいき、ピョンピョンと跳ねながら、リンデルという少年を追いかけていった。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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