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9話 バグ

井戸首を連れてきた俺達は一旦狐霧さんに断りを入れて井戸首をお風呂に入れた。


「湯加減はどうだ?」

「ええ、悪くないわ。」


案の定三年間も放置されていた汚れがドバドバ出てきた。


石や砂利、泥に垢。

見た目ではそんなに汚れは目立って無かったが、三年間でかなりの量溜まっていたらしい。


「悪いな狐霧さん。お風呂をこんなに汚しちまって。」

「構いませんよぉ。同じ境遇の仲間ですしぃ、困った時はお互い様ですよぉ。ご飯はもう少しで出来上がりますからそれまでゆっくりお風呂に浸からせてあげて下さいぃ。」


…やっぱりこの人天使だわ。

この人が大家さんで良かった…。


取り敢えず、井戸首の体(頭)は完全に綺麗に洗い終わった。

次は飯だ。


「暖かいシチューを作ってみましたぁ。熱いので気を付けてくださいねぇ。」


狐霧さんはお皿にシチューをよそって井戸首に差し出す。


「…。」


しかし。井戸首は差し出されたシチューをじっと見つめて、一向に食べようとしない。


「どうした?食べないのか?」

「見て分からないの?食べれないのよ。手足も無いから。」


ああ…。

そうだったな。

食べさせてあげないと、自分で食えないのか、


「すまん忘れてた、今食わせてやるからな。」

「ちゃんと冷ましなさいよ?」

「はいはい。」


ふうふうしても良いが、効率が悪いな。

ここは時間操作の魔法でいい感じに覚める状態までシチューの時間だけを進めよう。


俺は魔法を発動し、シチューをいい感じに冷ます。


「はい、いい感じに冷めたぞ。」

「何今の?」

「魔法だ。」

「魔法…ステータスが発現した時からもしかしてって思ったけど…やっぱりあるのね。」


感心したように井戸首はそう呟く。


そう言えば、コイツ3年間ずっとダンジョンのすぐ側で放置されていたんだよな。

て言うことは、まともにモンスターと戦ったこともなければスキルも使ったことないのか…。


それどころか多分この世界の常識も知らないだろう。

俺も3年間ダンジョンに篭ってたせいで、世間に置いてかれてたからな…。

気持ちは痛い程分かる。


「お前、今の世界の状況良く分かってないだろ?」

「ええ、そりゃ3年間放置状態だったもの…。」

「飯食い終わったら、俺が知ってる限りの常識を教えてやるよ。」

「…そうね。情報は貴重だもの。有り難く教示させて貰うわ。」


まあ、俺が知ってることなんてたかが知れているが、何も知らないよりはマシだろう。


しかし…。


「ちょっと待って。それよりも先に話したいことがあるの。」


帝から突然、待ったが入った。

そう言えば、狐霧さんの家に来る前にそんなことを言っていたな。


「何だ?話したいことって。」

「それは葡蘭ちゃんがご飯を食べ終わってから話すよ。」

「おう、分かった。」


取りあえず一旦シチューを井戸首に食べさせる。


「うん…悪くないわね。」

「お口に合ったようで何よりですぅ。」


美味しかったのならそれでなによりなのだが、このシチューは何処に入ってるんだ?


体が無いなら首の下から出てきたりしないのだろうか?


少し気になり俺は井戸首を持ち上げて首の下を確認する。


「気安く触らないで貰えるかしら!」

「…シチューは出てきてない。一体何処に消えた?」

「どこでも良いでしょ!早く下ろしなさい!」


俺は言われた通りに井戸首をテーブルの上に下ろす。


…謎だ。

井戸首が食べたシチューが消えた。

そもそも、体が無いのに腹が減るってどういう理屈なんだ?

別の空間に体があるとか?

でも、それだと3年間何も食わずに生きていけた事への説明がつかない。


その様な下らない考え事に夢中に成りながら、俺は井戸首にどんどんシチューを食べさせる。


井戸首の口にシチューを入れたらまたもう一杯スプーンで掬って口に突っ込み、更にまたスプーンで掬って口に突っ込む。

井戸首の口の中にシチューが残っていても構わずシチューを入れ続ける。


「理守さん、もう少しゆっくり食べさせて上げてくださいぃ。葡蘭ちゃんが苦しそうですぅ。」


狐霧さんに言われてはっとする。

…考え事をしていてついペースが早くなってしまった。


「すまない、井戸首。」

「んぐっ!おほえへなはいよ…。」


そんなこんなで井戸首の3年ぶりの食事が終わり、待ちに待った帝の話である。


「それで、帝。話って何だ?」

「理守さん、狐霧さん、葡蘭ちゃんの共通点…三人の体に起きてる現象が何なのか…それとその原因も分かった。」


「「「え?」」」


帝以外の全員の声が重なった。

俺達の体に起きたこの現象が何か分かっただと?


「一体何なんだ?」

「多分…バグだと思う。」


「「「バグ?」」」


バグって言うと、良くゲームに起こる不具合の事だよな?

裏世界に行ったり、データが消えたりみたいな。


「何よそれ、バグってゲームじゃないんだから…。」

「ゲームみたいなものでしょ。今の世界もステータスとかスキルがあるわけだし。」


井戸首の疑心的な言葉を帝は直ぐに論破する。


…俺にはステータスは無いが、確かにゲームみたいだな…。

ダンジョンとかファンタジーな物があるわけだし。


「じゃあよ。そのバグが起きた原因は何だ?」

「多分…ステータス発現時と同時に高ランクダンジョンが直ぐ側に出現したからだと思う。」

「ダンジョンが出現?何か関係あるのか?」

「ゲームでも、オープンワールドとかでマップが広かったり、モンスターやキャラクターの作り込みやグラフィックが細かかったり、あと配置されている宝箱やアイテムの数が多いと処理落ちするリスクが大きくなるの。A以上の高ランクダンジョンの階層数は100以上、モンスターのランクもレベルもかなり高い。今のこの世界をゲームの世界だと見立てた場合、高ランクダンジョンは世界にとって存在するだけで処理落ちを引き起こす程に重い物だと考えることが出来る。それこそ偶々出現場所の近くにいた人の体をバグらせる程に。」


うーん…。

言っていることはなんとなく分かった。

バグねえ…。


確かに…。

俺の性別が急に変わって、俺だけステータスが発現しなかったり、狐霧さんの頭と腰に狐耳と尻尾が生えて、人間の耳もそのまま残っていたり、井戸首の体が無くなったりと、バグみたいな事が起きているのは事実であり、これをバグ以外の何かだと言い切れる物も無い。


「まあ、あくまでも僕の憶測の域を出ないけど。」

「いや、かなり有益な情報だと俺は思う。バグって事はきっと修正の方法だって探せばあるかも知れない。そしたら井戸首や狐霧さんの体を治せるかも。」


そうだ。

今までバグなんて発想は無かったけど、帝のお陰で何か見えてきたかもしれない。


「もし本当にこれがバグなら修正する方法を見付けられるかも…いや、それか俺がバグを治す魔法を作れるかもしれない。」


今までの3年間、当てずっぽうで魔力使って練って、独学で魔法の作り方を学んだんだ。

きっと何とか出来る筈。


「それ本当ですかぁ?」

「ああ!かなり時間はかかると思うが。」

「魔法って作れるものなのね。初めて知ったわ。」


…おおっと、そうだった。

井戸首はまだこの世界の常識を知らない。

今まで通りのテンションで話すと大きな誤解を招いてしまう。


「普通魔法なんて作れないよ…。理守さんがおかしいだけ。自分の望むスキルを望む通りに獲得する方法なんてこの世界には無いの。完全な運ゲーなんだよ。」

「なら、魔法を作るってどういう事なの?」


まあ、疑問に思うよな…。

一々説明するのダルいな…。


「俺はステータスを持たない。だが、魔力はある。だから、一から魔力を使って魔法を作れるんだ。ステータスと言う縛るものが無い分手作業になるが俺は俺が望んだ魔法を作れる。」

「なによそれそれがあなたのバグ?…凄いわね。仮に私があなたと同じ境遇でも真似出来るかしら…?」


「「しなくていいよ(ですよぉ)」」


二人共酷くない?

俺は俺なりに頑張っているのに…。


「兎に角時間は掛かるが多分バグを治す魔法を作ることは出来ると思う。それまで気長に待ってくれ。」

「そう、それはよかったわ…。このまま誰かの介護が無いと生きていけない人生なんて屈辱的だもの。」


そうか、3年間も生首のままで身動きも取れずにダンジョン前で転がっていたんだもんな。


その間、何も出来なかった。

誰かの助けを待つことしか…誰かが助けに来ることを願うことしか出来なかった。

相当ストレスが溜まった事だろう。


それにしても3年か…。

コイツって今何歳なんだ?


「井戸首、お前今何歳だ?」

「今年で16よ。」


16歳、つまり体を失ったのは13歳。 

以前井戸首は家出したと言っていたが、中学生の娘が家出したっきり帰って来なかったら親は心配しないだろうか?


「親は大丈夫なのか?3年間も帰って無いんだろ?」

「…親の話はしないで…不愉快よ。でも、あえてその質問に答えるなら心配いらないわ。私の親は私の事なんてどうでも良いのよ。」


…何か事情がありそうだな。

しかし本当に娘の事がどうでも良い親なんているのだろうか?


3年間も娘が帰ってないとなれば大騒ぎになるはずだ。

捜索願いを出したり、ニュースに取り上げられたりとか。


そう思い、俺はスマホを取り出して今までに起きたニュースの中で15歳未満の子供の失踪事件が無いか調べる。


しかし、何一つとして引っ掛かるニュースが見つからなかった。

 

「嘘だろ…。」


何もニュースになっていないと言う事は何も騒ぎになっていない…つまり親は本当に井戸首がいなくなったことを気にしていないと言う事だ。


「だから言ったでしょ。心配いらないわ。」


かなり親との関係が拗れているようだな。

あまり他人の家庭事情に首を突っ込むべきではないだろうが、だからと言って放っては置けない。


このくらいの年齢の子供には親とうまくいかないことなんて良くあることだ。

出来れば井戸首が親と仲直り出来るように手助け出来たらと思うのだが…。


となると、まずはこの体…生首状態をどうにかしないとな。


ならば、あれしかないな。


「井戸首少し頭失礼するぞ。」

「え?ちょっちょっと!」


俺は井戸首の頭に手を乗せて魔法を発動する。

今発動した魔法は相手の記憶を読み取る魔法。

これで井戸首の体の情報を読み取って新しい肉体を作るのだ。


「なっ何してるのよ?」

「お前の記憶から体の情報を読み取ってる。…フムフム股下と左乳首の下にホクロがあるのか…。」

「どこの情報読み取ってるのよ!」


うるさいな…。

今集中してんだよ、気が散るでしょうが。


「胸のサイズはBカップ。」

「口に出す必要ある?!」


叫ぶ井戸首は取り敢えず無視して…。

身長は147cmと小柄だな…。


でも、3年も経っているわけだから、胸も身長も多少大きくした方が良さそうだな。


よし!肉体情報読み取り完了!

あとは肉体を生成する魔法で井戸首の新しい肉体を作れば…。

よし!完成!


「首パンマン!新しい体よ!」

「アンパンマン扱いしないで!」


…少し弄り過ぎたな。

かなりご立腹のようだ。


取り敢えず井戸首の頭を新しく作った体に乗っける。


「どうだ?」

「うん…中々悪くないわね。自分の体みたいに動くわ。」

「ちゃんとお前の意思に従って動くようにしたからな。でも、あくまでもお前の本当の体ではない。激しく動くと首は外れるぞ。」

「そう…。助かったわ。一つ借りにしておくわ。」


借りとか気にしなくても良いのだが、この井戸首と言うと少女は少々プライドが高いきらいがあるようだな。


「ふふ、良かったですねぇ葡蘭ちゃん。それと今日はもう遅いので皆さん一緒に泊まって行ってくださいねぇ。」


昨日に引き続き今日も狐霧さんのお世話になるのは申し訳ないが、ここはお言葉に甘えさせていただこう。

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