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3話 裏側

理守が試験に合格し、ライセンスが発行される少し前の事。


東京都某所、ダンジョン省にて今回行われた攻略者試験の結果について、ダンジョン省の重役達が集まって、とある議論を交わしていた。


議題はズバリ、ダンジョン規制法制定以来の新記録を叩き出した大型新人全堂理守の処遇についてである。


「凄まじいな…。筆記テストは満点で実技試験の結果は…とても人間が出せる記録とは思えない…。彼女の肉体には神が宿っている。正に全能の化身と呼ぶにふさわしい。」

「この記録ならいきなりSランクスタートでも良いのでは無いですかね?」

「しかし、飛び級は前例がありません。ダンジョン規制法制定直後に行われた試験でもレベル50以上の受験者が多数いる中で全員平等にDランクのライセンスを支給しました。全堂理守の記録はレベル50以上の…いえ、レベル99の攻略者の記録をも遥かに上回る新記録ですが、それでも彼女だけを特別扱いするわけにはいきません。」


定年間近の老人、初老の男性、比較的若い中年の役員、他にも様々な人材がこの場に座しており、理守の処遇に付いて討論していた。


「皆さんランク制度の主旨をお忘れですか?攻略者の方々が自身の身の丈に合わないランクのダンジョンへ挑戦するのを規制するためにつけられたものです。確かに彼女の実力はSランクダンジョンに挑めてもおかしくないものかもしれません。ですが、少し強いから、少し他より優れているからと言う軽はずみな理由でSランクダンジョンへの挑戦を許してしまい、それで万が一彼女が命を落とすような事があれば、我々はとんでもない逸材を見殺しにしたことになります。」


理守は既にSランクどころかその上のEXをクリアしているのだが、そんな事実など彼らは知る由もない。


故に保守的な考えを持つ者が殆どであった。


「ならば、特別扱いはせず、全堂理守は他の受験者と同じDランクとしよう。」


「「「「「「「意義無し!」」」」」」」


こうして、理守のランクが決まったのだった。


_

__

___

場面は代わり、ライセンス取得直後の理守が訪れた後の鑑定センター。

そこでは複数の鑑定士達がスキル【鑑定】を使って理守が売ったアイテムを鑑定していた。


【鑑定】とは文字通り、対象を解析し詳細な情報を得るスキルであり、全世界の人間がステータス発現時に初期から持っているスキルである。


因みに初期スキルには【鑑定】の他にもう一つ【ファイアボール】と言うスキルが存在する。


「こっこのアイテムもSランク…こっちはAランク…そして、こっちはEX!?何それ!ランクってSが最高なんじゃないの?Sよりも上なんてあるんだ…。」

「口じゃなく手を動かしなさい!新入り。そうしないと今日も残業よ!」


理守が三年間EXダンジョンに篭って集めたアイテムはその数も価値も尋常ではなかった。

どれもこれもが一級品。

一つ一つが、何かの映画企画の予算に匹敵する程の額になっていた。


「このレベルのアイテムを全部買い取るのは無茶よ…。鑑定センターの予算が消し飛ぶわ!」

「そういう時は世界オークションに売りなさい。これ程のレアアイテムよ。きっと大手ギルドが高値で引き取ってくれるわ。利益を確保しながら、精算を行うのよ。良い?」


「「「了解!」」」


世界オークションとは鑑定センターが攻略者から買い取ったアイテムや素材を卸売りする合法販売サイトである。

主に世界中の大手ギルドがアイテムの買い取りに利用している。


因みにギルドとは世界中で名の知れた実業家達がダンジョンから生み出される利益に目を付け、事業拡大を目的として立ち上げたダンジョン攻略専門の企業の事である。


そして再び場面は変わる。

_

__

___

大阪府某所、百石ギルド本社。


「おもろいのう。」


社長室にてこの百石ギルドの社長と思われる男性が巨大なスクリーンに映し出された世界オークションのレアアイテム一覧を眺めてそう呟いた。


「これ程のもんが仰山市場に出回るとなっちゃ今頃世間は大混乱やで。今までみたことないようなレア度のアイテムばかり、俺らがせこせこ集めとったアイテムどもが霞んでまう。たった一晩で世界中のダンジョンアイテムの価値がひっくり返えんで。どっかのアホがアホほど一変に(ぶつ)流しよったか。何か特別な目的があんのか、それともマジのど阿呆か…。」


これらのアイテムを売った張本人は特に目的など無く、何も考えずに所持品を全て売ったアホであるが、この百石ギルドの社長はその行動の裏に何かあるのではないかと、思慮深く考えているようだ。


「おい!」

「はい、社長何か用でっか?」


男性が声を掛けるとオフィススーツを来た女性が社長室に入ってくる。


「このアホみたいな量の(ぶつ)を流した輩特定して連れてきいや。ちょいと興味が湧いた。」

「了~解。」


間延びした返事を返してその女性は社長室から出ていった。


「コイツはゴッツおもろなるで…。」


本人の預かり知らぬ間に理守は大きな勢力に目をつけられていたのであった。


更に場面は変わる。


_

__

___

アメリカ フロリダ州某所、サウザーギルド本社。


「サウザー会長。お耳に入れておきたい情報が。」

「何だ?」


会長室にてデスクワークをこなす会長らしき男性に銀髪銀眼で秘書らしいオフィススーツを来た美しい女性が話し掛ける。


「世界オークションにランクA以上のレアアイテムが大量に出回っております。」

「…ほう?それは興味深い。してロザリーよ。お前はこれをどう見る?」

「表向きはこの無数のレアアイテムの数々に目がいきがちですが、本質はそこではありません。真に見るべきは表ではなく裏。このレアアイテムよりもこのレアアイテム達を集めた攻略者こそ真に価値があるものだと言えるでしょう。但し、その攻略者がソロでこれらのアイテムを集めたのであればの話ですが。」


ロザリーと呼ばれた秘書は冷静に状況を分析し、顔も名前も知らない理守の存在価値を推し量る。


「更に付け加えれば、この攻略者が女性ならばその価値は青天井です。」


ロザリーと言う存在を一言で表すなら、"女好き"である。

ロザリーは女性でありながら女性しか愛せない。

女性の匂い、声、息遣い、女体の曲線美に背徳感を感じる同性愛者なのである。


「ふむ、お前がそこまで言うのなら接触を図ってみるのも良いかもしれないな。早急にこの攻略者の情報を特定せよ。もしこの攻略者が女性だった場合はお前の好きにしても良いぞ。」

「全身全霊で頑張らせていただきます!」


理守に身の危険がせまるのだった。

_

__

___

東京都某所、 一宮ギルド本社。


「一宮会長、世界オークションにこのような代物が。」


秘書と思しき女性がタブレットに映るレアアイテムの数々を会長と呼ばれる男性に見せる。


「ふむ、興味深い…。」


一宮ギルドの会長はタブレットに映るレアアイテムを一瞥しそう呟く。


しかし、彼の視線はレアアイテム達に注がれているようで、まるで別のものを見ているようであった。


「では、どの代物を競り落としますか?」

「いや、待て私が興味深いと言ったのはこのレアアイテム達についてではない。」


よもやと言うべきか案の定と言うべきか一宮ギルドの会長はレアアイテムになど興味を抱いていなかった。

彼が興味を示したものはもっと別のもの…。


「?では何に対してに?」


それは勿論…。


「決まっているだろう。このアイテムを手に入れた攻略者に対してだ。」


これらのレアアイテム達を売った張本人である理守に対しての興味であった。


「ここ最近他の大手ギルド達にこれといって目立った動きは無かった筈だ。それにこんなに一辺にアイテムを市場に流すなど、素人丸出しな事をする筈がない。だとすると考えられるのは何処のギルドにも属さない、個人で活動している攻略者…。」


世界中の大手ギルドはどれもダンジョン攻略で利益を確保するために、よく他のギルド達と揉める事がある。


故にたった今こうしてオフィスで秘書と会話している最中でも大手ギルド同士の間では水面下の情報戦が繰り広げられている。


この一宮ギルドの会長である彼は2年間に渡る他ギルドとの衝突経験からこのオークションにアイテムを流した張本人が何者なのかを冷静に分析した。


「早急にこのアイテムの売り主を見付けろ。これ程の人材を逃すなどこの私のキャリアにとって一生の損失になる。」

「かしこまりました。」


秘書はそう短く返事を告げてこの場を後にする。


「しめしめ…。良い事聞いちゃった~。」


しかし、会長室の扉の影から今の会話を盗み聞きしていた謎の人物が一人、そこにいたことに会長も秘書気付くことは無かった。


「パパ達よりも僕が先にこの人見付けて手下にしよう!」


理守を狙う影があっちこっちで蠢いていることを理守本人は知る由も無かったのであった。


***


「大家さん!見てみて!俺、攻略者になったんだ!」


俺は大家さんの家にアポ無しで突撃し、目の前の狐目で頭から狐耳、腰から狐の尻尾が生えた美しい女性にライセンスを見せびらかす。


「…3年間、全然姿を見せないから心配してたんですがぁ…。元気そうで何よりですぅ…。」


そう言って大家さんは額に手を当てて安堵と呆れが混じったため息を付く。


この人は(いぬ)(かい)()()さん。

俺に一戸建ての家を貸してくれている大家さんで、俺と同じくダンジョン出現と同時に何故か見た目が変わってしまった人だ。


俺は男性から女性に、狐霧さんは元から女性だったけど、何故か頭から狐耳、腰から狐の尻尾が生えてしまったのだ。

因みに、人間の耳もあるので、この人の耳は合計四つである。


とまあ、狐霧さんは俺と境遇が似ているので俺を信じて三年間の家賃滞納を許して家を貸してくれたのだ。

因みに、境遇が似ていると言ったが見た目関係の事だけだ。

ステータスに関しては狐霧さんは持ってる側の人間である。

結局ステータス無し人間は俺だけだ…解せぬ。


「それにしても、3年間どこで何してたんですかぁ?連絡しても全く既読着かないしぃ。」


ああ、そう言えばずっとダンジョンに篭っててスマホを充電してなかったんだよな…。


「心配かけてごめん。家の玄関に出現したダンジョンでちょっと自給自足の生活を…。」

「はあ、よく生きてましたねぇ…。本当に逞しいと言うか生き汚いと言うかぁ…。それに、その格好は何ですぅ?」


やっぱりメイド服には触れずにはいられないか…。


「サイズの合う服がこれしかなくてな…。」

「はぁ…そうですかぁ…。」


分かりやすく狐霧さんが困惑しているな。

そりゃ女体化して三年間音信不通だった知り合いがメイド服着ていたらどんな反応したら良いから分からないよな。


俺だったらそんな知人がいたらしばらく距離を置くかも。


「それで、今回攻略者ライセンスを取得した目的は何ですかぁ?ずっとダンジョンでサバイバルしてたあなたが…今さらじゃないですかぁ?」

「まあ、そうなんだけどダンジョンで手に入れたアイテムを売るのにライセンスが必要だったんだよ。後今まで篭ってたダンジョンが消えたから、これから新しいダンジョンに挑むには一応法に従った方が良いかなって。」

「ダンジョンが消えたぁ?」


鳩が豆鉄砲を食らった様な表情をする狐霧さん。


「あれ、知らなかった?ダンジョンってダンジョンボスを倒すと消えるんだよ。」

「それは知ってますけどぉ…。え?ボスを倒したんですかぁ?ステータス無しでぇ?」


何だそんなことに驚いていたのか。


「ああ、ステータス無しでも魔法は使えるんだぜ。」

「はあ、嘘でしょぉ…。」

「どうしたの?」

「ねえ理守さん、私の家の庭にもダンジョンが出現したのは知ってますよねぇ?」

「ん?うん。」


どうしていきなりそんなことを聞くんだ?


狐霧さんの家は俺と同じでダンジョンが初めてこの世界に出現した時に家の敷地内にダンジョンが現れたのだ。


…こうして見ると俺と狐霧さんって共通が多いよな…。

もしかして見た目が変わった事とダンジョンが家の敷地内に現れたのには何か関係があるのか?


「実はですねぇ、ダンジョン規制法が制定された後に私の家のダンジョンとあなたの家のダンジョンをダンジョン省に鑑定して貰ったんですぅ。」

「え?」


そんなことがあったのか…。

ずっとダンジョンの中にいたから気付かなかった。


「それで鑑定結果は?」

「私のダンジョンはAランク…そしてあなたのダンジョンがEXでしたぁ。」

「EX?」

「Sランクよりも高いランクですよぉ。現状判明している最高ランクですぅ。」


Sランクよりも上ってあるんだ…。

それよりもダンジョン省の人が鑑定したのに何でEXと言うランクが公開されてないんだ?


「ニュースを一気見したけどEXなんてランク何処にも書いてなかったぞ?」

「私が情報の公開を拒否したんですぅ。あなたに貸してる家もこの家も私の所有地ですからぁ、一応情報秘匿の権利が尊重されるんですぅ。あのままあなたの家のダンジョンが世界最高ランクのEXダンジョンだって公開されたら、あなたの帰る家が無くなってしまうと思って。」


…成る程、何から何まで狐霧さんにはお世話になりっぱなしだ。

何か恩返しが出来れば良いんだが…。


「そうだ!狐霧さん、俺が庭のダンジョンクリアしてやるよ!EXクリアした俺なら楽勝!」

「それはありがたいのですけれどぉ、法律的に無理ですよぉ。」

「え?」

「攻略者が身の丈に合わないダンジョンに挑んで死なないようにダンジョン省は攻略者にランク制度を導入したんですぅ。」

「ランク…。」


そう言えば、渡されたライセンスにDってアルファベットが刻まれていたな。

攻略者の実績に応じて昇級するとか何とか…。


単純に攻略者の強さを指し示す物かと思ったけど、身の丈に合わないランクのダンジョンへの挑戦を規制する目的があったんだな。


「ランクに応じて挑戦できるダンジョンの難易度が決まってるんですぅ。例えばDランクなら同じランクのDとワンランク上のCのダンジョンにしか挑めませんぅ。ライセンスを取得したばかりの攻略者は全員Dランクの筈ですからぁ、あなたは法律的に家のダンジョンには挑めないですよぉ。」

「そんな…。今更じゃね?俺なんて無免許でダンジョンサバイバルしてたんだぞ!」

「あなたがダンジョンに篭り始めたのは法律が制定される前でしょう?今は流石に駄目ですよぉ。それに無理に許可されてないランクのダンジョンに挑もうとするとライセンスに込められた特殊な魔力で弾かれるからどっちにしろ無理ですよぉ。」


ライセンスにそんな機能があるのか…。

これじゃあ、狐霧さんの家のダンジョンには挑めないか…。


「一応、手はありますよぉ。」

「何?」

「挑みたいダンジョンと同じ…または一つ下のランクの攻略者とパーティを組むんですぅ。今回の場合はBランクですね。そうすれば魔力で弾かれずに合法的に私の庭のダンジョンに挑めますよぉ。」


成る程、パーティか…。


「パーティを組むにはどうすれば?」

「ライセンスにそう言う機能があるらしいですぅ。私は攻略者じゃないから、詳しい事は分かりませんけどぉ。」


だがこれで今後の方針が決まった。

急いでランクB 以上の攻略者を見付けてパーティを組もう!


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