2話 攻略者
俺は今さっき倒した黒龍のフライをダンジョンの中でじっくり味わいながら食べている。
「うん、味はササミみたい…。固いわ…。」
調味料も無いからかなり味が淡白だ。
まあ、不味くはないけど…。
まあ、そんな事はどうでも良い。
今の俺には黒龍の味なんかよりも気になることがある。
それはダンジョンをクリアした後の報酬だ。
この三年間、俺ん家の玄関に現れたこのダンジョンにずっと篭って攻略し続けていた。
だからダンジョンを完全クリアしたら何かしらの報酬があるのではないかと期待していたのだが…。
残念ながら、それらしき物が出てくる気配が全くない。
まあ、良いか。
3年間の修行の末に宿敵黒龍を討伐出来ただけでも十分達成感は得られたからな。
などと思考を回しているうちにもう黒龍の肉を全部食べてしまった。
俺は一瞬で片づけを済ませて、瞬間移動でダンジョンの外へと出る。
「3年ぶりのシャバだ。」
そう呟いて俺は久しぶりに日光を浴びる。
眩しな…。
何か目がチカチカする…。
暗闇に慣れすぎたか…。
などと考えている間にさっきまで、いたダンジョンに異変が起きる。
突然、紫色の怪しい煙を出して消滅してしまったのだ。
「うわっ!ダンジョンボスを倒すとダンジョン消えるのか…。初めて知った…。」
俺はあまりニュースを見ないからダンジョンに関してはあまり詳しくない。
そもそもずっとダンジョンに篭っていたからニュースを見れる環境に無かったってのもあるけど。
ダンジョン内だと充電出来ないし。
取り敢えず、久しぶりに外に出られたわけだから家に帰ってスマホを充電して適当に情報集めでもするか。
…あとついでに着替えたい。
何気に3年間も風呂に入らずに、着替えも一切していなかったしな。
風呂に関しては、体の汚れを一瞬で無くす魔法でどうにかなっていたが、服はどうにもならなかった。
一応汚れたり破けたりする度に魔法で修復していたが、ダンジョン内はモンスターのスポーン頻度と数が馬鹿みたいに多いせいで、直した矢先に直ぐにぼろぼろにされた。
その為、もう面倒臭くなって途中から服を修復するのを止めてたのだ。
だから、今俺は三年ぶりに綺麗な服に着替えたい!
俺は直ぐに家に戻ってスマホを充電し、風呂に入って新しい服に着替える。
しかし、そこで俺は大きな問題に直面した。
「体に合う服がない…。」
…失念していた…。
女体化したことで、体格が一回り小さくなっていたと言うことに…。
実はダンジョン攻略中、ずっとダボダボの服を着ていたのだが、ダンジョン内には俺以外に人がいなかったので、別に気にはならなかった。
しかし、ダンジョンを完全クリアし、三年ぶりにシャバに出てきた今、現代社会で生活する上で常にダボダボヨレヨレの服を着るなんてみっともないだろう。
元々の俺はかなり身長が高く日本人では珍しい190オーバーだった。
今の俺の身長は大体178cm。
大きい方であるが、それでも昔の俺の服を着れるかと言われたらかなり怪しい。
何か…何か丁度良い服は無いか…。
俺は風呂上がりで裸のまま全力でクローゼットの中を漁る。
そして大体30分程探した末にやっと今の俺の体に合いそうなサイズの服を見つけた…のだが。
「これは…メイド服…。」
クローゼットの中から出てきたのは長袖でスカートの丈が長く、ヒラヒラの装飾があまりない、結構本格的なメイド服だった。
「これって…確か高校の時の文化祭でやった女装メイドの…まだあったのか…。」
高校時代、俺は男子高に通っていたのだが、そこで男子高恒例の文化祭で女装メイドをしたのだ。
クラスメイト達がフリフリな装飾の付いたコスプレみたいなメイド服を着て楽しそうに騒いでいた中、俺だけ身長が高過ぎて、メイド喫茶みたいなコスプレ用メイド服では合うサイズが無く、本物の大富豪の屋敷に仕えるタイプのメイド服をオーダーメイドするしかなかった。
因みにメイド服をオーダーメイドする際、依頼に応じてくれた仕立屋に採寸を送る必要があったのだが、友人がイタズラで身長190cmと書くところを180cm と書き換えて仕立屋に送りつけやがった。
その結果、俺の元に届いたのは、着れなくは無いがかなりギチギチなメイド服だった。
少しムカついたけど、皆楽しそうだったので、怒るに怒れなかった。
今となっては楽しい思いでであるが、少し恥ずかしい苦い思い出でもある。
取りあえずこれしか着れそうな物が無いのでこのメイド服を着ることにする。
高校時はかなりきつきつだったメイド服だったが、今の俺には驚く程に体にフィットしていた。
「このメイド服を難なく着れるなんて…俺って本当に小さくなっちまったんだな…。」
などと少しだけ感慨に浸った後、充電完了したスマホを取り出してこの三年間に溜まったネットニュースを一気見する。
俺はこの三年間で魔導を極めた。
故に、集中力と思考速度を100倍にする魔法を瞬時に編み出して、三年間のニュースの内容を頭に詰め込むなど朝飯前なのだ。
…あれ?
今さら気付いたけどスマホを充電する魔法を作ればわざわざ今ニュースを一気見しなくても良かったんじゃね?
…まあ、良いか!
今さらそんなこと言ってもしょうがない!
時を巻き戻す魔法はあるけど、過去の事をとやかく言っても仕方ないのだ。
俺は常に前を向く男だからな!今は女だけど…。
まあ、そんなことよりも今しがた気になるニュースを見つけた。
二年前にダンジョンのドロップ品を鑑定して買い取ってくれる鑑定センターと言う施設が設立されたらしい。
つまり俺が三年間ダンジョンに篭って集めたアイテムを売れるのだ。
これはありがたい!
三年前に何故か女になってから、親も友人も会社も誰も信じてくれなくて路頭に迷っていたところなんだよな…。
唯一大家さんだけは俺を信じて、この家を貸し続けてくれたけど…。
ダンジョンが現れた当初はまだ鑑定センターなんて物も無かったから、食い扶持が無くてダンジョンに篭って自給自足するしか無かった。
でも、それももう終わる!
沢山アイテム売って大金がっぽり稼ぐぞ!
…と行きたいのたが、そうスムーズには事は進まない。
どうやら俺がダンジョンに篭っている間に世界情勢はかなり変わったようだ。
と言うのもダンジョンを攻略するには攻略者登録をする必要があるらしい。
攻略者とは読んで字の如くダンジョンを攻略する者。
2028年にダンジョン規制法が制定されると同時に攻略者と言う名の職業が生まれたそうだ。
ダンジョン出現当初、無鉄砲にダンジョンに挑んで大怪我をしたり、命を落とした者達がそれはもう沢山いたそうだ。
だから、これ以上の無駄な犠牲を減らすため、ダンジョンに挑みたい者はダンジョンを取り締まる公安機関 ダンジョン省で試験を受けて合格し、攻略者ライセンスを取得しないといけないと言う法律が制定されたらしい。
攻略者ライセンスが無いとダンジョンに挑めない、つまりドロップ品も売れない。
攻略者じゃないのに、何故ダンジョンからしか手に入らないドロップ品を持ってるの?…と言う話になるので、ドロップ品を売るなら攻略者ライセンスは必須だろう。
既に無免許でダンジョンに篭っていたから今さらではあるが、一応これからは法律に従うべきだろう。
俺の場合は法律が制定される前だったから、ギリギリセーフ…の筈。
まあ、今のところ気になるニュースはそれくらいかな。
後はギルドがどうとか、ランク制度がどうたらとかあんまり面白そうなニュースが無さそうなのでフル無視してスマホの電源を消す。
それから、俺は出かける準備をパパッと済ませて早速攻略者試験を受けにダンジョン省へと向かう。
因みに服装はメイド服のままだ。
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そしてあっという間にダンジョン省の前に着いた。
俺には瞬間移動がある。
何処にいくにしても地名と座標が分かればひとっ飛びだ。
と言うわけで、早速ダンジョン省の建物内に入る。
中には俺と同じように試験を受けに来た人が沢山いた。
「え?あの人何でメイド服?」
「どっかの富豪の召し使いとか?」
「趣味なんじゃね?コスプレとか。」
「それにしてはガチすぎるだろ。」
「でも、すげえ美人だな。俺タイプだわ。」
…そして、建物内にいるほとんどの受験者の視線が俺に集まっている。
そりゃ、そうか。
メイド服だもんな。
注目を集めないわけがない。
でも、一々気にしても仕方ないので、突き刺さる視線を無視して受付に行く。
「すみません。攻略者登録をしたいんですけど。」
「新規登録の方ですね?こちらの書類にお名前、生年月日、お住まいの住所をご記入下さい。」
言われた通りに渡された書類に個人情報を書き込んでいく。
「確認出来ました。全堂理守さんでお間違いありませんね?」
「はい。」
「あの、性別の欄に男性とご記入されているのですが…。」
「あっ…。間違いです!誤記入です!」
やっべえ…。
間違えて男の時と同じノリで書いちゃった…。
流石に元男なんですとか言っても信じて貰えないだろうし、ここは適当に誤魔化そう。
「今直します…。」
俺は男と書いた欄をボールペンで黒く塗り潰し、今度は女と記入する。
何だろう…中学生の時初めてゲームで女主人公を選んでネカマに目覚めた時の様な謎の背徳感を感じる…。
「今度こそ、ご記入にお間違いは御座いませんね?」
「はい、もうありません。」
「それでは試験のご説明をさせていただきます。」
受付の人は丁寧に試験の説明をしてくれた。
試験内容は筆記と実技。
筆記試験は
国語、数学、科学、社会、英語の五教科あり、一つの教科につき20問づつ合計100問のテストとなっている。
問題の内容は高校3年までの範囲全部。
3年間のダンジョン自給自足生活をしていた俺にはブランクがあるので少しきついかも…。
それから実技の方は主に体力を測定するらしい。
小中高でやった体力テストだ。
これに関しては楽勝だろう。
問題は筆記だ。
「こちらが受験番号になります。アナウンスが鳴るまで、しばらくの間お待ちください。」
「ありがとうございます。」
俺は受付から受験番号が書かれた紙を渡されて適当な場所で時間を潰す。
そして…。
『間も無く筆記試験が開始されます。受験者の方は速やかに試験室に入室してください。』
数分して漸く会場内にアナウンスが響き渡った。
俺はそれに従い、試験室に入る。
そこには俺以外の受験者達が既に自分達の席に座っており、受験者達の席の前には試験監督らしき人物が立っている。
俺は渡された受験番号と同じ数字が振り分けられた席に急いで座る。
「これから筆記試験を開始します。カンニングは即失格になりますので正々堂々と試験を受けて下さい。それでは…初め!」
試験監督が開始の合図を出すと同時に試験が開始された。
始まってしまったか…。
今の俺は高校の内容を全て忘れてしまっている。
そんな俺にとってはこのテストは弁護士試験よりも難しい。
だか、ここで終わらないのがこの俺だ。
俺には魔法がある。
まあ、皆もスキルとかあるだろうけど…。
俺の魔法はステータスを持ってる奴らが使うスキルとはひと味違う。
ステータスに頼らずに魔導を極めた俺はその場その場で必要な魔法を瞬時に編み出して使用する事が出来る。
国語力は夏目漱石、大宰治の魂を憑依させる魔法で対処し、数学は思考能力をスーパーコンピューター並みに強化する魔法で一瞬で終わらせる。
科学と社会はこの地球の記憶その物と接続出来る魔法で何とか乗り切り、最後に英語は全ての言語を日本語に翻訳する魔法で余裕で全問埋めた。
そんなこんなで筆記試験ごとき俺にとっては楽勝だったのだ。
そして、試験はまだ続く。
次は実技試験。
『次は実技試験になります。更衣室で各自持参した運動着に着替えて試験会場にお集まり下さい。』
成る程、運動着が必要だったのか…。
完全にリサーチ不足だった。
でも、今から瞬間移動で家に戻って運動着を取りに行くのもな…。
それに着替えには更衣室に入る必要があるし…。
体は女でも中身が男の俺には更衣室に入る勇気はない。
仕方ないので、このまま体力テストの会場へと入る。
会場にはざっと見渡した限り、パンチングマシーンや砲丸投げ、握力測定、立ち高跳び、100m走など、様々な種目のコースが設けられていた。
「結構お金掛かってそうだな…。今の日本って景気良いのか?」
アイテムを買い取ってくれる鑑定センターなんて太っ腹な物があるくらいだから、ダンジョン出現前と比べたら多少はマシになってそうだな。
「おいおい…こりゃ随分別嬪なメイドさんじゃねえか。」
「ん?」
会場内のコースを見渡していると、後ろから突然俺を小馬鹿にするような男性の声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、筋骨隆々のタンクトップ姿の男性がそこにいた。
「お姉さんさ、悪いことは言わねえ。攻略者ってのはそれなりに鍛えたエリートでないと務まらない。あんたみたいなそんな変な格好した顔だけが取り柄の女が試験を受けても恥をかくだけだぜ。」
…まあ、確かにこの攻略者試験はこれ以上無鉄砲にダンジョンに挑んで死に急ぐ輩が増えないように、ダンジョン省が受験者達を試し、ダンジョン攻略で生き残れる素質を持つ者達を見出だすための物だ。
俺みたいな戦えなさそうなか弱い女がいるのは違和感があるだろう。
…それと実技試験にメイド服で挑む姿は確かに場違いだ。
このタンクトップ男の言うことは正しいのかも知れない。
ただ、言う相手を間違えているがな。
「忠告ありがとう。でも、問題ないよ。だって俺、多分あんたよりも強いもん。」
「あ?なんだと?」
俺の言葉が気に触ったのか男はそのでかい腕で俺の胸ぐらを掴もうとする。
しかし…。
『もうすぐ、実技試験が始まります!試験を受ける方は速やかにお並びください』
その直前で試験開始のアナウンスが会場内に響き渡った。
「試験開始だって。急いだ方が良いんじゃね?」
「ちっ!命拾いしたな。」
それだけ言い残して男は列に並び出した。
「さて、俺も試験を受けますか。」
俺も急いで列に並び試験を受ける。
最初の種目は反復横跳びだ。
実技試験でも俺の魔法の出番だ。
身体能力を100倍にする魔法で体を強化していざ!反復横跳び開始だ!
次の瞬間、強烈な風圧と共に俺の姿が数百人に分身し横一列に並ぶ。
実際には俺は分身していない。
俺の反復横跳びが速すぎて数百人に分身しているように見えるだけだ。
こうして反復横跳びが無事に終わった。
この調子で他の種目もこなしていく。
次は100m走。
これもさっきと同じで身体能力を100倍にして挑む。
その結果0.01秒で完走。
続いて、砲丸投げの記録は1000m 。
更にその次のパンチングマシーンは何十枚もの壁を突き破ってパンチングマシーンが彼方へぶっ飛んで行った。
そして最後に立ち高跳びだ。
天井を突き破って一度成層圏をも突破してから地上に戻ってきた。
まあ、つまりどの種目も堂々の満点合格である。
「へへ!俺無双!どんなもんだい!」
試験会場に集まる無数の試験監督と受験者達が俺を見て驚愕のあまり固まる。
その中には先程俺に突っ掛かってきたタンクトップの男もいた。
「あっ!さっきのタンクトップ!」
「え?…ヒッヒイィ!さっきの女…お姉さん…!」
何かさっきと態度違くね?
何でそんなにおびえてんの?
「どうよ?俺の実力は!お前俺よりもすごい記録出せたんか?」
「あっいえ…えっと俺は…その…ごっこめんなさい!勘弁してくれ!」
タンクトップの男はそそくさと逃げるように走り去っていった。
一昨日来やがれ!偽筋野郎!
そんなこんなで全ての試験が終わった。
結果は文句なしの合格。
試験終了後直ぐに合否がわかる仕組みらしい。
そして、合格者には最後に一つだけ受付で手続きが必要なのだとか…。
「合格者の全堂理守様。攻略者ライセンスを発行する際にご本人様の毛髪を頂く決まりとなっております。」
「毛髪?」
「合格者の方からDNAを採取出来る物をご提供頂いて、ダンジョン省でそのDNA と特殊な魔力を織り混ぜてライセンスを発行するのです。」
へえ…。
DNA をね…。
偽造防止の為かな?
そんなこんなで、毛髪を提供したあと少しだけ待ち時間を食らった末に新たに発行された攻略者ライセンスが手渡された。
ライセンスにはDと書かれている。
これがランクらしい。
今後のダンジョンでの活躍や実績で昇級するとの事らしい。
「へへ!やった~。」
これでやっと今まで手に入れたドロップ品を売る事が出来る。
早速鑑定センターに向かおう!
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またも瞬間移動を使用して家の近くの鑑定センターにやって参りました!
早速今まで集めたアイテムを全部売ります!
「このアイテム全部売ります!」
俺は集めたドロップ品を全て鑑定センターの受付に出す。
「こっこれを全部ですか?」
「はい!」
困惑する受付の人に俺は素直に返事を返す。
「この量ですと精算に時間が掛かりますがよろしいですか?」
「はい!大丈夫です!」
「そっそうですか…。でしたら、精算が完了次第ご連絡させていただきます。」
流石に直ぐにはお金にならなかったか…。
まあ、いっか!
取り敢えず精算が終わるまで家でのんびり待つとしよう!
…いや、俺ん家じゃなくて大家さんの家に行こう。
久しぶりに会いたいし。




