↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「リリーフ〜春風」  作者: わたぬきたぬき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/53

第41話「最後まで」

九回表。


スコアは、4対2。


西北高校、最後の攻撃。


球場全体が、城北高校の勝利を予感し始めていた。


だが、西北ベンチの誰も、まだ諦めていなかった。


打席には、四番・高島。


ここまで三打数ノーヒット。


打率一割五分。


散々ネタにされながらも、今日は必死に食らいついていた。


ベンチで、板橋が叫ぶ。


「高島先輩!!せめて一本、打ちましょうっ!!」


高島は、ヘルメットのつばを上げる。


「うるせぇ!!」


その顔には、珍しく余裕がなかった。


何としてでも塁に出てやる!


そんな気迫が前面に出ていた。


マウンドの三田は、静かに構える。


もう油断はない。


西北は弱小じゃない。


ここまでの戦いを見て、三田は、それを理解した。


だからこそ。


全力で叩き潰す。


初球ストレート。


154km/h。


高島は、振り遅れる。


二球目。


高速フォーク。


空振り。


「ストライクツー!!」


球場が、城北ムードへ傾く。


高島は、ゆっくり息を吐いた。


――四番なのによ。


――オレ、何もしてねぇ。


脳裏に浮かぶ。


試合前。


「四番レフト高島」


あの瞬間、自分でも驚いた。


久保の作戦。


最初は、引退する3年生への花向けかと思った。


でも今は違う。


自分の出塁率。


そこに久保は賭けてくれた。


絶対に、塁に出るんだ!


三球目。 


外角ストレート。


かろうじてファール。


そして四球目。


西郷のミットが、内角深くへ構えられる。


三田が、全力で腕を振った。


ズバァッ!!


インコース。


ギリギリ。


避ければ、ボール。


だが、高島は、避けなかった。


ゴッ!!


鈍い音。


「デッドボール!!」


球場がどよめく。


高島は、顔をしかめながらも、一塁へ歩く。


三田が、露骨に苛立つ。


「あの野郎……」


「当たりにきやがった」


西郷が、静かに返す。


「それだけ相手も必死ってことだ」


高島は、一塁上でニヤリと笑った。


「見たか!これが四番の仕事ってやつだ」


西北ベンチが、少しだけ盛り上がる。


だが続く五番・西川。


三振。


六番・保坂。


こちらも三振。


ツーアウト。


あと一人。


球場の空気が、完全に城北勝利へ傾く。


打席には、七番・西。


三田は、至って冷静だった。


初球ストライク。


二球目もストライク。


追い込まれる西北ベンチ。


誰もが、祈るように見つめていた。


三球目。


低めフォーク。


西が、必死に食らいつく。


カツッ!!


ピッチャー前のボテボテのゴロ。


三田が前へ出る。


「これで終わりだ」


誰もがそう思った。


だが西は、全力で一塁へ飛び込む。


ヘッドスライディング。


土煙。


一塁審判が、両手を広げる。


 「セーフ!!」


西北ベンチが、一気に沸く。


「うおおおお!!」


だが、西は、立ち上がれなかった。


一塁ベースの横で、苦しそうに足を押さえている。


板橋が、顔色を変える。


「西!?」


志保も、慌てて駆け寄る。


西は、悔しそうに歯を食いしばった。


「す、すみません……」


久保が、すぐにベンチを見る。


「代走!」


その時。


静かに立ち上がる影。


寛人だった。


志保の顔が、強張る。


「……寛人?」


久保も、驚く。


「お前はもう休んでろ」


寛人は、笑った。


少し疲れたような、それでも穏やかな笑顔。


「最後くらい、走らせてくれよ」


そして、左手で、そっとポケットへ触れる。


そこには、志保からもらったお守り。


「大丈夫」


「これがあるから」


志保が、小さく息を呑む。


その笑顔が、なぜか。


少しだけ、遠く感じた。


胸の奥が、ざわつく。


――どうして。


――そんな顔するの。


寛人は、ゆっくり一塁へ向かう。


そして、ベースへ立った。


ツーアウト。


一塁二塁。


打席には、八番・板橋。


西北の夏は、まだ終わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。