第34話「化け物」
一回裏終了。
西北高校ベンチ。
志保が、
ほっとしたように寛人を見る。
「さっきの……危なかったね」
左ポール際へ飛んだ、
西郷の大ファウル。
あと少しで、
試合が壊れていた。
寛人は、
タオルで汗を拭きながら苦笑する。
「……あそこまで飛ばされるとは思わなかった」
少し間を置いて。
「あいつはプロになれるだろうな」
志保が、
きょとんとする。
「そんなにすごいの?」
「うん」
寛人は、
静かにグラウンドを見る。
「でも――」
「プロになれても、残れるのは一握り」
「本当に厳しい世界だよな」
志保が、
くすっと笑った。
「寛人って時々、プロ野球選手みたいなこと言うよね」
寛人は、
少しだけ目を細める。
「……そうかもしれないな」
その返しに、
志保は不思議そうに首を傾げた。
その頃。
ベンチの端では、
上田が久保へ話しかけていた。
「おい」
「お前の作戦とやら」
「あいつに通用すんのか?」
視線の先には、
マウンドの三田。
久保は、
正直に答えた。
「はっきり言って――」
「あんな化け物だとは思わなかった」
その間にも。
グラウンドでは、
西北の五番、西川が空振り三振。
これで、
四者連続三振。
三田が、
小さく笑う。
「ザコども」
西郷が、
すぐ横でため息をつく。
「飛ばしすぎだ」
「まだ初回だぞ」
一方。
久保は、
上田へ視線を戻した。
「……でも」
「お前のホームランは大きかった」
「まぐれ当たりとはいえ、助かったよ」
上田が、
眉をひそめる。
「褒めるのか」
「けなすのか」
「どっちかにしろ」
そこへ。
板橋が、
勢いよく割り込んできた。
「細けぇこと気にすんなって!」
「粘ればなんとかなる!」
「オレたち、ここまで来たんだぞ!」
その言葉に、
ベンチの空気が少しだけ軽くなる。
久保も、
小さく笑った。
だが。
グラウンドの向こう。
マウンド上の三田の姿は、
やはり圧倒的だった。
6番、保坂。7番、西も連続三振。
上田のホームラン以降はヒットはおろか一塁も踏めない。
二回裏。
再び。
上田が、
マウンドへ向かう。
その目には、
さっきまでとは違う光が宿っていた。
――ある作戦。
久保と寛人だけが知る、
次の一手だった。




