表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「リリーフ」  作者: わたぬきたぬき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/49

第32話「投手の器」

一回裏。


 


ワンアウト一塁。


 


 


打席には、

城北高校三番・恵比寿。


 


 


鋭い目。


 


 


無駄のない構え。


 


 


上田が、

マウンドで小さく舌打ちした。


 


 


「……あの野郎」


 


 


久保が怪訝そうに見る。


 


 


「知り合いか?」


 


 


上田は、

帽子を深く被り直した。


 


 


「元チームメイト」


 


 


その一言で、

久保は察する。


 


 


強豪シニア。


 


 


上田が、

まだ“天才外野手”だった頃の話。


 


 


 


恵比寿も、

打席で上田を見ていた。


 


 


懐かしそうでもあり。


 


 


少し複雑そうでもある。


 


 


――変わらねぇな。


 


 


脳裏に、

昔の上田が浮かぶ。


 


 


強肩。


 


 


強打。


 


 


誰より野球センスがあった。


 


 


外野からでも、

レーザービームのような送球を投げる男。


 


 


だが。


 


 


気性が激しかった。


 


 


ある試合。


 


 


起用法を巡って、

監督と激突した。


 


 


「なんでオレを下げるんだ!」


 


 


「勝つ気あんのかよ!」


 


 


結局。


 


 


上田は、

シニアを辞めた。


 


 


決まっていた強豪校推薦も消えた。


 


 


野球も辞める。


 


 


誰もがそう思っていた。


 


 


だが。


 


 


西北高校へ入学後。


 


 


同学年の板橋が、

しつこく声をかけた。


 


 


『辞めるのもったいねぇって』


 


 


『見学だけでも来いよ』


 


 


『来たならとりあえず入部な』


 


 


半ば強引に、

野球部へ連れて行かれた。


 


 


最初は、

どうでもよかった。


 


 


弱小野球部。


 


 


まともに守れない内野。


 


 


打てない打線。


 


 


ミスばかり。


 


 


上田は、

すぐ嫌になった。


 


 


――だったら。


 


 


――全部三振取ればいい。


 


 


――自分でホームラン打てばいい。


 


 


そうやって、

エースになった。


 


 


だが。


 


 


恵比寿は知っている。


 


 


上田は本来、

外野手だ。


 


 


野球センスは本物。


 


 


肩も強い。


 


 


打撃も凄い。


 


 


でも――


 


 


投手の器ではない。


 


 


打席で、

恵比寿が静かに構える。


 


 


上田が、

全力で腕を振った。


 


 


ズドォッ!!


 


 


143km/hの渾身のストレート。


 


 


だが。


 


 


恵比寿は、

いとも簡単にバットを合わせた。


 


 


鋭い打球。


 


 


三遊間を真っ二つに破る。


 


 


「っ!!」


 


 


レフト前ヒット。


 


 


球場がどよめく。


 


 


ワンアウト一、二塁。


 


 


上田が、

険しい顔で帽子を取る。


 


 


恵比寿は、

一塁上で静かに呟いた。


 


 


「お前、やっぱ投手向いてねぇよ」


 


 


その言葉が。


 


 


上田の神経を逆撫でした。


 


 


「……んだとコラ」


 


 


マウンドへ、

久保が向かう。


 


 


その後ろから、

寛人――虹原も歩いてきた。


 

挿絵(By みてみん)

 


久保の顔は、

真剣だった。


 


 


「上田」


 


 


「交代だ」


 


 


空気が止まる。


 


 


上田の目が、

信じられないものを見るように見開かれた。


 


 


「……は?」


 


 


「まだ一回だぞ!?」


 


 


久保は、

真正面から見返す。


 


 


「監督から全権委任されてる」


 


 


「これはオレの判断だ」


 


 


上田の拳が震える。


 


 


「ふざけんな……!」


 


 


「オレが抑えるっつってんだろ!!」


 


 


だが。


 


 


久保は引かない。


 


 


「感情で投げんな」


 


 


「相手はもうお前の球に合ってる」


 


 


上田が、

悔しそうに歯を食いしばる。


 


 


マウンドに立つ寛人は、

何も言わない。


 


 


ただ静かに、

上田を見ていた。


 


 


その視線が、

逆に上田を苛立たせる。


 


 


「チッ!!」


 


 


上田は、

ボールを思い切りマウンドへ叩きつけた。


 


 


乾いた音が、

球場へ響く。


 


 


そして。


 


 


怒りを隠さないまま、

一塁へ向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ