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「リリーフ」  作者: わたぬきたぬき


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31/49

第30話「一塁からのサイン」

上田の先頭打者ホームラン。


 


その衝撃で、

球場全体がざわついていた。


 


 


だが。


 


 


城北高校のエース・三田は、

そこで崩れるような投手ではなかった。


 


 


マウンド上。


 


 


帽子のつばを指で上げる。


 


 


その目から、

さっきまでの余裕が消えていた。


 


 


西郷が、

静かに声をかける。


 


 


「出会い頭だ」


 


 


「気にするな」


 


 


だが。


 


 


三田は、

低い声で吐き捨てた。


 


 


「……弱小野球部のくせに」


 


 


「生意気なんだよ」


 


 


空気が変わる。


 


 


次の瞬間。


 


 


ズバァン!!


 


 


久保のバットが、

空を切る。


 


 


「ストライクスリー!」


 


 


154キロ。


 


 


先ほどより、

さらに球威が増していた。


 


 


続く平石。


 


 



 


外角低めのフォーク。


 


 


完全な空振り。


 


 


「ストライクスリー!!」


 


 


平石が、

呆然と立ち尽くす。


 


 


「……見えねぇ」


 


 


さらに高島。


 

豪快なフルスイング。


 


だが。

 


最後は、

インハイ高め。


 


 


バットはかすりもしない。


 


 


三者連続三振。


 


 


球場がどよめく。


 


 


三田は、

ゆっくりベンチへ戻っていく。


 


 


その背中には、

絶対的エースの威圧感が戻っていた。


 


 


 


西北ベンチ。


 


 


久保が、

上田へ近づく。


 


 


「……爪、大丈夫か?」


 


 


上田は、

グラブをはめ直しながら鼻を鳴らした。


 


 


「コーティングした」


 


 


「まぁ、なんとかなる」


 


 


言葉ほど、

状態が万全ではないことは分かる。


 


 


それでも。


 


 


上田の目は、

まだ闘志を失っていなかった。


 


 


「一点ありゃ十分だろ」


 


 


「お前、キャッチャーなんだから抑えろ」


 


 


久保は苦笑する。


 


 


「投げるのお前だろ」


 


 


 


一回裏。


 


 


城北高校の攻撃。


 


 


打席には、

一番・神薙。


 


 


俊足巧打。


 


 


久保がミットを構える。


 


 


初球。


 


 


――コツッ。


 


 


神薙が、

いきなり三塁線へ転がした。


 


 


セーフティーバント。


 


 


「うわっ!?」


 


 


板橋が前へ突っ込む。


 


 


素早く捕球。


 


 


すぐ一塁へ送球。


 


 


だが。


 


 


「セーフ!」


 


 


神薙の足が、

わずかに早い。


 


 


球場がざわつく。


 


 


「速ぇ……」


 


 


「今のでセーフかよ」


 


 


神薙は、

ニヤリと笑いながらリードを取る。


 


 


上田が、

少し嫌そうな顔をした。


 


 


「セコいバント決めやがって……」


 


 


すると。


 


 


一塁ベース付近。


 


 


ファーストの寛人――虹原が、

静かに神薙を見ていた。


 


 


その視線は、

ただの高校生のものではない。


 


 


神薙の足。


 


 


リード幅。


 


 


重心。


 


 


癖。


 


 


全部を観察している。


 


 


そして。


 


 


寛人は、

何気ない動作で久保へサインを送った。


 


 


ほんの一瞬。


 


 


誰にも気づかれないほど小さく。


 


 


だが。


 


 


久保の目が、

わずかに見開かれる。


 


 


――マジかよ。


 


 


久保は、

小さく息を吐いた。


 


 


そして。


 


 


静かにミットを構え直す。


 


 


西北高校ベンチの誰もまだ知らない。


 


 


この回。


 


 


白石寛人の“読み”が、

試合を大きく動かすことを。

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