第29話 「打ち上げ花火」
一回表。
西北高校の攻撃。
甲子園予選準決勝。
マウンドには、
城北高校の絶対的エース――三田。
長身。
鋭い眼光。
試合前の投球練習ですら、
捕手ミットが破裂音のような音を立てていた。
バックネット裏のスカウトたちも、
熱心にメモを取っている。
キャッチャーの西郷が、
軽くミットを鳴らした。
「しかし……」
「こんな弱小公立が、よくここまで来れたな」
三田が鼻で笑う。
「どうせ奇跡だろ」
「初回で終わらせる」
だが。
西郷は、
静かに首を振った。
「どんな相手でも油断するな」
「ここまで来るには理由がある」
三田は、
少し面倒そうに肩を回した。
「真面目だなぁ、お前」
一方。
西北ベンチ。
一番打者・上田が、
ヘルメットを被りながら悪態をついていた。
「ったく……」
「久保の野郎」
「よくこんなふざけたオーダー考えたな」
バットを肩に担ぐ。
そして。
ニヤリと笑った。
「まぁいい」
「これから盛大な打ち上げ花火上げてくるから見てろ」
板橋が吹き出す。
「毎回うるせぇな、お前」
志保も、
苦笑いしながら呟く。
「……相変わらずだなぁ」
その横で。
久保が、
最後の確認をする。
「いいか上田」
「三田は追い込んだ後、インハイ高めを決め球代わりに使う確率高い」
「特に“振ってこない打者”には試したがる」
上田が、
露骨に嫌そうな顔をした。
「はぁ?」
「だから、投げた瞬間そこだけ振れ」
「球は見なくていい」
「一点だけ狙え」
上田は、
ますます不満そうだった。
「なんでお前に指図されなきゃ――」
「いいから行け」
久保が強引に背中を押す。
球場アナウンス。
『一番、ピッチャー、上田くん』
歓声。
上田が、
打席へ向かう。
三田は、
どこか退屈そうに構えていた。
西郷のサイン。
初球。
ズバァン!!
豪速球。
ど真ん中。
球場がどよめく。
球速表示。
「152キロ」
上田は、
バットを動かしもしなかった。
「ストライク!」
三田が鼻で笑う。
「へぇ」
「ビビって振れねぇか」
二球目。
高速スライダー。
鋭く外へ逃げる。
上田は、
また動かない。
「ストライクツー!」
西北ベンチがざわつく。
「おい上田……」
「何やってんだ?」
だが。
上田は、
静かにバットを握り直していた。
――しゃくだ。
久保の言う通りにやるなんて。
でも。
頭の中には、
さっきの言葉が残っていた。
『インハイ高め』
『そこだけ振れ』
マウンド上。
西郷が、
少し考える。
「……振ってこないな」
なら。
試してみるか。
ミットが、
インハイ高めへ動く。
三田が頷く。
そして。
投げた。
その瞬間。
上田の目が変わった。
踏み込む。
迷いなく。
一点だけを見る。
――カキィィン!!!
鋭い金属音が、
球場へ突き刺さった。
観客が一斉に立ち上がる。
打球は、
凄まじい速度で左方向へ伸びていく。
そして――
ガァンッ!!
レフトポール直撃。
先頭打者ホームラン。
球場が、
一瞬静まり返る。
マウンド上。
三田が、
唖然としていた。
「……は?」
西郷は、
ゆっくり打球方向を見つめながら呟く。
「やっぱりだ」
「このチーム……ただ者じゃない」
上田は、
悠々とベースを回る。
だが表情は、
どこか不満そうだった。
――くそ。
――久保の言う通りじゃねぇか。
それが、
なんだか妙に悔しかった。




