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「リリーフ〜春風」  作者: わたぬきたぬき


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22/53

「繋いだ先」

八回表終了。


スコアボードには、5―4。


城南高校がリードしている。


板橋は、ここまで十一安打を浴びながらも、なんとかマウンドに立ち続けていた。


「何やってるんだ、お前ら!」


城南の監督の怒声がベンチに響く。


「相手は野手上がりだぞ!?」


「なんで打ち崩せないんだ!!」


ベンチが静まり返った。


スコアは、わずか一点差。


本来なら、とっくに試合を決めていてもおかしくない展開だった。


「変化球だって、大して曲がってない!」


「球も速くない!」


監督が苛立たしげにスコアブックを叩く。


「なのに、なんで詰まるんだ!」


「どうして打球が上がらない!!」


誰も答えられなかった。


実際、打席に立った選手たちも困惑していた。


球速はない。


変化球も、目を見張るほどの切れはない。


それなのに、どうしてもタイミングが合わない。


打ちにいけば、芯を外される。


強く振り抜いたはずの打球が、内野の頭を越えない。


そして、勝負どころでは決まって凡打に終わる。


まるで、自分たちの打撃を見透かされているかのようだった。


「くそっ……!」


城南の四番、志村が悔しそうに吐き捨てた。


その頃。


反対側のベンチでは、板橋が肩で息をしながらスポーツドリンクを飲んでいた。


ユニフォームは土だらけ。


帽子のつばから、汗がぽたりと落ちる。


挿絵(By みてみん)


「……っはぁ……」


息を整えようとしても、なかなか呼吸が落ち着かない。


八回を投げて、五失点。


被安打十一。


決して、褒められた投球内容ではない。


それでも――


試合は、まだ壊れていなかった。


「ナイスピッチ!」


「よく踏ん張ってるぞ!」


チームメイトから声が飛ぶ。


板橋は、苦笑いを浮かべた。


「五点も取られてるんだぞ、俺」


「それでも、まだ一点差だろ」


久保がミットを軽くぶつけた。


「お前が踏ん張ってるから、俺たちも勝負できてるんだ」


「……そっか」


板橋は短く答えた。


いつものように冗談を返す余裕は、もうなかった。


それでも、その表情には、ほんの少しだけ救われたような色が浮かんでいた。


ベンチの奥。


寛人は、そんな二人のやり取りを静かに見つめていた。


左肘には、まだ重い痛みが残っている。


今、無理に投げれば、取り返しのつかないことになるかもしれない。


それは、自分でもわかっていた。


けれど――


(……なんとか、繋いでくれてる)


寛人は、マウンドの板橋に目を向けた。


普段はおちゃらけてばかりの男。


ふざけて、笑って、周りを和ませる男。


その板橋が今、足を震わせながらも、必死にマウンドを守っている。


十一本ものヒットを浴びても。


五点を失っても。


決して、試合を投げ出さなかった。


(だったら――)


寛人は、ゆっくりと立ち上がった。

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