↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「リリーフ〜春風」  作者: わたぬきたぬき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/53

「乱打戦」

三回戦。


西北高校は、思わぬ形で板橋をマウンドに送ることになった。


本来なら、上田か寛人が投げるはずだった。


しかし、二人ともケガを抱えている。


今、チームを託せるのは板橋しかいなかった。


一回表。


板橋はいきなり、先頭打者にホームランを浴びた。


それでも、崩れなかった。


その後も走者を背負い、苦しい投球が続く。


だが、守備陣が板橋を支えた。


最後は、トリプルプレー。


三つのアウトを一気に奪い、城南の攻撃を終わらせた。


「よっしゃあ!」


西北ベンチが沸き立つ。


板橋は大きく息を吐き、帽子のつばを直した。


(……まだ、いける)


その裏。


西北もすぐに反撃した。


四球で出塁したランナーをバントで進め、得点のチャンスを作る。


そして――。


久保の打球が外野を抜けた。


タイムリーヒット。


二塁走者がホームへ還る。


同点。


「よしっ!」


ベンチから歓声が上がった。


由希も思わず立ち上がる。


「やった……!」


試合は、初回から激しく動いていた。


二回表。


板橋は先頭打者に長打を許した。


さらに、続く打者にも長打を浴びる。


城南に勝ち越しを許した。


後続を何とか抑え、ベンチへ戻った板橋は、荒い息を整えながら腰を下ろした。


久保が、静かに声をかける。


「板橋。一回一失点なら大丈夫だ」


「……そうかよ」


「まだ試合は始まったばかりだ」


板橋は何も言わず、小さく頷いた。


三回表。


再びマウンドへ向かう。


先頭打者。


内野フライ。


続く打者も、内野フライ。


そして三人目。


またしても、内野フライだった。


三者凡退。


三人とも、マッスラで打ち取った。


「よしっ!」


板橋はグラブを叩いた。


ベンチでは、上田と寛人が声を張り上げていた。


「ナイスピッチ!」


「板橋、いいぞ!」


板橋は軽く手を上げて応える。


だが、声援を送る二人の表情には、どこか苦しさがにじんでいた。


本来なら、自分たちが投げるはずだった。


板橋に負担をかけている。


その悔しさは、声を張り上げるたびに胸の奥へ重く沈んでいった。


試合は、その後も動き続けた。


西北が点を取れば、城南も取り返す。


城南が勝ち越せば、西北もすぐに追いつく。


一点を争う、シーソーゲーム。


板橋は、マウンドで粘り続けた。


そして、西北の攻撃。


今度は、板橋自身が打席に立つ。


「板橋、頼むぞ!」


上田の声が飛んだ。


板橋はバットを握り直す。


相手投手の球を見据え、思い切り振り抜いた。


鋭い打球が三遊間を抜けていく。


タイムリーヒット。


「おおおっ!」


ベンチが沸いた。


板橋は一塁へ向かって走る。


そして――ヘッドスライディング。


土煙を上げてベースに滑り込むと、一塁上で拳を握った。


挿絵(By みてみん)


「……俺だって、やれるんだよ」


その声は、誰かに聞かせるためというより、自分自身に言い聞かせるようだった。


投げるだけじゃない。


打つことだって、チームの力になれる。


板橋は、もう一度だけ拳を握りしめた。


試合は、そのままシーソーゲームとなった。


気がつけば、六回表。


スコアは五対四。


城南が、わずか一点をリードしていた。


予想以上の好投を続ける板橋。


だが、その疲労は明らかだった。


ベンチへ戻るたび、肩で大きく息をする。


汗を吸ったユニフォームは、ずっしりと重くなっていた。


それでも由希は、毎回、板橋のもとへ駆け寄った。


「板橋先輩、ナイスファイト!」


そう言って、ドリンクを差し出す。


「……ありがと」


板橋は受け取り、一口飲んだ。


「まだ、いけます!」


由希は笑顔で言った。


その声は、いつもと変わらなかった。


けれど、ドリンクを差し出す手は、板橋の疲れを気遣うようにそっと伸びていた。


板橋は一瞬、彼女の顔を見つめた。


無理をしていることくらい、由希にも分かっているはずだ。


それでも、彼女は「もう無理ですか」とは聞かない。


ただ、信じてくれている。


そのことが、嬉しかった。


「……ああ。まだいける」


板橋は立ち上がり、帽子のつばを直した。


次の回。


また、マウンドへ向かう。


由希も、ドリンクを手にベンチから見送った。


「板橋先輩、頑張ってください!」


その声に、板橋は片手を上げて応えた。


回を重ねるたび、板橋の返事は短くなっていった。


「……ああ」


それだけ答えるのが精いっぱいの時もあった。


それでも、マウンドを降りようとはしなかった。


ベンチでは、上田と寛人が声を送り続けている。


「板橋、頑張れ!」


「頼むぞ!」


板橋は二人の声を背中に受け、帽子のつばを直した。


そして、再びマウンドへ向かう。


足取りは、少しずつ重くなっていた。


腕にも、肩にも、疲労が蓄積している。


それでも、板橋は前を向く。


この試合を、最後まで投げ抜く。


その気持ちだけは、まだ消えていなかった。

省略してしまった試合展開を補足しました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。