第19話 「代打攻勢」
八回裏。
ツーアウト、一塁。
上林監督が、小さく告げる。
「白石、行けるか」
白石は、短く頷いた。
「打つ必要はない」
監督が続ける。
「お前の仕事は、出ることだ」
代打・白石。
アナウンスが響く。
ざわつくスタンド。
バッターボックスへ向かう白石を。
板橋が、少し驚いた顔で見ていた。
(お前、肘……)
だが。
白石は何も言わない。
ただ、静かに構える。
初球。
外。
見送る。
ボール。
二球目。
低め。
ギリギリ外れる。
また、見送る。
三球目。
インコース。
ファウル。
四球目。
落ちる球。
振らない。
スリーボール、ワンストライク。
球場が静まる。
投手が投げる。
際どいコース。
白石は――動かない。
「ボール!!」
フォアボール。
西北ベンチが湧く。
白石は、小さく息を吐いた。
(……繋いだ)
一塁へ歩く。
その背中を見ながら。
板橋が、わずかに拳を握る。
そして。
上林監督が、次の名前を呼ぶ。
「代打・上田」
ベンチの空気が、変わる。
上田は、ゆっくり立ち上がった。
まだ右手にはテーピング。
爪の状態も万全じゃない。
でも。
その目だけは、死んでいなかった。
「打てるのか」
久保が聞く。
上田は、鼻で笑った。
「知らねぇ」
バットを肩に乗せる。
そして。
グラウンドを見る。
マウンド横。
肩で息をしている板橋。
あいつが。
慣れない場所で。
必死に投げている。
だったら。
「……打つしかねぇだろ」
小さく呟く。
打席へ入る。
初球。
見送る。
二球目。
高め。
空振り。
追い込まれる。
城南ベンチが騒ぐ。
「押せ押せ!」
だが。
上田は、笑っていた。
(上等だ)
三球目。
インコース。
踏み込む。
フルスイング。
――カキィン!!
打球が、右中間を破る。
外野が追う。
だが、抜ける。
ランナーが還る。
一人。
二人。
さらに上田は二塁へ滑り込む。
走者一掃の逆転二塁打。
西北ベンチが総立ちになる。
板橋が、呆然と打球方向を見ていた。
上田は、二塁上で荒く息を吐く。
そして。
板橋を見る。
「……よく投げてんじゃねぇか」
ぶっきらぼうに言う。
板橋の目が、少し揺れた。
その瞬間。
城南の応援をかき消すように。
西北の歓声が、夏空へ突き抜けた。




