↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「リリーフ〜春風」  作者: わたぬきたぬき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/53

第15話「お前は黙ってろ」

三回戦当日。


西北ベンチには、重い空気が流れていた。


ブルペン。


上田が、右手を見つめている。


中指には、分厚いテーピング。


試しに一球、投げる。


――ぱしっ。


ミットには届く。


だが。


足が着地した瞬間。


上田の顔が歪んだ。


「……チッ」


握ったボールに、血が滲む。


割れた爪が、また開いていた。


久保が、静かに眉をひそめる。


上田は、もう一球投げようとして――


「やめとけ」


久保が止めた。


これ以上やったら、本当に終わる」


上田が、悔しそうに舌打ちする。


「……クソが」


その少し後ろ。


寛人も、静かに肩を回していた。


左肘が重い。


昨日より悪い。


それでも。


投げるしかないと思っていた。


上林監督が、寛人を見る。

 

「白石」


「行けるか」


短い問い。


寛人は、一瞬だけ黙って。


「……投げます」


そう答えた。


その瞬間。


「ダメです」


低い声が飛ぶ。


全員が振り向く。


久保だった。


上林監督が、目を細める。


久保は、真っ直ぐ監督を見たまま言う。


「今の白石、調子は最悪です」


寛人の眉が、わずかに動く。


久保は、続けた。


「使えても、一人か二人です」


「ワンポイントが限界です」


ベンチが静まり返る。


寛人が、口を開こうとする。


「いや、俺は――」


だが。


「お前は黙ってろ!」


久保が、一喝した。


鋭い声。


寛人が、言葉を止める。


久保は、監督から目を逸らさない。


「昨日からずっと庇って投げてます」


「このまま先発なんかさせたら、本当に壊れます」


静かな口調。


でも。


その目は、本気だった。


寛人は、少し俯く。


(……こいつ)


気づく。


久保は、分かっている。


自分が無理をしていることも。


投げたがっていることも。


全部分かった上で。


あえて、自分が悪者になっている。


監督に逆らう形になってでも。


寛人を止めようとしていた。


沈黙。


やがて。


上林監督が、小さく息を吐く。


「……分かった」


短く答える。


寛人は、わずかに拳を握った。


悔しい。


でも。


どこか、少しだけ救われてもいた。


久保が、寛人の横を通り過ぎる。


すれ違いざま。


小さく言った。


「後で出番は必ず来る」


「その時、頼んだぞ」


寛人は、顔を上げる。


久保は、振り向かない。


ただ、いつものようにマスクを被った。


その背中を見ながら。


寛人は、小さく息を吐く。


「……勝手なこと言いやがって」


でも。


その声は、少しだけ柔らかかった。


そして。


上林監督が、ゆっくり視線を動かす。


「板橋」


突然名前を呼ばれ。


サード付近で準備していた板橋が、振り返った。


「お前、リトルで投手やってたな」


板橋の表情が固まる。


「……いや」


嫌な予感が、全身を走る。


上林監督は、静かに言った。


「今日、先発行け」


夏の空に。


重い沈黙が落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。