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「リリーフ」  作者: わたぬきたぬき


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第16話 「スクランブル登板」

いきなり監督から先発ピッチャーを指名され困惑する板橋。



「……いや、でも」


 


 


 


「昔の話です」


 


 


 


「今さら無理ですよ」


 


 


 


即答だった。


 


 


 


当然だ。


 


 


 


公式戦。


 


 


しかも三回戦。


 


 


 


いきなりマウンドに立てと言われても。


 


 


 


 


「できません」


 


 


 


板橋は、はっきり言った。


 


 


 


ベンチが静まる。


 


 


 


だが。


 


 


 


上林監督は怒らない。


 


 


 


ただ。


 


 


 


静かに頷いた。


 


 


 


「そうか」


 


 


 


それだけ。


 


 


 


 


その空気が、逆に苦しい。


 


 


 


板橋が、目を逸らす。


 


 


 


 


その時だった。


 


 


 


「……先輩なら、できます」


 


 


 


小さな声。


 


 


 


全員が振り向く。


 


 


 


由希だった。


 


 


 


帽子を抱えたまま。


 


 


 


少し緊張した顔。


 


 


 


でも。


 


 


 


目だけは、逸らしていなかった。


 


 


 


「板橋先輩、ずっとチーム助けてきたじゃないですか」


 


 


 


「だから……」


 


 


 


一瞬、言葉を飲み込む。


 


 


 


それでも。


 


 


 


「私は、できると思います」


 


 


 


真っ直ぐな声。


 


 


 


板橋が、目を見開く。


 


 


 


しばらく、沈黙。


 


 


 


やがて。


 


 


 


板橋は、大きく息を吐いた。


 


 


 


頭をかく。


 


 


 


「……言ったな」


 


 


 


由希が、少しだけ肩を揺らす。


 


 


 


板橋は、苦笑した。


 


 


 


「打たれても知らねぇぞ」


 


 


 


その言葉に。


 


 


 


ベンチの空気が、少しだけ動く。


 


 


 


由希は、ほっとしたように笑った。


 

挿絵(By みてみん)

 


 


 


上林監督が、前へ出る。


 


 


 


選手たちを見る。


 


 


 


「いいか」


 


 


 


低い声。


 


 


 


「今日は多分、点を取られる」


 


 


 


誰も、口を開かない。


 


 


 


「守り切る試合じゃない」


 


 


 


「殴り合いになる」


 


 


 


監督は、ゆっくり全員を見渡した。


 


 


 


「覚悟しろ」


 


 


 


「一点取られたくらいで下向くな」


 


 


 


「その分、取り返せ」


 


 


 


静かな言葉。


 


 


 


でも。


 


 


 


その目は、本気だった。


 


 


 


「今日は――」


 


 


 


「全員で勝つぞ」


 


 


 


 


短い沈黙。


 


 


 


そして。


 


 


 


「……っしゃあ!!」


 


 


 


最初に声を上げたのは、上田だった。


 


 


 


続いて久保。


 


 


 


白石。


 


 


 


板橋。


 


 


 


声が、重なる。


 


 


 


ベンチの空気が、変わっていく。


 


 


 


その輪の少し後ろで。


 


 


 


由希は、小さく胸を撫で下ろしていた。


 


 


 


板橋が、そんな由希をちらりと見る。


 


 


 


 


「……責任取って応援してくださいよ、マネージャー」


 


 


 


由希は、一瞬きょとんとして。


 


 


 


それから。


 


 


 


少し照れながら、笑った。


 


 


 


「はいっ」


 


 


 


 


夏の空は、どこまでも青かった。


 


 


 


でも――


 


 


 


西北の戦いは、ここからが本番だった。

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