第14話「雨を願った夜」
夜。
白石家の二階。
窓の外では、虫の声だけが静かに響いていた。
部屋の電気は消えている。
白石寛人――虹原は、ベッドの上で仰向けになっていた。
眠れない。
左肘が、熱を持っている。
ズキ。
鈍い痛みが、奥に残る。
シンカー。
本来なら、もっと身体が出来上がった投手が投げる球だ。
まして。
高校生の身体。
しかも、慣れていないフォーム。
無茶なのは、自分が一番分かっていた。
「……っ」
そっと腕を曲げる。
痛む。
明らかに。
(やっちまったな……)
小さく息を吐く。
明日は、三回戦。
本当なら。
休むべきだ。
だが。
今の西北に、自分と上田抜きで戦える投手はいない。
板橋も。
久保も。
志保も。
みんな、必死に戦っている。
そこで、
「投げられません」
とは言えなかった。
寛人は、ゆっくり窓の外を見る。
夜空。
雲は、ほとんどない。
星が見える。
「……雨、降らねぇかな」
ぽつりと呟く。
試合が流れれば。
一日休める。
それだけで違う。
肘も。
チーム状況も。
全部。
(情けねぇな)
苦笑する。
昔の虹原なら、こんなこと考えなかった。
多少痛くても投げた。
投げられるなら、投げる。
それが当たり前だった。
でも。
今は違う。
痛みが怖い。
投げられなくなるのが怖い。
それ以上に。
この場所を失うのが、少し怖かった。
コンコン。
不意に、扉が鳴る。
「寛人?」
頼子の声。
寛人が、慌てて身体を起こす。
「……なんだよ」
「まだ起きてたの?」
扉が少し開く。
頼子が、心配そうに顔を覗かせた。
「湿布、替えなさい」
そう言って、小さな袋を置く。
「痛いんでしょ?」
寛人は、少し黙って。
それから。
「……まぁ」
小さく答えた。
頼子は、無理に聞かない。
ただ。
「無茶だけはしないでね」
静かに言う。
その声が。
妙に胸に残った。
扉が閉まる。
部屋に、また静けさが戻る。
寛人は、置かれた湿布を見る。
それから。
もう一度、窓の外を見た。
「……少しくらい、降ってくれてもいいだろ」
誰に言うでもなく、呟く。
だが。
夜空には、相変わらず星が見えていた。




