第13話「帰り道」
「じゃあ、またね」
頼子の声に見送られて、家を出る。
「また来てね、志保ちゃん」
「はい」
自然に返せたその言葉が、少しだけ嬉しかった。
夜の空気は、昼間よりも少しだけやわらかい。
歩き出して、少し。
ふと、足が止まる。
振り返ると。
さっきの家の明かりが、まだついていた。
――あったかいな。
胸の奥が、じんわりする。
「……ずるいな」
ぽつりと、呟く。
あんな場所があって。
あんな風に、迎えてくれる人がいて。
そして。
あの人が、そこにいる。
「守る、か……」
小さく、繰り返す。
昔の話のはずなのに。
どうしてだろう。
今の言葉みたいに、聞こえた。
グラウンドでの姿が、浮かぶ。
苦しそうで。
それでも、最後まで投げようとしていた背中。
「……無理、しすぎなんだよ」
少しだけ、唇を噛む。
分かっている。
あの人は、きっと言わない。
弱いところなんて、見せない。
だから――
「……私が、見てないと」
自分でも、驚くくらい自然に言葉が出た。
その瞬間。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「あ……」
気づいてしまう。
これはもう、“ただの幼なじみ”じゃない。
「……ほんと、ずるい」
少しだけ、笑って。
目元が、じんわりと滲む。
涙は、こぼさない。
でも。
風が吹くたびに。
その奥の感情が、揺れる。
遠くで、電車の音がした。
夜は、静かに更けていく。
そして――
その想いが、届くかどうかなんて。
まだ、誰も知らない。




