第12話「そろって食べるご飯」
夕飯の後。
食器を片付けながら、頼子が笑う。
「ごめんねぇ、こんな普通のご飯で」
「そんなことないです!」
志保は、少し慌てたように首を振った。
「すごく……あったかくて」
その言葉に。
頼子が、優しく笑う。
「ならよかった」
台所には、柔らかい空気が流れていた。
白石――いや、虹原は、その様子を黙って見ている。
志保は、どこか嬉しそうだった。
味噌汁を飲む時も。
焼き魚をほぐす時も。
小さく笑っていた。
そして。
ふと。
「……ちょっと、羨ましかったです」
志保が、小さく呟く。
頼子が、きょとんとした。
「え?」
志保は、少し照れたように笑う。
「うち、自営業だから」
「夜もバラバラなこと多くて」
「家族そろってご飯食べるの、あんまりないんです」
その言葉に。
頼子の表情が、少しだけ柔らかくなる。
「あぁ……そうなんだ」
志保は、小さく頷く。
「だから、こういうの……ちょっと憧れてました」
「みんなでご飯食べるの」
静かな声。
でも。
どこか、本音だった。
頼子は、少し笑って。
「なら、また来なさい」
「うちはいつでもこんな感じだから」
志保が、目を丸くする。
「え、でも……」
「遠慮しなくていいの」
頼子は、優しく言った。
「寛人、小さい頃からずっと志保ちゃんに助けてもらってるし」
「家族みたいなもんでしょ?」
その瞬間。
志保の頬が、ほんの少し赤くなる。
「か、家族って……」
頼子が、くすっと笑う。
その横で。
寛人――虹原は、黙ったまま視線を落としていた。
“家族みたい”。
その言葉が、胸に残る。
温かい。
でも。
少しだけ、苦しかった。
これは、本当は。
白石寛人の場所だから。
「……ほら、帰り遅くなるぞ」
ぶっきらぼうに言う。
志保が、少し笑った。
「うん」
その返事が。
どこか、嬉しそうだった。




