第9話「崩壊と逆流」
楽勝ムードの一回戦から続く二回戦。
空気は、重かった。
五回表。
スコアは――7対0。
西北は、完全に押されていた。
マウンドの上。
上田は、歯を食いしばる。
「……っ」
また、ボール。
フォアボール。
今日だけで、いくつ目か分からない。
ストライクが、入らない。
腕は振れているのに。
指先が、抜ける。
(なんでだよ……!)
視線が、下に落ちる。
そこへ――
「大丈夫だ、上田!」
白石の声。
だが。
その白石も――
直後のプレーで、ミスをする。
ワンバウンドを止めきれない。
ボールが逸れる。
ランナーが、還る。
また、1点。
「……悪い!」
白石が叫ぶ。
だが、流れは止まらない。
バッテリーミス。
連携の乱れ。
焦り。
それが、次のミスを呼ぶ。
気づけば――
7対0。
ベンチに戻る足取りは、重かった。
誰も、声を出さない。
元気印の志保も俯き加減で何も発せない。
その沈黙を。
破ったのは――
「……まだ終わってねぇだろ」
板橋だった。
低い声。
でも、はっきりと。
「一点ずつでいい。返すぞ」
白石が、顔を上げる。
志保が、強く頷く。
そして――
五回裏。
先頭打者。
――ヒット。
続く打者。
――出塁。
ベンチの空気が、変わる。
「行けるぞ……!」
小さな声が、広がる。
さらに一本。
1点。
また1点。
気づけば、打線が繋がる。
止まらない。
そして――
二死満塁。
打席には。
上田。
ざわつくスタンド。
さっきまでのピッチング。
誰もが、不安を感じている。
だが。
上田は――
俯いたまま、バットを握っていた。
(ふざけんな……)
心の奥で、何かが煮えたぎる。
(あんな投球して……)
(終われるかよ……!)
顔を上げる。
目が、変わる。
「――来い」
投手が、投げる。
初球。
振り抜く。
――カキィン!!
乾いた音。
打球は――
高く。
大きく。
レフトスタンドへ。
静寂。
次の瞬間――
歓声が爆発する。
満塁ホームラン。
上田は、走る。
何も言わず。
ただ、歯を食いしばって。
ベンチが、総立ちになる。
白石が、拳を握る。
志保の目に、涙が滲む。
「これで、同点だ!!」
誰かが叫ぶ。
スコアは――
7対7。
試合は、まだ終わっていない。
いや。
ここから、始まる。




