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第8話 仲間を求めて -4

「リロード」


空薬莢を弾き出し、六発を装填し直す。

飛沫、体当たり、分裂体の突撃。

それを避け、爆音で引き剥がし、また避ける。

戦闘が長引くにつれて、ホールの熱がじわじわと効いてきた。


「……3……2……」


カウントを刻む。

本体の体当たり。タイミングは見えている。

見えている、はずだった。


視界が、ちらついた。


「――くそっ」


咄嗟にトリガーを引いて逃げたが、勢いを殺しきれない。

溶岩の縁が肩から胸にかけてを削り、HPバーが一気に三割ほど持っていかれた。


「ヒール!」


即座に光が身体を包む。

削れた分が戻る。だが、遅れが取り戻せたわけではない。


まずいな、と思った。

脳疲労だ。

さっきよりも深い。

五年もやっていれば嫌になるほど付き合ってきた感覚だが、抜き方はいつも同じだった。

距離を取って、数秒だけ何もしない。それで戻る。


だが今、俺が下がればヘイトは散る。


「ジンさん、下がってください」


背後から、ミナの声が飛んだ。


「……だが俺が抜けたら」

「十秒でいいです。下がってください」


有無を言わせない口調だった。


「リーシャ!」

「聞こえてるわよ。【スパーク】!」


紫電が奔り、分裂体を貫いた。

低位の雷魔法。火力は高くないが、範囲が広い。

弾かれるように動きを止めた分裂体の群れへ、続けてミナの光弾が突き刺さる。


「行ってください!」


俺は舌打ちして、爆風で大きく後ろへ跳んだ。

石壁に背をつけ、目を閉じる。

一、二、三――。

視界のちらつきが、ゆっくりと引いていく。

こめかみの重さは残っているが、カウントは取れる。それで十分だ。


思えば、こんなふうに誰かに任せて下がったのは初めてかもしれない。

ソロで潜っていた頃は、下がる先などなかった。

野良でやっていた頃は、下がれば文句を言われた。


「――戻る!」


七秒。

爆風で一気に距離を詰め、分裂体とリーシャの間に割り込んだ。


ドォンッ!


爆音が、逸れかけていたヘイトを引き戻す。


「ナイスタイミング! MP、七割まで戻ったわ!」

「上等だ。核はやれるか」

「固めるだけならね。砕くのはそっちの仕事よ」

「望むところだ」


リーシャが長杖を掲げ、その先端に蒼白い冷気が渦を巻いた。


「【フロストバインド】!」


放たれた冷気がラヴァ・スライムの巨体を包み込む。

赤黒く波打っていた表面が、みるみるうちに色を失っていった。

熱を奪われた粘体が硬化し、透けて見えていた核が、白く曇った氷の内側に閉じ込められる。


「今よ! 二十秒しか保たない!」

「十分だ」


俺は地を蹴った。

硬化した体表を足場にして駆け上がる。

溶けている間は刃の通らなかった表面が、今は氷そのものだ。


「シェル・スライド!」


連続する爆発が、俺の身体を核へと押し上げる。


ドォンッ! ドォンッ!


二発。核を覆う氷に亀裂が走った。

だが、割れない。厚い。


残り四発。


「ジンさん、右です!」


ミナの声。

考えるより先に身体を捻る。

硬化を逃れた分裂体が一体、俺の足元へ食らいついてきていた。


ドォンッ!


一発を足元に撃ち込み、その爆風で身を捻って躱す。

普通ならこの角度は取れない。爆発があるからできる芸当だ。


残り三発。


「セフィラ!」


緑の光が身体を包む。

継続回復。相変わらず効果は薄い。

だが今欲しいのは大きな一発じゃない。削られても落ちない保険だ。


「――こいつで終いだっ!」


亀裂の中心へ刃を突き立て、三発すべてを叩き込む。


ドォンッ! ドォンッ! ドォォンッ!!


シリンダーに残った全エーテルが、ゼロ距離で爆ぜた。

氷が砕け、その内側で、白熱した核が露わになる。


「ミナ!」

「グレアム!!」


光弾が一直線に走り、剥き出しの核を撃ち抜いた。


甲高い破砕音がホールに響き渡る。

支えを失った巨体がぐずりと崩れ、光の粒子となって散っていった。

溶岩溜まりの熱が、少しずつ引いていく。


「……終わった、か」


俺は石床に降り立ち、剣を収めた。

指先はまだ重い。だが、悪い気分ではなかった。


「お疲れ様です、ジンさん!」


ミナが駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか? 脳疲労、まだ残ってますよね」

「多少はな。ログアウトすりゃ抜ける」

「……無理しないでくださいね」

「ああ」


そこへ、リーシャがゆっくりと歩いてきた。

長杖を肩に担ぎ、俺の顔を正面から見上げてくる。


「ジンさん」

「なんだ」

「アタシ、そのパーティー入るわ」


あっさりとした一言だった。


「いいのか。散々試したわりに、決めるのは早いんだな」

「早くないわよ。ちゃんと二回試したもの」


リーシャは指を二本立ててみせた。


「一回目は、アタシの詠唱を守れるか。二回目は、守れなくなった時にどうするか」


二回目。あの十秒か。


「下がれって言われて素直に下がるタンク、実はそんなに多くないのよ。意地張って居座って、そのまま崩れるのがほとんど。……あんたは下がったわね」

「言われたからな」

「そう。言われたから下がれる。それが一番大事なの」


彼女は肩をすくめ、それからミナに視線を移した。


「あと、この子ね。正直これが一番の収穫だったわ」

「え、私ですか!?」

「あんた、自分がどれだけおかしなことしてるか自覚ないでしょ」

「お、おかしなこと!?」


ミナが慌てる。

リーシャは笑って、その頭を軽く小突いた。


「褒めてるのよ」


俺たちはボス部屋を出て、転送でルミナスエデンへと戻った。

中央広場の噴水が、夕日を受けてオレンジ色に揺れている。

いつもの縁に、三人で並んで腰を下ろした。


「じゃ、改めて。今日からアタシもメンバーってことでよろしくね」

「ああ、頼む」

「はい! よろしくお願いします、リーシャ!」


ミナが嬉しそうに頭を下げた。

これで三人。

タンク、ヒーラー、アタッカー。


「……で、あと一人ね」


リーシャが噴水の水面を眺めながら言った。


「インスタンスダンジョンは四人固定。アタッカーがもう一枚要るわ」

「宛はあるのか?」

「あるわよ」


彼女はあっさりと頷いた。


「一年くらい前から時々一緒に潜ってる子がいるの。腕は確かよ。アタシが認めてる数少ないプレイヤーの一人」

「へぇ。リーシャが認めるってのは相当だな」

「でしょ? ……ただねぇ」


そこで彼女は、珍しく言葉を濁した。


「ちょっと、変わってるのよ」


その言い方が妙に引っかかったが、リーシャはそれ以上説明する気がないらしい。

メニューを開き、何やらメッセージを打ち込んでいる。


「明日、ここに呼ぶわ。……来るかしらね」

「来るかしら、って」

「大丈夫よ、たぶん」


たぶん、か。

不安しかないその一言を最後に、リーシャは片手を挙げてログアウトしていった。

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