第20話 戦いの鐘 -3
ドォンッ!
爆音で意識を引きつける。
「リーシャ、装置へ!」
「アタシ!?」
「一番後ろにいる。距離が近い」
「もう、しょうがないわね!」
リーシャが装置へ走った。
三人になった。
ヒーラーと、近接アタッカー一枚と、タンク。
削り切れる火力じゃない。
「ナギ、削れるだけ削れ!」
「【霞】」
背面に一の太刀。
「側面!」
「【流】」
俺は爆風で位置を変え、イールの巨体を回す。
細長い分、向きを変えさせるのが遅い。ナギにとっては動きやすい相手のはずだ。
「【陰】」
「――【月輪】」
四手目が入り、灰色の体表が裂けた。
「水位、下がってます!」
ミナの報告。
リーシャが装置を回している間、確かに水路の水は引いていた。
だが。
「もう一箇所、光ってます!」
別の隅の装置が点滅を始めた。
「二つ同時か」
「アタシ、こっち押さえてるわよ!」
つまり、もう一人抜けろということだ。
三人が二人になる。
タンクとヒーラーだけでは、削る手がない。かといってナギを送れば、火力がゼロになる。
「ミナ!」
「はい!」
「向こうを頼む」
「え、でも回復が」
「セフィラを置いてから行け。十五秒でいい」
ミナが一瞬迷って、それから頷いた。
「セフィラ!」
緑の光が身体を包む。
彼女はそのまま装置へ走った。
俺とナギの二人になった。
イールが顎を開く。三度目の水流。
「避けろ!」
爆風で跳ぶ。ナギは既に側面へ逃げていた。
水流が壁を叩き、水位がまた上がる。
「ジン。回復がない」
「わかってる。だから当たるな」
理屈は単純だった。
ヒーラーが抜けている間、被弾すればそのまま蓄積する。
なら、被弾しなければいい。
「――3……2……1」
カウントを刻む。
イールの突進が来る。爆風で真横へ。
刀が閃く音がした。
言わなくても、ナギはもう回り込んでいる。
「【霞】」
背面。
俺は爆風でわずかに位置をずらし、巨体の向きを回した。
「【流】」
側面。
言葉がいらない。
拍だけで、こいつは合わせてくる。
「【陰】」
「――【月輪】」
四つ目が入った瞬間、装置の音が変わった。
「水位、戻りました!」
「アタシもよ!」
二人が戻ってくる。
四人に戻った瞬間、明らかに空気が変わった。
「【グレイシャル・ノヴァ】!」
蒼白い奔流が広間を貫き、水路に溜まった水ごとイールを凍てつかせる。
灰色の巨体が硬化し、体表の裂け目が白く曇った。
「アイギス!」
先に置かれている。
「――全弾いくぞ」
俺は凍った裂け目に剣を突き立てた。
ドォンッ! ドォンッ! ドォォンッ!!
シリンダーの中身を全部、ゼロ距離で。
砕けた氷の下から、絡みついた配管が露わになる。
「ナギ!」
「――【残月】」
一閃。
灰色の巨体が縦に断ち割られ、動きを止めた。
絡みついていた管が、力を失って床に落ちる。
イールは光の粒子となって消えていった。
「……終わった」
俺は膝に手をついて、息を吐いた。
「MP二割よ、アタシ」
「私も三割です」
「装置押さえてる間、削れないのがきついな」
四人で顔を見合わせた。
「二周目からは、押さえる順番決めておきましょ」
リーシャがそう言って、装置の位置を確認し始めた。
もう次を考えている。
周回する気だ。この女は本当に切り替えが早い。
第三層への道は、下りではなく上りだった。
「上がるのか」
「変ね。海底に潜ってるはずなのに」
短い階段を上がった先に、大きな扉があった。
これまでの隔壁とは造りが違う。石ではなく、鈍い銀色の金属で、表面に彫刻が施されている。
「これ……」
ミナが扉を見上げた。
彫られていたのは、蛇だった。
とぐろを巻いた巨大な蛇が、扉の全面を埋めている。
ただの蛇ではない。背びれがあり、鰭があり、頭部には角が伸びていた。
「リヴァイアサンね」
リーシャが言った。
「この国の守護神。街の紋章にも入ってるわよ」
「神殿の扉に神様、ってのは順当だな」
「そうね。……ようやく神殿らしくなってきたじゃない」
ナギが扉に近づき、彫刻の一点に触れた。
「……縄だ」
「なんだって?」
見れば、蛇の胴に幾重にも縄が巻かれている。
装飾かと思っていたが、確かに縄だった。
「祀ってるんじゃなくて、縛ってるように見えるな」
「注連縄みたいなものでしょ。神様を祀る時、あるじゃない」
言われてみればそうかもしれない。
俺は日本の神社の作法に詳しいわけじゃない。
扉が、内側から開いた。
第三層は、これまでとまるで違っていた。
天井が高い。
そして壁一面が、あの透明な板でできていた。
四方すべてが窓で、その向こうに深海が広がっている。
光がない。
上からわずかに差していた光も、この深さには届かない。
青ですらなかった。ただ黒く、その中を時折、光る何かが横切っていく。
部屋の中央に、円形の台座があった。
そこから無数の水路が放射状に伸び、四方の壁へ向かっている。
そして台座の上に、そいつがいた。
人の形をしていた。
だが人ではない。
背丈は三メートルを超え、頭部は魚だった。
鋭い顎、退化した目、頭頂から背へ抜ける長い背びれ。
灰緑色の鱗に覆われた身体は筋肉の塊で、水掻きのついた両腕は丸太のように太い。
そして、その身体の右半分が機械だった。
右腕の肘から先が、太い駆動軸に置き換わっている。
背中には遺跡の配管が何本も接続され、そこから微かに蒸気が漏れていた。
接合部の周りの鱗は、時間をかけて金属を飲み込むように盛り上がっている。
『アビサル・ソヴリン』。
「……深海種か」
リーシャが息を呑んだ。
「装置と一体化してるわね。あれ、自分から繋がってるんじゃない?」
「そう見えるな」
ソヴリンは動かなかった。
台座の上に立ち、右腕を装置に差し込んだまま、こちらを見下ろしている。
その目に、敵意らしいものはなかった。
「戦う気ないんですかね」
「わからん。だが」
俺は装填を確認した。六発。
「あいつをどかさないと先はない」




