第19話 戦いの鐘 -2
ドォンッ!
爆音が、静まり返った回廊に叩きつけられた。
センチネルの関節が、一気に光る。
今までの比じゃない。青白い光が全身の継ぎ目から溢れ出し、閂の腕が唸りを上げて振り上げられた。
速い。
さっきまでとは別物の速度だ。
だが、こっちも別物になっている。
爆風で身体を横へ流す。
閂が石床を叩き割り、破片が飛んだ。
「アイギス!」
光が先に置かれている。
「【フレイム・ランス】!」
リーシャの炎槍が突き刺さり、センチネルの装甲が焼ける。
同時に、関節の光がまた一段上がった。
「【霞】」
ナギの一の太刀が背面に入る。
「側面!」
「【流】」
俺は爆風で位置を変え、敵の向きを回した。
腕の振りが速くなっている。だが、読める。
「そのまま!」
「【陰】」
三の太刀。
「――【月輪】」
四手目が、真上から落ちた。
装甲が割れ、内部の光が露出する。
残弾三。
「まだ上がるわよ!」
「構わん、撃て!」
センチネルの動きが、また一段加速した。
両腕が同時に振り下ろされる。
避けきれない。
爆風で片方をいなし、もう片方は――
「セフィラ!」
削られたHPが、即座に戻り始めた。
持っていかれたのは三割。だが、立っている。
「ミナ、MPは!」
「四割! あと一分持ちません!」
「十分だ」
俺は割れた装甲に剣を突き立てた。
「――全弾いくぞ」
残る三発を、ゼロ距離で。
ドォンッ! ドォンッ! ドォォンッ!!
爆鳴が三重に重なり、回廊全体が震えた。
装甲の内側で青白い光が破裂し、センチネルの巨体が大きくのけぞる。
そして。
関節の光が、消えた。
長大な両腕が力を失い、石床に落ちる。
がらん、と鈍い音を立てて、機械の門番はその場に膝をついた。
「……止まった?」
ミナが息を切らしながら聞いた。
「止まったな」
俺も肩で息をしていた。
装填はゼロ。HPは半分を切っている。
センチネルはもう動かない。
だが、光の粒子にもならなかった。
膝をついたまま、ただそこに在る。
「……壊れただけね。消えないってことは」
リーシャが呟いた。
その時、回廊の奥で低い音が鳴った。
閉じていた隔壁が、ゆっくりと持ち上がっていく。
道が、開いた。
隔壁の向こうは、下りだった。
螺旋状の階段が、闇の底へ向かって伸びている。
壁の水位跡は、下りるほどに濃くなっていった。
「第二層ね」
リーシャがメニューを開いて、進行度を確認した。
「団長さんの図面だと、ここから先は誰も入ってないわ」
「調査団は第一層で止まってたんだったな」
「そうよ。……つまり、ここから先は情報ゼロ」
道中の敵は、貝や甲殻類の形をしていた。
石壁に張り付いた二枚貝が、通りかかると殻を開いて水の弾を吐いてくる。
厄介ではあるが、脅威ではなかった。
「【ショック・チェイン】」
リーシャの紫電が壁伝いに飛び、貝が一斉に殻を閉じる。
「ジンさん、右奥に三体です」
「わかった」
ドォンッ!
爆音が使える。それだけで、これほど楽になる。
第一層で無音を強いられた後だと、ありがたみが違った。
「ジン。前に」
「ああ」
ナギの指示に合わせて位置を刻む。
言葉が減っていく。風化した要塞の時と同じだ。
あの時と違うのは、俺たちがもう慣れていることだった。
階段を下り切ると、広い空間に出た。
ここにも水路がある。
だがこちらの水路は、幅が段違いに広かった。
人が二人並んで歩けるほどの溝が、床を縦横に走っている。
そしてその溝の一つが、途中で塞がっていた。
「なにあれ」
リーシャが顔をしかめた。
塞いでいたのは、瓦礫でも土砂でもなかった。
灰色の、なめらかな塊。
それが水路の中でゆっくりと蠕動していた。
「……生き物ですね」
「生き物ね」
塊が動いた。
水路から這い出してきたのは、巨大な鰻だった。
体長は十メートル近い。全身が灰色で、目が退化して白く濁っている。
その身体のあちこちに、金属の管が突き刺さっていた。
いや、突き刺さっているんじゃない。
巻き付いている。
遺跡の配管が、こいつの身体に絡みついて一体化していた。
『グレイヴ・イール』。
「うわ……」
ミナが後ずさった。
「あの管、遺跡のやつですよね」
「巣にしてたんだろうな。長いこと」
水が抜かれるまで、こいつはここで暮らしていたわけだ。
海が抜けて、それでもまだここにいる。
イールが顎を開いた。
咆哮はしない。声を出す器官がないのか、ただ大量の水を吐き出した。
床を薙ぐ水流。
「散れ!」
ドォンッ!
爆風で横へ跳ぶ。
リーシャとミナも左右に割れた。
そして水流が通り過ぎた後、床の様子が変わっていた。
さっきまで乾いていた水路に、水が溜まっている。
「……水路が埋まってきてます」
「こいつ、水を戻してんのか」
イールが再び顎を開く。
二度目の水流。今度は壁の高い位置を薙いだ。
水路の水位が、また上がった。
「まずいわね。あれ、水路が全部埋まったら」
「たぶん、この部屋ごと沈むな」
制限時間つき、というわけだ。
「壁! 壁に装置があります!」
ミナの声。
見れば、広間の四隅にそれぞれ装置が据えられていた。
円形の盤面に、把手のような取っ手がついている。
そのうち一つが、青白く点滅していた。
「排水装置ね。誰かが押さえれば水が引くはずよ」
「押さえてる間、その一人は戦えないぞ」
「そうよ。三人で戦うことになるわ」
イールが身をくねらせ、こちらへ突進してきた。
俺は前に出て、トリガーを引いた。




