第18話 戦いの鐘 -1
戦闘が始まった。
「ジンさん!」
「わかってる!」
俺は前に出た。
だが、トリガーは引かない。
引けば爆音が出る。
それがどう作用するのか、まだわからない。
代わりに、剣を振った。
ガキンッ。
閂の腕を刃で受け流す。
重い。それに硬い。
シリンダーカリバーは爆発ありきの武器だ。爆発を使わない斬撃は、はっきり言って威力がない。
「ヘイト、取れてます!」
ミナの声。
一応、殴っていればこちらを向いてはくれるらしい。
「【アイスニードル】!」
リーシャの低位魔法が刺さる。
センチネルの動きは変わらない。
だが。
「……あれ?」
ミナが妙な声を出した。
「今、少し速くなりませんでした?」
「そうか?」
言われて意識してみると、確かに腕の振りが速い。
さっきまではもっと鈍かった。
「リーシャ、もう一発撃ってみろ」
「【アイスニードル】!」
蒼い針が突き刺さり――
センチネルの関節が、また一段強く光った。
腕の振りが、明らかに加速する。
「速くなった」
「間違いないわ。魔法の音でも上がってる」
つまり、そういうことか。
「音を出すたびに強くなるんだ、こいつ」
「ちょっと待ってよ!じゃあ何、無音で殴り倒せって?」
リーシャが声を上げかけて、慌てて口を押さえた。
「……声も駄目なんじゃない?」
「試すな」
俺は閂の一撃を横に流しながら答えた。
「もう上がった分は戻らないのか、それとも時間で戻るのか。それがわからん」
見ている限り、センチネルの光は落ち着き始めていた。
戦闘開始直後よりは強いが、さっきの加速からは少し戻っている。
「時間で戻るな。段階を踏んで、だが」
「じゃあ、黙って殴り続ければいずれ勝てるってこと?」
「理屈ではな」
ただ、それには問題があった。
爆発を使わない俺の火力は、ないに等しい。
そしてリーシャの魔法は、撃つたびに相手を強くする。
ナギの型は音がほとんど出ないが、あいつ一人の火力で削り切れる相手かどうか。
要するに、時間がかかりすぎる。
「ミナ、俺のHPは」
「まだ大丈夫です。でも……」
ミナは言葉を切って、それから続けた。
「このペースだと、私のMPが先に切れます」
そういうことだ。
削り切る前に、こっちが枯れる。
黙って殴り続ければ勝てる、というのは、時間が無限にある場合の話だった。
閂が振り下ろされる。
俺は爆発を使わずに横へ転がり、石床を擦った。
避けきれていない。
爆風がなければ、俺の回避はただの人間の動きだ。
「――くそ」
回避タンクから、爆発を取り上げる。
残るのは、ただの火力のないアタッカーだった。
「一度、離れるぞ」
俺は後退した。
センチネルは追ってこない。水路の交差点から離れようとしない。
「あいつ、あの場所から動かないな」
「門番だもの。門から離れたら意味ないでしょ」
回廊の陰まで下がると、センチネルの関節の光がゆっくりと落ちていった。
戦闘開始前と同じ、鈍い明滅に戻る。
「戻ったわね」
「完全にリセットされてる」
つまり、こうだ。
音を出せば強くなる。離れれば戻る。
そして戻るのを待っている間は、当然だが削れない。
「詰みじゃない、これ」
リーシャが壁に背を預けた。
「無音で削り切れる火力がないと成立しないわよ。……ナギ、一人でいける?」
「無理だ」
即答だった。
「型は音が出ない。だが、私の火力だけでは足りない」
四人揃って黙り込んだ。
俺は自分の剣を見下ろした。
シリンダーカリバー。爆発を撃つための武器。
その爆発が、ここでは全部裏目に出る。
「……待て」
俺はシリンダーカリバーを見た。
爆発を使えば、こいつは強くなる。
使わなければ、俺はまともに避けられない。
なら。
「強くなること自体は、避けられないんだな」
「そうね」
俺は交差点を見る。
音を消すことだけを考えるから、こっちの火力が死ぬ。
なら、発想を逆にする。
「だったら、強くなる前提で戦うしかない」
リーシャが顔を上げた。
「……どうするの?」
「音を散らさない」
俺はセンチネルを見る。
「あいつが反応するのは音だ。なら、音を一箇所に集める」
三人の視線が集まった。
「リーシャ。合図したら、思い切り派手なやつを一発頼む」
「強くなるわよ?」
「なるだろうな。だが、上がった分は時間で戻る」
俺は自分の剣を持ち上げた。
「その戻り切る前に、削り切ればいい」
要するに、削り合いだった。
あいつが強くなる速度と、こっちが削る速度。
今までは音を出さないようにしていたから、こっちの火力が死んでいた。
なら、逆をやる。
「ナギはどうだ」
「……型は問題ない」
ナギは刀に手を添えた。
「音は?」
「ほとんど出ない」
なら、使える。
俺が音を引き受けて、リーシャが火力を出す。
ナギは強化された相手の隙を取る。
ミナは、俺たちが削られる分だけ回復する。
役割を変える必要はない。
ただ、こいつのギミックに合わせて、順番を変えるだけだ。
「全員、音を出せ。出し惜しみするな」
「正気?」
「三十秒で片をつける」
リーシャが、呆れたように笑った。
「……あなた、たまに馬鹿なこと言うわよね」
「タンクは馬鹿なほうがいい」
ナギが刀を抜いた。
「私は構わない」
「ミナは」
「回復に集中します。……たぶん、めちゃくちゃ減ります」
「ああ、減るだろうな」
俺は交差点へ向き直った。
装填。
「行くぞ」




