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笑顔って、大事だなとつくづく思う。
クラリスの最初の質問に対して、笑顔を維持して、色々と言葉を濁し、そして遠まわしな言葉を選び続ける。
「機密ですか」
「そうだな、いかに愛弟子であってもすべてを語ることはできない。それはこの街の長であるクラリスも一緒だろ?師匠の俺にも言えない機密くらいはあるはずだ。特に、戦略的な情報に関してはな」
「確かに、師匠のおっしゃる通りです。私の質問が浅はかでした。先ほどの質問はお忘れください」
それだけで、クラリスはその変質者が俺の関係者で有りつつ、なにか事情があるのだと勘違いする。
言えない。うちの暗部組織に露出癖が蔓延しているなど、師匠としての威厳以前に、人として口が裂けても言うことはできない。
誤魔化すことに対しての罪悪感?特にはないね。
俺は真実しか言っていない。
知ってはいるが答えられないと、正直に言って、その後にクラリスが遠まわしに聞き出そうとしてくるが、『笑顔』で確かに俺に関係のある組織ではあると答え、身内であることを否定せず、さりとて、外部の組織として雇っているようなニュアンスとも取れる言葉を紡ぐ。
うちの暗部は優秀なのだが、最近は俺がスカウトして入ってきた新人のハーゲッツの面々にも『解放感』という快感を広めすぎて、もはや止めることも難しいのだ。
しかし変質者であっても優秀な連中なんだよ。
「師匠は実力があればいかなる人物でも重用するのを忘れておりました」
「いや、まぁ、そうだけど、人格破綻者はさすがに使わないぞ?」
「そうですね。そうなれば、噂の方々もきっと理由があり、ああいう行動をとっているのですね」
純真なクラリスが、露出するような人物を俺が雇っていることに関しても、何か理由があるのだと勘違いしてくれているのはいいのか?というネルの冷めた視線を感じるも、俺は俺で笑顔という名のポーカーフェイスを維持しつつ、否定する部分は否定しておく。
「そう言うことにしておいてくれ、俺からは言えないのでな」
「はい、わかりました」
情報収集と敵の撹乱に関してはシャリアに一任しているから、現場ではそれが最善だと判断しての行動だろうことは理解している。
しかし、さすがのFBOでもこんな露出癖を持った集団が爆誕するということはなかった。
幾人か、布面積の少ない服を好むキャラはいたが、そこはコンプラ的な問題でそれ以上に布が減ることはなかったし、その辺に厳しい海外の場合はもっと布が増えていたケースも多かった。
なので、そうなるきっかけは確かに与えたが、そんな有能変態集団が爆誕するとは俺も思ってなかったと心の中で言い訳しつつ、何とかエンターテイナーたちのことに関してはここで話を終えることができた。
「さて、それじゃ、そろそろ本題に入ろうか」
フライハイトにいたときはドレスよりも鎧姿の方を良く見ていた俺にとっては新鮮な、戦装束ではなく女領主としての正装のクラリスと向き合い、話題を強引にエンターテイナーたちのことから引きはがす。
この話の転換にクラリスの表情から笑みが引き、そしてわずかに頬が引き締まるのがわかった。
「はい、先日書状で提案してくださった内容に関してですね」
「そうだ。まずは確認したい。この街、ギャラハッドのワールドツリーと処刑場に関して調査はしたか?」
好奇心を抑え、街の長として会話に臨まないといけないと判断した彼女は俺の質問に対してしっかりと頷き、秘書をしているであろう初老の男性を呼び寄せ、書類を一つ受け取りそのまま俺の方に差し出してきた。
「はい、結論から先に申し上げれば、師匠の言った通りでした。この街の地下にはワールドツリーの根が張り巡らされ、地下には空間が広がっていました。隠し通路の先には師匠のおっしゃっていた処刑場のような施設も発見できました」
それを受け取り、そして内容を読めば他の街にもあったワールドツリーの基本施設の詳細が書かれていた。
「ギャラハッドのワールドツリーは他の街と比べると〝幾分〟か小さいとはいえ、成長の糧となった人々がいるというのは嘆かわしい事実です」
そこにはこの館に収められていた古い資料から引っ張てきたであろう情報もあり、禁書庫から引っ張り出してきたであろう情報もあった。
「その事実と向き合った結果、結論は出たか?」
クラリスよりも何代も前、この街が生み出された初代の頃は盛んに処刑と生贄を捧げていたようだが、代を重ねるごとにその風習は他の街よりも先になくなったようだ。
実質的に言えば、他の街もそうだがこの生贄の風習を知っている当主は現在はほぼいない。
ワールドツリーがなぜ植えられたかという歴史的な事情も知らず、ただただ恩恵に縋っていただけの存在。
「・・・・・はい、私たちはこの街からワールドツリーを排除することを決断しました。市民にはまだ説明していませんが、秘密裏に排除後、私の方から説明を行います」
「そうか、そういうことなら俺たちも協力できる」
ワールドツリーの事実を知るのは、元老院の中でもごく一部、翁と呼ばれる円卓の主アーサーとその右腕と言われる男だけだ。
そのほかの円卓に座る輩は全員、過去の歴史の中でその事実を忘却している。
そもそもの話、この西の大陸に語られる過去の歴史というのは改ざんされた物だから、事実を知る輩はほぼいない。
聞けばクラリスの一族がこの街に来る前の当主は、三百年ほど前に、当主の血筋がごっそりと喪われた一族らしい。
当時の当主には子供がおらず、親族も少なかった折に流行り病で全滅している。
その後に元老院からの指示でこの街に就任したのが、クラリスの祖先というわけだ。
この地は、他の街と比べて周囲のモンスターのレベルが高く、そして襲撃される頻度も多い。
さらに、世界樹が他の街よりも小規模であり、街の発展もその分遅れていた。
そのこともあってか、当時のギャラハッドは欲深な元老院の老害たちにも人気が無かったのだ。
「はい、よろしくお願いします」
「リベルタさんに任せなさい。なにせ他の街ですでに何本もこっそりと伐採していますので」
「心強い限りです」
その情報も書類に書かれていて、結果的に真面目なクラリスの祖先が抜擢されてこの街に就任しているという経緯まで調べられている。
処刑場の件と、ワールドツリーの情報はその段階で断絶したとみる。
元々あった情報に関しては、元老院が先に回収し、唯一禁書庫に残っていた物だけが回収の手から逃れたとみる。
クラリスの祖先には、ワールドツリーの真実を教えずそのまま他の街の領主たちと同じように無知を強いた。
「発表するのにもタイミングを確認する必要があるだろうし、伐採のタイミングはそっちの指示に合わせるよ。ただ、あまり時間はかけない方が良いとだけは言っておく」
「わかりました。近日中、遅くとも今週中には」
「了解」
その策略に関しては、FBOと同じだ。
このギャラハッドの街は、原作ではクラリスではなく、別の人物が治めていた。
その人物もクラリスと似て、根が真面目で元老院からしたら操りやすく使い勝手が良かった人物だ。
とは言っても、ネームドではあったが仲間にするにはメリットの少ない人物であったので、FBOでのプレイヤー人気はそこまでは高くはない。
言わば、街の状況を説明するために配置されていたキャラだ。
現実の世界ではそのキャラがいなくなり、俺が知らないクラリスがいる。
しかし登場人物が変わろうとも、この大陸での夢幻のオヴェイロンの暗躍は変わらない。
それを止めるためには、手を止めてはいけないのだ。
「それともうひとつ、ワールドツリーの伐採の後の話なんだけど」
むしろ、俺の知っているキャラよりも強化されているクラリスがいるからこそ、行動もしやすいと言える。
「はい、勢力拡大の話ですね」
「そう」
この西の大陸でのクエストは、ゲーム内容的に言えば陣取り合戦のようなものだ。
戦略シミュレーションとも言う。
戦力を用意し、物資を蓄え、攻め込んで自分の領地を増やすという、シミュレーションゲーム系統のシステムを構築していないはずのFBOなのに、この大陸のクエスト攻略の最適解はまさにそれ。
「現状、ギャラハッドの街に近い街はワールドツリーを失い混乱状態だ。いくつかの街の領主は、共闘を持ち掛けこの街を占領することを画策している」
「それは、この街にまだワールドツリーが存在しているからですね」
「そういうこと、奴らにとってはワールドツリーは権力の象徴だからな、取り戻すことになりふり構っていられないってわけだ」
ワールドツリーを討伐することにより、『夢幻のオヴェイロン』の力を削ぐことはできる。
しかし、それだけではまだ不十分だ。
確実に殺すには、もっと土地を確保する必要がある。
「今は、混乱していて戦力を集めるのに時間がかかっているが、時間をかければ相手も戦力を集めることはできる。そうなる前にこっちから打って出て街を占領する」
理想を言えばすべての街を占領したいところだが、それは陣取り合戦の努力目標といったところか。
「まずは、沿岸部に作った俺たちの拠点と位置的に連携できる街、ガレス、モードレッドを押さえる」
ひとまずは、このギャラハッドの街の防衛の強化と物資確保のために押さえる要所を挙げる。
「・・・・・トリスタンはよろしいので?」
「優先度はそこまで高くないな。位置的に言えば押さえて損はない街だけど、向こうの動きをわかりやすくする必要があるから、あえて取らない」
「なるほど、前線基地としてトリスタンの街は最適、その要所を押さえさせることで相手の戦場での動きを制限するということですか」
その反面、向こうの動きをわかりやすく制限するために取らないようにする街も選定する。
「そういうこと。攻めやすい要所っていうのがあれば向こうもそこを使いたくなる。その方が効率的だし、成功率も上がる」
本来であれば、重点的に向こうが有利になるような拠点は押さえておくべきなのだが、今回の戦略的に言うのであれば、相手の戦力を一網打尽にするために集結しやすい街を相手に与えておいた方がこちらに有利になる。
「とすれば、こちらの砂場と丘も押さえておいた方が良いですね。ここは立地的には迎撃がしやすく監視もしやすいです」
「お、良いところを突くね。俺的には、ここも押さえておきたい。物資の輸送ルートとして使えて、こっち側の動きが格段に楽になる」
「なるほど、ですがこちらはモンスターのレベルが少々高いのですが・・・・・いえ、むしろそれが狙いですか。こちらの戦力的に言えば安定して物資の輸送ができます。ですが向こうからすれば、モンスターを警戒しながら襲撃しないといけない分労力がかかる」
こうやって、相手の動きを制限することを考えて次々に街を元老院の権力から奪い取るようなことをするから、西の大陸のクエストは戦略シミュレーションなんて言われるんだよ。
嬉々として、相手の戦力を削る策を語るクラリスは、呑み込みが早い故か俺の意図をしっかりと察してくれる。
「そういうこと、それにこっちは別ルートも選定できるから相手もこっちの物資を奪うことが難しくなる」
「でしたら、誤情報を流して向こうの戦力を引っ張り出すこともできますね」
「クラリスも中々上手い手を考えるね」
「師匠ほどでは」
そんな彼女との今後の打ち合わせは、夕食の知らせが来るまでじっくりと続くのであった。




