21 合流
敵が混乱しているときこそ、こっちの行動すべきタイミング。
ゲーム的な表現をするなら、一ターンでの行動回数が制限されている系統のゲームで、行動回数が増える的なイベントが発生してちょっとお得に感じるターンということだ。
「さてと、ここがクラリスのいる街、ギャラハッドか」
ミリーに跨り、ネルとイングリットを引き連れてやって来た世界樹の聳える街に、今回は正面から近づく。
今までの街は隠し通路を使っての侵入だったから、こうやって正面から入って行くのは中々新鮮な感覚だ。
他の街と違い移民の流入があるからか、城壁の外側にもテントが建ち並ぶのが遠目で見えて、そこで生活しているのか炊き出しの煙とかも見える。
「人がいっぱいいるね」
「この街には、クラリス様を慕って民が集まっておりますので、他の街よりも人口が多いのでしょう」
「おかげで、色々と物資が足りていないみたいだけどな。暴動が起きていないのはクラリスの行政手腕がすごいんだろうよ」
よく見ると、ゴーレムが田畑を耕していたり、新しい城壁を構築しているのはブロックゴーレムだったりとフライハイトの技術が導入されているのがわかる。
技術的には既存のスキルで普通にできるから、必要なのは発想だけということ。
そんな光景を横目に、ミリーを城門のほうに進めると。
「止まれ!何やつだ!!」
当然だけど、兵士に止められる。
立派な鎧を着こんだエルフ、わずかに感じる聖なる気配。
白を基調として所々緑色の配色がちりばめられたデザインの鎧には見覚えがある。
クラス6あるいは7のラインで製造できる、精霊銀の鎧だ。
魔法防御力が高く、物理防御もある程度あるバランスの良い装備で、デザインも相成って使っているプレイヤーも多かった。
その鎧の見覚えは、ゲーム時代の知識だけではなくフライハイトでも見ていた記憶だ。
「久しぶりだな、アッシュ。元気そうで何よりだ」
「!リベルタ師匠!?」
「先触れで、俺のところの部下が来てると思うんだけど」
アジダハーカ討伐時に鍛え上げた、クラリスの部下の一人に見えるように、口元の布を下げて顔を晒すと、アッシュと呼んだエルフの男は目を見開き直立不動の姿勢をとる。
俺のことを知らない兵士はその態度に驚きつつも、俺が重要な人物だというのは察したようで武器は下げられる。
「はい!聞いております!リベルタ師匠が来たらクラリス様のところに最優先で通す?ご案内する?ように指示を受けております!!」
「じゃぁ、よろしく」
「はい!」
「ちなみに、ミリーを連れて行っても大丈夫か?」
「デザートミリオンですか、はい、クラリス様の屋敷には厩舎もありますのでそこに入れることになりますが」
そしてアッシュの先導の元、ギャラハッドの街に入ることになる。
「そう言えば、ワールドツリーをこうやって下から眺めるのって初めてよね」
「いつもはこのように見上げるのではなく、地下の方から根だけを見ておりますので新鮮ですね」
そうなってくると、西の大陸では名物となっている巨大なトレント系のモンスターであるワールドツリーを観察することもできる。
本来モンスターは、エリア内に人間が入ると襲ってくるものだが、ワールドツリーといった特殊なモンスターは特定の行動をしない限りは戦闘に入らない。
他の街で隠し通路から潜入して地下空間に入るのはその特定の行動に該当するが、こうやって街中から見上げるのは該当しない。
そして、同族を何本も倒している俺たちがここにいるのに認識しないのは、個体識別ができていないということになる。
「やっぱり大きいわね」
「戦ってきたモンスターの中では最大級だな。あれ以上の大きさってなるとそうはいない」
なのでゆっくりと下から見上げていって、その大きな体を観察できる。
といっても、体が大きいだけでそれ以外は他の樹木と大差ない。
迫力はあるが、そういう木だと認識すれば物珍しさはそこまでない。
デザートミリオン、それも色違いの特殊個体に乗って大通りを闊歩しながらワールドツリーを観察しているとやはり目立つ。
あちらこちらから視線を浴び、先導している兵士もこの街ではエリートの象徴である鎧を着こんでいるから俺が重要人物だと認識されて余計に視線が集まる。
物珍しさ、好奇心に駆られて見ている人が大半だけど。
「リベルタ」
「視線は向けるな。気づいていないふりをして、エンターテイナーたちに任せよう」
「うん」
その中に敵意のこもった目を向けてくる輩も数名。
フライハイトとは違い、この街に潜入している悪意。
こちらのレベルがレベルなので、そういった感情にも敏感になって敵意にも気づける。
俺を見てはっきりと敵意を向けてきているあたり、俺たちの情報も入っているのか、あるいは、クラリスの協力者というだけで敵意を向けられているのか。
その答えによっては、今後の対応も変わる。
こっそりと俺たちについて来て、兵士にも気づかせず街に潜入したエンターテイナーたちの一部が、敵意の視線を向けてきた住民らしい人間たちを追跡し始めて消えていくのを尻目に、目的地である屋敷に到着する。
この街でも一等地に位置し、他の屋敷よりもひと際立派。
見るからに金持ちが住んでいますとわかるくらいには豪華な屋敷に到着して俺たちはミリーの背から降りる。
その屋敷の玄関先には、俺の知っている鎧姿のクラリスではなく、ドレス姿のクラリスがそこにいた。
「お久しぶりです師匠。この度は、救援の要請に応えていただき誠に感謝いたします」
「弟子の窮地に助けに入るのが師匠ってやつだろ?俺は俺で、できることをしただけだ」
そして出会った時から礼儀正しい令嬢だとは思っていたが、鎧からドレスに着替えるだけで出会った当初のイメージがよりそちら側のイメージに染まっていくのがわかる。
露出を抑え、体のラインが出ないようにしている淡い緑色のドレス。
装飾品も最小限に抑え、上品さを意識しているのがわかる。
俺ももっと礼儀正しく挨拶した方が良いかと思ったが、師匠として弟子に気楽に挨拶したことが正解だったようで、クラリスの口元に笑みが浮かぶ。
「そのできる範囲が、私の想像を大きく上回りましたが?」
「ハハハ!なら、まだまだ修行が足りないってことだな」
「精進するようにしてても、師匠の背が遠すぎるので追いつくのはいつになるのでしょうね。常人よりも長い寿命をもつエルフの私でさえ、人生を懸けても足りない気がします」
雑談を混ぜつつ、挨拶をし、クラリスの視線はデザートミリオンのミリーに向く。
「デザートミリオンというこの西の大陸では見つけるのも困難であり、獰猛で危険なモンスターを手懐けているだけではなく、移動手段にしているとは思いませんでした。それも通常の個体とは異なる色合い」
「あー、ミリーに関しては俺ではなくネルの手柄だな。そっち方面に俺一人で挑んでたら間違いなく、合流するのが二カ月は遅くなってた」
デザートミリオンというモンスター自体が珍しいこともさることながら、特殊固体だとわかる赤褐色の鱗の色。
その個体をテイムしていることも俺がしでかしたことにカウントされたが、さすがにそれは否定しておく。
「なるほど、さすがネルさんですね」
「そうだな、ネルには何度も助けられているよ」
ネルの豪運に関しては、クラリスも知っている。
それゆえに、俺の言葉に納得して頷き、ミリーを撫でているネルに視線を向けた。
「師匠、玄関先で立ち話もなんです。彼を厩舎に案内しますので、それからお茶でもいかがでしょう。色々と話したいことがありますので」
「そうだな、今後のことで話しておきたいことが色々とあるしな」
流石に玄関先にミリーを置いておくわけにいかず、ひとまずミリーを屋敷の敷地内にある厩舎に入れる。
馬がいるかと思いきや、厩舎にいるモンスターを見て俺は目を見開く。
「砂竜か」
「はい、私の祖父の代にテイムしそれから我が家で管理しています。この屋敷に住まう者としては最古参の家族ですね」
カメレオンのような姿を持つデザートミリオンのミリーとは異なる巨大なトカゲのようなモンスター。
砂色の鱗をもち、鋭い牙と鋭い爪を持った四足歩行のモンスターだ。
土魔法を得意として、砂漠に生息するモンスターの中でも上位に入る実力を持つ。
クラリスがミリーを見て、目を見開きつつも戸惑うことなく厩舎に案内したのも、竜種を飼育している実績があるが故か。
「ヴィレイ、前に話した師匠のリベルタです。彼の仲間と仲良くしてくださいね」
『ボウ』
俺たちの気配を感じてゆっくりと顔を起こし、俺たちを見た後にジッとミリーを見る。
同じ竜種として何か確認したのか、重低音の鳴き声を発した後に興味を無くしたように顔を伏せて目を閉じてしまう。
まるで勝手にしろと言わんばかりの態度に、クラリスは苦笑し、厩舎を管理している初老の姿のエルフの男性を呼び寄せて、入り口を開けさせる。
『きゅー』
「大丈夫よ、悪い竜には見えないわ」
そこに入ることをミリーは一瞬戸惑うが、ネルが大丈夫だと言えば頷き、厩舎の管理をしている初老のエルフに連れられ、干し草の敷かれているスペースに入るとその感触を確認した後に体を横たえ丸まった。
「大丈夫そうですね」
「そうだな」
「それでは、応接室にご案内します。どうぞこちらに」
思わぬ竜同士の接触というイベントに驚きつつも、クラリスの案内で屋敷に入る。
厩舎から、屋敷に入るのにはそれなりに歩く必要があるゆえに、そこまでの道中無言になるということはない。
「そう言えば師匠、こちらで集めている情報でいくつか確認したいことがあるのですが」
「なんだ?」
「ギャラハッド以外の街で、夜中で出現する変質者なのですが」
「・・・・・へぇ、西の大陸ではそんなものが出るんだな」
その道のりで選ばれた話題に、俺はそっと視線を逸らす。
前を向き、こちらを見ていないクラリスは俺が視線を逸らして誤魔化しているのに気付かず話を進めている。
「いえ、情報として出回っているのはここ最近の話です。何やら、元老院の周囲で起きる事件にはこの変質者が関わっていることが多いらしく、私もその正体を探っているのですが」
ゴメン、その変態集団は身内なのだ。
ジト目でネルから見られ、沈黙は金なりというスタンスでイングリットは静かになっている。
エンターテイナーたちのことは知ってはいるだろうけど、その詳細は知らないだろうクラリスは、俺がこの大陸に来たのと時を同じくして活動を始めて、色々とクラリスの有利になるように動いている変態集団について、俺が何か知っているのだろうと思いこの話題を振ってきたのだろう。
「なにかご存じありませんか?」
しかし、『変質者』というワードの辺りからして間違いなく、エンターテイナーの連中のいつもの奇行が目に付いたがゆえの発言だろうというのを察している俺は、嫌な汗を背中に掻きつつどう説明したものかと悩む。
こういう展開になるのなら、もっとまじめにエスメラルダの忠告を受け入れ、エンターテイナーたちの脱衣癖に対処すればよかったと思うのであった。




