18 木材
最早お馴染みの語り出しなのかもしれないが、ゲームというカテゴリーを語るのなら避けて通れぬ故にあえて言う。
ゲームなら、木材って大事だよね。
特にクラフト系なら、必須と言って良いほど重要素材。
「♪~」
「リベルタ、帰って来てからずっとご機嫌ですわね」
「わかる?」
「ええ、幸せだって言うのがよくわかりますわ。この大陸各地にある世界樹を僅か二週間で〝五本〟も消滅させた人物とは思えませんわ」
FBOでもそれは同じ、というか武器の系統によっては木材こそが一番重要な素材だったりする。
その木材の中でもワールドツリーというモンスターの素材は上位に入る。
ワールドツリーの木材は、片手とまでは言えないが、十本の指に入るか入らないかとというくらいには、FBOで入手できるモンスターのドロップの中でもかなり上質な素材と言える。
西の大陸のストーリー限定の素材で入手数に限りがあるという欠点があるが、逆に言えばそれ以外に欠点らしい欠点はない。
クラス8のワールドモンスターのドロップに相応しい性能を、しっかりと持っている。
魔法使い系統や呪術師系統ならかなり強力な杖を製作できる。合わせる素材によっては最強とまではいかないが、終盤までしっかりと使える武器を作ることができる。
他にも槍系統や斧系統と幅広い使用用途があるのがワールドツリーの素材だ。
中には、無駄に頑丈な家を作ろうという発想で、このワールドツリーを討伐して、そのドロップした素材で純和風建築の屋敷を作り上げた猛者もいる。
他にも造船素材として使えば、ガチ勢の猛攻撃にも耐える不沈艦すら爆誕する。
そんな船すら沈める方法を生み出すのがガチ勢だけど、そこは一旦棚上げにする。
「えー?俺はあの街の人たちを救ってあげただけだよ?そのままなら生贄コースまっしぐらだったんだから、むしろ感謝してほしいよ。ワールドツリーが抑えていた水源も開放して、龍脈の方も循環するようになったから、二、三カ月もすればあそこら辺一帯の砂漠にも緑が復活して豊かな土地になり始めると思うぞ?」
そして俺がご機嫌な理由は、わかりやすくそのワールドツリーの素材が関係している。
うちには豪運狐と呼ばれるネル神様がいる。
そしてそんなネルはチート通り越してバグ技と言ってもいいくらいに強化されている『招福招来』という破格スキルも持っている。
ここまで語れば察しのいい人ならわかるだろう。
そう、ネルは理論上出せる最大数のドロップを、倒した五本とも叩きだしているおかげで、潜水艦の倉庫に積まれたフライハイトへの輸送品の大半がワールドツリーの素材ということが起きている。
俺はそんな大量の素材を潜水艦に詰め込んでいる光景を脳内で思い出すたびに、頬が緩むのをここ三日ほど止められないのだ。
「それを理解しているのは私たちだけですわ。この大陸の民たちは混乱の真っただ中、権力者たちが兵を出して治安維持を図っている現状は、治世者としては良くないですわよ?」
「まぁ、そうだな。おまけにエンターテイナーたちの工作もあってか治安維持も上手くいってないんだっけ?」
西の大陸の拠点に帰って来て、少し休んだら拠点の報告書をエスメラルダから受け取り、その際に輸送リストを見るとつい思い出してしまう。
エスメラルダは俺がいない間この拠点の開発を進めてくれていたからこそ、エンターテイナーたちからの報告も聞いている。
ワールドツリーの失われた街の治安は急転直下の勢いで下がり、食料や生活物資を含めた消耗品が買い占めによる不足、それが悪循環になり、さらに治安が悪化している。
「ええ、その上に権力者の悪事が暴露されている街では、今や民と統治者の間で埋められないほどの深い溝ができておりますわ」
「そうなるように仕向けている俺が言うのもなんだけど、ひどいな」
「ええ、ワールドツリーに頼り切り故の弊害がいま出てきたと言うわけですわね」
その際に被害にあうのは、当然だけど力のない民になる。
食料の不足、そして医療品などの不足も重なり生活水準が安定しなくなるという危機に陥っている。
「クローディアに頼んだ神殿経由の支援の話はどうなってる?」
当然だけど、そうなることを想定していた俺はこの世界で第三者的立ち位置にいて、さらに事情を話して協力をしてくれる神殿に炊き出しなどの支援活動の打診をしている。
「現状で言えば、順調と言って良いですわね。南の大陸から支援物資を出すことは決定しておりますわ。クローディア様にはいったん南に行ってもらい神殿の方の支援調整を行ってもらってますわ。それに合わせ、陛下からの命でお父様が陣頭指揮を執り、神殿の支援活動に協力という名目で船団を集めております。神殿の支援物資の輸送と慰問という名目で動いていますわ。慰問に関しては王族を代表して、カティア様にも同行してもらい妹のイリスとその周囲の兵を護衛に着けますわ」
神殿はこの世界において民の救済者になりえる存在だ。
神殿にはクローディア経由で、裏の事情、それこそワールドツリーというモンスターの実態と、その裏に隠れる夢幻のオヴェイロンについても伝え、今回の作戦を説明し、支援物資をフライハイトの方で用意することで神殿も動きやすいようにしている。
アジダハーカ討伐の際に協力した実績がここに生きている。
人を栄養素にするモンスターなど、神殿からしても悪しき存在。
ワールドツリーの実態の証拠と一緒に夢幻のオヴェイロンについての情報も流したら、一個師団と炊き出しや医療支援の人員を確保してくれた。
ようは、俺の行動の余波で生じる住民の被害を最小限にするための支援をしてくれるということだ。
お金に関して、それこそ、船団で働く乗組員や支援で活動する人たちの食料などの経費は諸々すべてフライハイトで賄っているから、まぁ、ジンクさんとバミューダのそろばんをはじく音が険しかったな。
それくらい動かさないといけないと、二人にはきちんとプレゼンして、西の大陸の元老院からどれくらい絞り取るかという話し合いに関して二人はかなり熱があったな。
ワールドツリーの素材に関しても、一部はエーデルガルド公爵閣下と陛下に収めて金銭的援助を貰うという取引もしている。
これにて後顧の憂いを断ち、俺たちはさらに西の大陸の住民の上と下の心を分断させる作戦を進める。
現状の元老院側は俺がせっせとワールドツリーを伐採した所為で、互いに疑心暗鬼になって横の連携も危うくなり、元から民を替えの利く消耗品としか思っていないから、市民を信じるなんてこともできない。
兵を使い、自分たちの身を守ることと世界樹と呼んでいる残されたワールドツリーを守ることに専念している。
表向きは、賊に対応するための配置と言って市民を納得させているけど果たしてそれがいつまで持つか。
「そっか、その船団が来たらこっちも本格的に動くか。一応、夢幻のオヴェイロンを討伐できるラインまでは持っていけたけど、まだ安全とは程遠いし」
「エンターテイナーの方はどうしますの?」
「そのまま活動し続けてもらおうか。シャリアたちは、ワールドツリーが残っている街の離反工作をやってもらおうか。楽しんでいるみたいだし」
「・・・・・その、言いづらいのですけど。リベルタ、彼らの脱ぎ癖はどうにかなりませんの?報告書の中に、時々、夜に舞う覆面をした全裸の男の姿があるのですが」
「さすがの俺も性癖に関してはどうにもできないなぁ。というか、その報告書俺も読んだけど、仲間が屋敷に潜入するための陽動で派手に動いた結果って書いてなかったっけ?」
「派手にするならもう少し別の方法があるのでは?と私は言っているのですわ」
おまけに、義賊的な活動をしているエンターテイナーの存在もある。
権力者の悪事を住民たちに暴露するだけではなく、それと癒着していた商人の情報も流し、着服していた金を盗みそれを市井にばらまいている。
「一応、シャリアには言っておくけど」
「そうしてくださいまし、実績を残しているのに褒めようにも素直に褒められないですわ」
その活動に対する評価は、上と下ではっきりと分かれている。
上は元老院に近づけば近づくほど忌避感を露わにして、糾弾している。
下は逆に元老院から離れれば離れるほど、正義の味方の側面を見て受け入れてくれる。
エスメラルダの報告にある全裸行動も、コメディ的な行動として住民たちに受け入れられているらしい。
そういうのは日ごろから権力者に不満をため込んでいる人々から、愉快痛快にふざけながら権力者に反撃してくれて笑えたという意見が多かった。
確かに、悪い奴が普通に殴り飛ばされてもスカッとするかもしれないけど、道化のようなふざけた連中に負かされるのを見るのははさらにスカッとするだろうさ。
そしてそのふざけている集団が強いのも一因になっている。
ふざけていて何もできない集団なら、きっと蔑まれて終わりだ。
しかし、ふざけている集団であるが、市井のために世直ししているという実績を今も積んでいる。
「あと、美しすぎる女性を探している噂もありますわ。これって、シャリアさんですわよね?」
「ああ、あちこちの権力者の子息を毒牙にかけて心を奪いまくっているって言ってたな」
「それも混乱の一因になっていますわ。リベルタが二本目のワールドツリーを倒したあたりから、その活動を活発化させて元老院の横の連携を乱すようなことをするようにしてますわ。エンターテイナーにより調べた本物の情報を使って、その子息のいる街に不利益を出しているという他街の情報を渡してそれを父親に伝えさせて、疑心暗鬼に拍車をかけさせていますわ」
そこに追撃するように、リーダーのシャリアが八面六臂の活躍を見せている。
あたかも、その街の子息を心配してこういう噂があるが大丈夫かと近寄り、親身になり、懐に入って行く。
傍から見れば、役に立つ女性であり、好意をもって接し、その男性の気持ちを汲みとってくれるという男にとっては理想の都合のいい女性である。
しかし、実態はいろいろな街をレベル任せに強引に移動しまくって、二重どころではすまない多方面に忍び込む多重スパイだ。
ここで、女スパイとつけても良かったけど、一応シャリアは男だし、恋愛対象も女だ。
なので、俺の中ではシャリアは女装に特化したスパイということになっている。
この前シャリアから動く猫耳と尻尾を作ってくれないかと言われたが、どこかの子息にそういう趣味の男でもいるのかと思い、パーシーさんに作ってと頼んだ。
エルフやドワーフも猫耳メイドが好きなんだとは思いつつも、経費としてジンクさんに落とすように指示出した時は怪訝な顔で見られたな。
「いずれは、傾国の美姫とか言われそうな勢いだな」
「やっていることは変わりませんわ。正直に言えば、シャリアさんは政権の敵役という面では恐ろしい方に成長しておりますわ。フライハイトでリベルタ以外で敵に回したくない方は誰かと聞かれれば、私はあの方の名を上げますわ」
「俺が除外されている理由は?」
そんなエンターテイナーの活動のおかげで、現状の元老院にはクラリスの街に攻め込む余裕は無い。
「お聞きになる前に、過去の自分の行いを考えてくださいませ」
「あ、はい」
軍は街を守るために、完全撤退。
その隙をついて、元老院に不信感を抱いた市民がクラリスのいる街に流民となり移民したという情報も得ている。
「・・・・・クラリスとの接触はできそう?」
「そちらに関しましては近いうちに叶いそうですわ。現状でも私たちが運んだ支援物資で当面は生活ができるとのことと、軍が撤退したので警戒度も下げることができるとの連絡が届いておりますわ」
そのおかげで、こっちもより一層動きやすくなっている。
「そうか、なら、このあたりで弟子の様子でも見に行くとするかね」
反撃の狼煙にしては少し、大きいかなと思いつつ、ポンと俺は手元の書類に判子を押すのであった。




