12 現着
祝!総合評価20万ポイント突破!!
皆様のご愛読があったおかげです!!ありがとうございます!
引き続き本作をよろしくお願いいたします!
「速い速い!!」
「まぁ、俺たちが走った方が速いけど、それでもやっぱり騎獣がいた方が移動が楽だわ」
ネルがデザートミリオンを無事テイムしたことにより、俺たちは長距離マラソンから解放された。
自分の足で走り切れるからと言っても、オープンワールドのゲームキャラのようにどこまでも全く疲れず、そのまま同じポテンシャルを発揮できるわけではない。
長距離を走ればそれなりに疲れるし、喉が渇いたり、お腹も空く。
「いけー!!ミリー!」
『キュー!』
こうやって、砂漠の大地を疾走するデザートミリオンこと『ミリー』の上に乗っていると、自分の足で走るよりも楽だなと思っているのが何よりの証拠。
子供の身体の俺を含めているとはいえ、俺、ネル、イングリットの三人が乗っても、ミリーの力強い疾走にはまだなお余裕がある。
先頭にネルが跨り、その後ろに俺、そしてイングリットの順番でミリーに跨っている。
その状況だから、乗馬ならぬ乗竜しているネルの表情は見えないが、声を聞けばすごく楽しんでいるのは手に取るようにわかる。
きっといい笑顔なんだろうなと思いつつ、どことなくミリーの返事が『イエスマム!』とキリッとした口調になっているような気がするのは気の所為だろうか?
「テイムモンスターというのは役に立つのですね。野営をする際に見張りを代わりに務めてくださいますし、ミリーがいてくださるだけでモンスターが近寄ってきませんでした」
そのミリーが活躍しているのは移動だけではない。
元から野生で生活しているから、周囲のモンスターに敏感で半分寝ながら半分警戒するなんて器用なこともできる。
なので、夜間の警備の相方としてかなり重宝する。
元から周囲の自然環境に擬態して隠れることを得意にしているからこそ、捕食者の本能としてどこからモンスターが接近してくるかわかる。
これはFBOではなかった。
モンスターのモーションの再現性が、ゲームPCのCPUの容量的に限られていたというのもあるが、野生生物の動作をゲームで全て再現することなど土台無理な話なのだろう。
人間の目による警戒網にモンスターの野生の警戒網が重なり合うことで、人では見落とすような兆候も警戒してくれるのはかなり大きい。
元の世界で言えば、番犬みたいなポジションなのだろう。
人では拾えないような、音や匂いを感知して警戒してくれる。
それは安心感を得られるいう点では大いに役立つ。
事実、フライハイトの警戒網にテイマーを採用するのも有りかと今の俺は思っている。
ゴーレムによる警戒網も悪くはないのだが、自律型ゴーレムを作って行動に柔軟性を持たせるとなると、ハイエンドモデルになるしな。
その点テイムモンスターなら野生の本能があるから、警戒網を作るという点ではそこまで自律性にこだわる必要はない。
狼型、鳥型、猫型みたいなテイムモンスターで御庭番衆とエンターテイナーたちが担っている警備の人手不足を解消するのはいい案なのではないだろうか。
そのためにはテイマーの育成と、モンスターの飼育設備を作ることが必要だし、テイマーを絡めた警備体制も構築しないといけないが、こうやって実際にテイムモンスターの有用性を体験すると有りだと再認識できる。
コストとリターンを天秤にかければ、試験的に導入するのは有りかもしれない。
元孤児の子供たちの中に、動物好きでそういう適性のある子がいるかもしれない。
「あ!見えた!」
ミリーをテイムして、その日は野営で一泊し、翌日の朝日が昇る前から走り続けてからしばらく、砂漠の広がる荒涼とした空間の遠目に徐々にだけど大きな木が見えて来た。
「大きいわね」
「この世界でも大きさだけで言えば、トップクラスの単一生命体だな。あれ以上に大きいモンスターはそうはいない」
その全高はFBOのゲーム内でプレイヤーが計測したときは優に五百メートルを超えていた。
あれが樹木ではなく樹木型の超巨大モンスター、ワールドツリーだ。
天を覆い、そして横に大きく広がる枝葉の範囲は半径で言えば約百メートル、直径で言えば二百メートル。
物理法則を完全に無視した存在は、さすがファンタジー世界といったところか。
「あれって、切り倒せるの?」
ネルのイメージよりもワールドツリーが大きすぎて、ネルが背中に装備しているハルバードなど針のようなものだ。
それで切り倒すとなれば、いくらクラス8のステータスを持っているといっても気が遠くなるような時間がかかるのは間違いない。
「大丈夫、大丈夫、しっかりと切り倒せるから安心しろ」
「うん」
しかし、そこは変態の巣窟と言われているFBOプレイヤーだった俺がここにいる。
しっかりと、ワールドツリーが消え去った後、街に被害を出さないようにする方法も考えている。
かなり離れた場所からでも見える程の、あの巨大な樹木型モンスター故に、それが消滅したら街の下に張り巡らされている根っこも消えるので、そのままでは大惨事になる。
実際、FBOのときは脳筋待ったなしの正面突破で街の兵士をぶっ飛ばして、ワールドツリーを討伐したら街が崩壊するようになっていた。
それをやると、『街を崩壊させた大悪党』という不名誉な称号に変わってしまう。
なんだそのトラップはと、FBOプレイヤーたちはマジで頭を抱えて再走した人は多い。
称号込みで最強キャラを育成しているガチ勢からしたら、憤慨物のトラップ。
となれば、いつもの解析班と実証班が走り始める。
その称号は強制取得。厳選した称号を取得することで最強になることができるFBOというゲームの性質上、その称号は何らかのメタ的な警告だと判断したからだ。
別の方法で解決できるはずだ。
安全にワールドツリーを討伐し、住民NPCのヘイトを買わない方法があると、その称号は暗示していると判断したFBOプレイヤーたちは、キャラ育成の楽しみを妨害されたプレイヤーのエゴイスティックな恨みから生じた熱意で、それなら徹底的にやってやると対策に対策を講じ始めた。
そもそもあのワールドツリーを正面突破で蹴散らすとなると、相応の戦力が必要になるという前提が間違っているのではないかと、考察班と検証班は考えた。
ソロ推奨、そしてNPCの仲間と行動することが前提のFBOというゲーム。
それならば、当然だけど、ワールドツリー攻略の必要最小限の人数も一人なのではという仮説が出る。
特化型のスキルビルドが必要なのか、あるいは特定のNPCを仲間にする必要があるのか。
前者は、木こりなど伐採を得意とするジョブが検証されたりもした。
後者に関しては、それこそ西の大陸スタートで元老院の権力者になるということも検証され、住民の生活を砂漠に移してから伐採という過程も行われた。
ネタの中ではテイムビルドを作って、ワールドツリーをテイムした猛者もいた。
ただ、テイムできたからと言ってそこから移動させることはできなかったし、無理矢理移動させたら移動させたで街の損害がとんでもないことになって意味がなかった。
他にも劇薬と言っても過言ではない除草薬を使って討伐したやつもいたが、討伐してしまったら根っこごと消えるのは変わりない。
なにをすればいいと、頭を捻る。
思い付く限りの様々な方法をトライアンドエラーで挑戦し続けて、その中で発見されたものがあった。
俺はその発見を知っているから、三人で行動を起こしたと言って良い。
その方法は根っこの消失による地盤沈下の問題もそうだし、仮にも街のライフラインを担っていたワールドツリーが消えたことによる住民生活の崩壊の問題も解決してくれる。
ポンと、その道具が入ったマジックバッグの位置を確認して、どんどん迫りくる巨大な樹木を見る。
「そろそろ街の警備網に入るな。ネル、ミリーに減速するように言ってくれ」
ただボスモンスターを倒せばいいわけではなく、そこから派生する問題にも対処しないといけないから、西の大陸のクエストは面倒だと言われ、プレイヤーからの人気は低かった。
面倒な分、ワールドツリーが落とすドロップアイテムは美味しいのだが。
ワールドツリーのドロップする木材系アイテムや植物系アイテムは、武器だけではなく他の分野にも転用できるから便利なのだ。
「うん!ミリー少しゆっくり走って」
『キュー!』
そしてワールドツリーが見え始めたということは、ここは既に街の人たちの生活圏に踏み込み始めたということ。
大陸全土に広がる砂漠にある、貴重な生活圏。
周囲を白亜の城壁に覆われた中央生活区。
そこは富裕層と税金を納められる者が住むことを許される安全な街。
その周囲に広大な農業地帯が整備され、農業地帯を囲うように簡易的な城壁が構築されている。
周囲を囲む城壁もそうだが、その広大な農業区を守るために、農地を荒らすモンスターや野盗を討伐するための兵士が巡回しているし、西の大陸の冒険者が活動していてもおかしくはない。
発見される前に準備をしないといけない俺たちは、ゆっくりと減速するようにミリーに頼む。
テイムの状況次第では、テイムモンスターは命令を無視するが今のところはミリーはネルの言うことは聞く。
地平線の先に見え始める大きな木。
そして近づけば近づくほど、街の全容が見えるようになる。
中央の白亜の壁、その下に広がる黄金色の麦畑に、ブドウの果樹園。
きっと、他にも野菜や家畜など潤沢な食料を生産しているのだろう。
ここ以外では生きていくことができない。
そう、住民に見せつけるような支配者のお手本の街。
砂漠と街の景色のギャップは、富と貧困を対比しているかのようにも見える。
「ネル、左の方の大きな岩が見えるか?」
その景色の中で、俺は侵入経路を探す。
街中に入る必要はない、そっちはエンターテイナーたちに任せる。
探すのは作業経路。
「ええ、見えるわ」
「あそこに、ミリーを向かわせてくれ」
「わかったわ」
これから向かう街『トリスタン』の景色を、FBOの記憶とすり合わせる。
僅かな景色の差異。
自然によって変化した景色と、電子の世界で作り上げられた景色と照らし合わせ、その中で自然にも左右されず、人の手によってもどかされることが無かった大岩を指さした。
ネルの指示でミリーは街の方角から大岩の方角に向きを変えゆっくりと進み始める。
その間も俺の中の記憶と、周囲の景色を比べて差異を探し続ける。
一カ所二カ所と指折りで差異のない場所を数え、十三と数えたころに大岩につく。
大岩に登るのかと、ミリーが顔をネルの方に向ける。
「登る?」
「いや、用があるのは上じゃない」
その答えを知っているのは俺だけで、その答えを示すために俺はミリーから降りて大岩のふもとを手で触り始める。
「何かあるの?」
「そうだな、暇つぶしがてら一つクイズをしようか」
手触りからはここはどこにでもあるような砂漠の地面にしか感じ取れない。
視覚的にもそうだ。
「クイズ?」
「権力者がいざという時のために残している物で、街の外にありそうな物ってなんだ?」
「権力者が、いざという時のために街の外にありそうなもの?」
何もない。外れの可能性も考慮したがゲームで見覚えのある小岩を見つけるとそれにゆっくりと近づき、そこを手で探ると覚えのある突起を見つける。
「そうそう、まぁ、この答えはネルよりもイングリットの方が知っていると思うんだが」
「私がですか?」
「そうそう、貴族として知っていると思うんだけど」
その突起をさらに探ると、わずかにずれるのがわかった。
そしてイングリットが悩んでいる間に指先でカチカチといじる。
「もしや脱出路ですか?」
「正解」
俺がジッと地面で何かやっているということがヒントとなり、イングリットは答えにたどり着いた。
そのタイミングでカチッと何かが嵌る音がして、その突起を掴んでステータス任せに持ち上げると。
「権力者って言うのは、自分が助かればなんとかなるっていう思想が染みついているんだよなぁ」
石でできた大きな扉が少しづつ開いていく。
「かなり年季が入っていて、もしかしたら今の権力者はこの脱出路を知らない可能性もあるけどな」
FBOでも使った秘密の抜け道。
本来だったら中から外に出るための通路なんだけど、一応外からも開けられるようにはなっている。
「それじゃ、入るぞ」
イングリットにネル、そしてミリーが中に入るのを確認して、イングリットが灯りの魔道具を起動したのを確認してからその扉を閉める。
そうして俺たちは誰にも知られることもなく、トリスタンの街へ入るのであった。




