10 デザートミリオン
前話の前書きにも記載しましたが、再度告知させていただきます!!
この度、目出度く書籍第三巻およびコミカライズ第二巻の発売が決定しました!!
発売日は2026年10月15日です!詳細は活動報告に記載しております!
よろしければご覧ください。
表紙はイングリットさん!そして挿絵の方にはクローディアさんも登場します!
共に素晴らしいデザインですので、是非ともご覧ください。
砂漠を移動する際に一番気を付けるべきことは何か。
パッと思いつくのはやはり水だろう。
砂漠という乾燥した過酷な環境ではとにもかくにも、水が貴重だ。
水道の蛇口をひねれば飲める水が出たり、近場にあるコンビニに行けば飲料を購入できる。
ごく当たり前に、飲むに適した水を口に含むことができる。
それだけ前世の日本は水に恵まれている環境だった。
では、現状俺たちが走って渡っている西の大陸の環境はどうか。
見渡す限り砂、岩、石。
水どころか、見渡す限り緑色の自然環境すら存在しない。
「本当に景色が変わらないわね。方角を間違ったら迷いそうね」
「方位磁針と太陽の位置で大まかな場所はわかっているけど、油断したら間違いなく迷うな」
代わり映えのしない、砂漠の景色。
その環境を俺たちは走っている。
全員が、砂塵と照り付ける日光を避けるためにローブのような物で全身を包み、口元も覆って、口や鼻に入る砂塵を防ぐ。
目元には視界を確保できる防塵ゴーグルを着用している徹底ぶり。
「あそこの、日陰でいったん休憩だ」
「わかったわ」
「かしこまりました」
ネルは獣耳を覆って、少し窮屈そうにしているが、耳に砂が入るよりいいというのがわかっているからその恰好には何も言わない。
メイド服を常に着用しているイングリットも、今はその衣装をローブで覆って肌の露出を極限まで減らしている。
全身を対砂漠用装備で固めているから、日光による熱中症は今のところ心配はない。
「だいぶ走ったけど、あとどれくらいで目的の街につきそう?」
「このペースなら明日の夕方くらいにはつくと思うんだけどな。方向さえ間違えてなければ」
さらに魔道具により魔力さえあれば無尽蔵に飲料水を生成できるパーシー工房謹製の水筒を持参している。
ネルがその水筒に口を付けて、走っている間に消費した水分を補給する。
ゴクゴクと豪快に飲んでいるネルに対して、イングリットは貴族出身というだけあってお淑やかに飲んでいる。
俺?腰に手を当てて一気飲みの風呂上り牛乳スタイルですがなにか?
「砂漠で遭難は嫌よ」
「それは大丈夫、最終手段で転移のペンデュラムで拠点に帰るから。はぐれなければ一からやり直せる」
「・・・・・ずっと走りっぱなしっていうのも飽きるわよ」
クラス8の身体能力は、並みの移動手段を凌駕する機動力を発揮する。
馬よりも早く走れ、そしてそれを長時間持続できる。
背中に背負った大荷物の重量を感じさせない疾駆は、傍から見たらとんでもない光景だろう。
「一時間走って、休憩を繰り返すだけだからなぁ。道中にいるモンスターは全無視で振り切ってここまで来たから変化もないし」
本来であれば、広大な砂漠に点在する都市同士の移動を成すとすれば、十分な準備をして何日もかけて移動するのが常だ。
しかし、俺たちはその旅程をかなり短縮して、わずか一日で到達しようとしている。
「それじゃ、少しだけ寄り道をするか」
「そろそろなの?リベルタが言ってたこの砂漠にいる私のテイムモンスターのいる場所って」
「ああ、ここら辺のエリアにいるはずなんだけど。見つけるのが大変なんだよな。まぁネルの豪運なら、すぐに見つけられると思うんだけど」
と言っても、俺たちが向かっている場所はクラリスが拠点とする街に一番近い元老院勢力の街だ。
なので、砂漠を横断する距離も自然と伸びて、通常の旅程よりも長い時間がかかる。
それでもたった一泊で目的の街につける速度は異常と言って良い。
そんな旅程に俺はとあることを組み込んでいた。
それはネルの相棒となるモンスターをテイムすること。
方角的には、すこしズレる形になるがそれでもこの西の大陸が砂漠の時期にしか出現しないレアモンスターだ。
「たしか、デザートミリオンでしたか?」
「ああ、竜種でクラスは6。育てれば、クラス10でも十分に対応できるスペックは持ってる」
レア故に見つけるのに、少しどころではない労力が必要だけど、その労力をかける価値がある。
この大陸が昔の真の姿を取り戻すとこの世界から出現しなくなるモンスターの一種。
隠れることが上手く、プレイヤーの中には西の大陸のクエストを攻略した後にその存在を知って、二度と仲間にならないモンスターだと知って愕然としたという話はよく聞いた。
通常のモンスターなら、ある程度諦めがつくけど、このモンスターはレアモンスター。
さらに言えば、性能も地味に高く、テイムモンスターの中でも使いやすいのだ。
その性能故に、FBOプレイヤーの中でも愛用する人は多かった。
そのモンスターの名は『デザートミリオン』。砂漠に生息するカメレオン型の竜種だ。
「その特性は迷彩能力と万能の環境適応能力。暑かろうが寒かろうが、毒沼だろうが毒ガス地帯だろうが、その耐性で走破してくれる」
このモンスターは、戦闘能力という点においてはそこまで高くないのが特徴だ。
竜種というだけあって、身体能力の基礎値はかなり高いが、他の竜種と比べると力の面では一枚劣る。
しかし、俊敏性や器用さという点においては同格の竜種を上回る。
「でも、その迷彩で見つけるのが大変なのよね?」
「ああ、一定のエリアにいるのはわかっているんだけど、出現個体数がそもそも少ない。その上、土地の色合いに擬態しているから目視で見つけるのが大変なんだよな」
なにより、『デザートミリオン』で一番優秀なのは走破性だ。
しなる体に、鋭い爪、その四肢をフル活用することによってあらゆる悪路も走破するし、さらに言えばありとあらゆる壁や天井に張り付くこともできる。
小さいが背中に翼もあり、跳躍から滑空する形で飛行することもできる。
おまけにテイムした際に必要な経費が少ない。
砂漠という悪環境で生活していることから、食事の量は竜種の中で断トツに少ない。
サイズも手ごろで、育成しやすい。
なにより、忍耐力にすぐれているから竜種の中では温厚な部類に入る。
その点が考慮されて騎乗モンスターとしてはかなり優秀という評価を受けている。
もちろん、上のクラスに行けば『デザートミリオン』よりも優秀なモンスターはいくらでもいる。
だけど、現状で最適解とも言えるモンスターは間違いなく『デザートミリオン』だけだと俺は思っている。
「あれ?いま、あそこ動いたわよ」
「え?」
「そうなのですか?」
そんなレアモンスターを見つけるのはFBOプレイヤーでも中々難しい。
テイムするときは、それ専用のスキルビルドを構成したキャラを用意したほどだ。
その専用ビルドキャラがいれば、比較的簡単に見つかるとはいえそれでも多少の時間はかかる。
「どこだ?」
「ほら、あそこ、岩山になってるところの下よ」
それなのにも関わらず、ネルは怪しげな影を見たと指を指す。
その場所を俺はジッと、見つめること数秒。
ヌラリとわずかに景色が歪んだのを俺の目でも確認できた。
「マジか!?」
生息エリアに入ったのは確かだ、ネルの豪運があれば割とあっさりと見つけるのではとは思ってたけど、まさか、到着してすぐだとは誰が思うか。
「戦闘準備!」
「わかったわ!」
「かしこまりました」
竜種だけあって、接敵すれば逃げる心配はほぼない。
ヌラリと景色を歪ませたのは、こっちに気づいたからだ。
すなわち『デザートミリオン』が戦闘態勢に入った。
「本当に見えないのね!」
「地面を踏み込んだ際のゆがみを見て位置を把握!あと注意するのは」
このデザートミリオンは初心者が偶然出会って、知らぬ間に殺されたというある意味で事故を引き起こしやすいモンスターでもある。
「めっちゃ伸びる舌だ!」
その事故原因がカメレオンが餌を捕食するときに使う舌を彷彿とさせる、デザートミリオンの舌攻撃。
擬態し、姿が見えにくくなっているデザートミリオンが近づいているのは砂や石が動くことで把握できている。
気を付けるのは間合い。
「来るぞ!」
デザートミリオンはブレスを持っていない。
火を吹かないし、水も吐かない、圧縮した空気を撃ちだすこともなければ、土の塊を飛ばしてくることもない。
それでも、大砲を撃ちだしたような爆音を響かせて口の中から高速で伸びてくる舌は空気を爆ぜさせ、鋭くとがった先端は俺がついさっきいた場所を正確にえぐり、反撃するよりも先に自分の口の中に収納した。
ブレスを吐けないのではなく、吐く必要がない。
広範囲殲滅ができるような火力はないが、個体を狙い、コンスタントに攻撃できる手段が常備されているのだ。
「思ったよりも速いわね」
「あれに捕まると厄介そうですね」
ブレスは基本的には連射が効かない。
しかしデザートミリオンの舌は連射が利く。
「まずは、迷彩を剥がす!俺が前に出るからイングリットはサポート、ネルは倒さないように気を付けて攻撃を」
「承りました」
「わかったわ!」
第二射が来る前に、俺たちは行動を起こす。
今のところヘイトは俺に向いているが、それは最初のターゲットが俺だからだ。
もし仮に、DPSでネルが上回ればあっという間にネルがターゲットになる。
今回はアミナというタンク役がいないからヘイト管理が少し難しい。
だからこそ、俺が積極的に攻撃に回りヘイトを引き付ける役割を担う。
俗にいう回避盾というポジションに入る。
デザートミリオンの迷彩も永続というわけではない。
ダメージを一定数入れれば、その迷彩が解除され再発動まで時間を要する。
問題なのが、ダメージを与えすぎると倒してしまうことだ。
姿が見えないデザートミリオンは、正確にダメージを調整しないといけないテイムの条件を満たすのが難しい。
俺たちの方が格上であるがゆえに、戦闘自体はそこまで難しくはない。
全員が、初見で砂漠という特殊な足場にもかかわらずデザートミリオンの動きに対応できているのが何よりの証拠。
ステータス的に勝っているということも重なって、安全に立ち回れている。
俺の槍が、イングリットの仕込み刀が、そしてネルのハルバードが次々にデザートミリオンの体にヒットする。
どこに当たるかは、おおよその目安を付けて攻撃しているから今のところは足回りと胴回りにダメージが集中している。
「見えない敵を相手にするのは大変ね」
「夜中に相手をしなくて安心しました。このモンスターを夜に相手にするのは少々面倒が多そうなので」
色々なモンスターと戦っている2人であっても、見えない敵を相手取るのは少々骨が折れるようだ。
テイムしないといけないという制限が、動きを少し硬くしているのかもしれない。
「せいや!!」
それでも、十分に立ち回れている。
『■■■■■■!?』
ネルの攻撃で、正確に胴を切りつけ、深く刃が食い込みデザートミリオンが初めて悲鳴を上げる。
それによって、迷彩が解除され。
「?赤いわね」
その姿が顕わになる。
本来であればデザートミリオンの色は砂色だ。
それが砂漠に適応して、身に着けた体色なのだからそれが自然。
だが、迷彩を解除して現した体色は赤色。
ネルが聞いていた話と違うと、訝しげに俺に視線を向けるが。
「色違いキタァアアアアアアア!!!」
思わぬラッキーに、俺はそれどころではなかったのであった。




