9 EX エンターテイナー 7
ついに、俺はこの世界がモブでも【廃人】になれば最強になれることを知っているが第三巻とコミックス第二巻の発売が決定しました!発売日は2026年10月15日です!
詳細は活動報告に記載しています!!
イングリットさんとクローディアさんのキャラデザが素晴らしいです!!
西の大陸は、全土を覆う砂漠の中で、全部で九つの大きな都市で構成されている国だ。
東西南北と、そしてその中間を合わせた八方位に都市が形成され、その八角形の中心地点にこの大陸の首都であり、元老院の拠点である『ティターニア』が存在する。
このティターニアにある世界樹は他の都市とは比べ物にならないほど巨大で、その大きな樹木により与えられる恩恵も他の都市より多い。
「そこの美しいお嬢さん、君との一時を僕にくれないか?」
そんな世界樹の恩恵に特別に恵まれた街ゆえに、この都市部には裕福でなおかつ、権力を持つ輩が居を構えることになる。
この女性を魅了するような整った顔立ちで笑みを浮かべるエルフの男性もその一人だと言える。
「ごめんなさい、人と待ち合わせをしているので。また、誘ってください」
そしてそのエルフの男性の誘いを深窓の令嬢と言わんばかりに、おしとやかにめかし込んだ女性は笑顔でやんわりと断る。
「君ほど美しい人を待たせるなんて、どんな人だ!僕なら、君を待たせることなどしないというのに!!」
しかし、その容姿、そしてこの街で『表』を堂々と歩くことができる権力を持つエルフの男はその程度の断りでは引くことなどない。
むしろ、この〝女性〟は自分ほど魅力的な男の誘いに遠慮していると考え、そしてその謙虚な姿勢に好感を抱いていたりもする。
なので、相手の気持ちなど気にもせず、まだ終わりではないと仰々しく憤るポーズを見せた後に、悲しみに暮れるような表情を作り、諦めていないということをアピールする。
どこの劇団に所属しているのかと言わんばかりの芝居じみた行動は、周囲の通行人の注目を集める。
エルフの男は大衆を味方にして、狙った女性が彼の誘いを断れないように画策している。
まるで、周りの人々もこの男の誘いを認めていると言わんばかりの環境を用意し、この誘いを断ればどうなるかと圧力をかけている。
「そんな、君の時間を浪費させるだけの連れなど忘れて、僕と一緒に優雅な一時を過ごさないか?」
口調こそ訪ねているが、目が物語っている。
この誘いを断ったらどうなるかわかっているだろうねと。
「では、そこまで熱心に誘っていただけるのなら。是非に」
「ああ!後悔はさせないとも!」
その熱意に折れたのか、深窓の令嬢はにっこりと優雅に笑みを浮かべてそのエルフの男性の手を取った。
ここまで行けばナンパが成功し、エルフの男性はその日の夜はお楽しみでしたねと言われる結末のはずなのだが。
「はぁ、気持ち悪い。ああ、嫌だ嫌だ。なんで、エルフの権力者はああいうナルシストが多いの!」
その深窓の令嬢はお持ち帰りなどされず、ちゃっかりと豪華なディナーをごちそうされてあっさりと帰ってきた。
鳥肌が立つ、と言わんばかりに腕をさすり、あのエルフの男性との一時へ嫌悪感を隠さずにいた。
「お疲れ様です、シャリアさん」
「うん、本当に疲れたぞ♪まったく、リベルタ君も人使いが荒いよ。僕だから大丈夫なだけで、普通だったら大変なことになってるよ」
深窓の令嬢の正体は、シャリア。
エンターテイナーのまとめ役の一人。
ドレスを纏い、化粧を施し、長髪のウイッグを付ければ、どこからどう見ても女性にしか見えない人物。
「ずいぶんと飲まれたみたいで」
「それはもう、向こうも僕を酔わせてベッドにお持ち帰りする気満々だったし?まあ僕を酔わせて持ち帰ろうなんて百年早いけどね!逆におだてて、口を軽くさせるためにお酒を飲ませて、情報を抜いてやったけどね♪」
「ちなみに、そのエルフの御仁は?」
「今頃、ベッドですやすやと寝てるよ。最後の方はべろんべろんで呂律も回ってなかったし、そうなると情報もろくに得られないから最後は薬を少々」
天は産まれる性別を間違えさせた、フライハイトきってのハニートラップの名手。
仲間内からも、性癖を歪ませる危険性を感じさせる『男』。
エンターテイナーの仲間から、水を受け取りそれを飲む仕草に仲間は頬を赤らめる。
いつもの相方のジュデスであれば、その色香に対してツッコミを入れて場を和ませるけど生憎と彼はここにはいない。
酒気を帯びたその顔はわずかに赤らめられ、それが成熟した女性の色気を演出し、薬を入れる仕草をジェスチャーで示す姿はいたずらを報告する少女のようなあどけなさをそこに混ぜ込み。
「ちょ!それ以上は勘弁してください!!俺の性癖が歪む!?」
「アハハハハ!ごめんごめん、僕もちょっと疲れちゃってね。ついからかっちゃった。ゴメンね♪」
「だったら、なんで、そんな上目遣いをするんですか!シャリアさん!?」
色気にあざとさも混ぜ込み、仲間をからかう姿は蠱惑的だ。
エンターテイナーの直接シャリアに水を渡した仲間は顔を真っ赤にして、手で顔を覆った。
「うーん、僕のサポートをしてくれる君たちへのお礼かな?君、前に彼女に上目遣いでおねだりされたいって言ってたし?」
「言いましたけど!?言ってましたけど!?こんな状況で味わう物じゃないですよ!?」
彼はハーゲッツ組のエンターテイナー。
まだまだ、シャリアの色気への耐性が完璧ではないので、こうやってあたふたとしてしまう。
そんな姿を見かねた古参の初期メンバーの一人が、そっと歩み寄り、慌てる仲間の肩に手を置き。
「諦めろ、シャリアさんの色気に俺たちは勝てない」
それを受け入れろと囁くのであった。
「でも、シャリアさん男ですよ!?」
「ああ、男だ。だが、これを見て同じことを言えるか?」
「僕、可愛いし?」
「ああ!!!!!あざとい!あざといですよ!!」
最早手遅れ。むしろ可愛い仲間がいて、その容姿を基準にして恋人を探した方が良いのではと、諦めの境地に至っている面々は着々と婚期を逃し続けている。
すべての元凶はこの可愛い上司だ。
すべての振る舞いが男を魅了することに特化し、元々が男故に相手の男心を手に取るように理解し、女性の勉強をしているから女心も理解する。
人誑しの天才とはシャリアのことを指すのではと、エンターテイナーの面々は思っている。
黄金の上目遣いの角度で見つめられたエンターテイナーの男は、頭を掻きむしるように抱え込み、叫ぶことで火照った頬の熱を少しでも逃がそうと奔走する。
「その可愛さが、この街の権力者の男どもを手玉に取って俺たちの仕事をやりやすくしているんだよな。若いエルフはもちろん、年の行ったプライドの高いエルフだろうが落として見せたからな。この前なんて、酒と鉄にしか興味のないドワーフすら落としたからなぁ」
情報収集の基本はコミュニケーションと言える。
その基本を徹底的に磨いて、相手に気持ちよく話させることに特化したシャリアの技術によって、この首都ティターニアに潜り込んで数日だというのに、情報がすでに山積みになっている。
その情報を精査するために、連れてきているエンターテイナーたちは今日もせっせと裏取りに奔走している。
「本当にどうなっているんですか、シャリアさんの魅力って異常ですよ。俺、娼婦にもこんなに手玉に取られたことないですし」
「ああ、わかる。シャリアさんの魅力って、なんかこう、腹の底からグッとくるような感じだよな。男の本能を刺激するって言うか」
おかげで、この隠れ家には常駐が三人いるだけで、それ以外の面々は街中に溶け込み情報収集に勤しんでいる。
それくらい、シャリアがこの街で権力を持っている男を引っ張って来て、情報を引き抜くのが上手いのだ。
ターゲットに目星をつけて、そして好みの女性をリサーチし、その日のうちに化粧を施し、その男の目の止まる場所にそっと佇む。
わざとらしく接触することはない。釣り針に魚が引っ掛かるのを待つように、相手の好みの匙加減でそこにいる。
「まぁ、僕がそういう仕草を意識してるから、そういう風に感じるだけだよ」
「いや、なんでわかるかって話ですよ」
「だって、僕も男だし?こういう仕草をしたら可愛いなぁとか綺麗だなぁとか、エロイなぁって考えると」
ターゲット以外の男たちからしたら、合格点だけど満点ではない。
ターゲットの男からしたら、ここで逃したら二度と手に入らないと思わせる満点の魅力。
「こういうことができるんだぞ♪」
「くそう!可愛いなぁ!!チクショウ!」
「俺も通った道だな。諦めろ、後輩、頑張ればシャリアさんは衣装のオーダーとかにも応えてくれるぞ。今頑張っている奴らの半分以上が、そのご褒美欲しさに働いている奴らだ」
「・・・・・先輩、どうしましょう。その言葉でやる気が出ちゃってる俺がいます」
そんな凶悪な置き餌になれる、シャリアはチェシャ猫のような笑みを浮かべて、後輩となっているエンターテイナーの男に向けて蠱惑的な笑みを見せ。
「僕の猫耳メイド服姿は高いよ?」
「なんでバレてる!?」
「ミニスカのガーターベルト付きの絶対領域を魅せるとなると、さらに料金が・・・・・」
「くそう!!ここは身内の情報も調べるのかよ!!」
ひらりと、その場で一回転してメイド服の裾を持ち上げ挨拶するような動作を見せて後輩をからかう。
「あ、そうだ。忘れる前にこれ。さっきの男から引き抜いた情報だよ。これの裏取りもよろしく♪」
「くそ!このタイミングかよ!!頑張らせていただきます!!」
「よろしい!頑張ったらご褒美でいいこいいこしてあげるよ!」
「チクショウ!!徹夜でもなんでもしてやらぁああああああ」
そしてその後輩は、エルフの男を調べるために闇に駆け出すのであった。
「頑張ってね♪」
「鬼ですね、シャリアさん」
「何のことかな♪」
「いや、深くは聞きませんよ」
仲間のやる気にガソリンを噴き込み、焚きつけたことに対しては触れずに、古参メンバーはそっと手紙をシャリアに渡す。
「それより、リベルタさんから指示が来ました」
「へぇ、思ったより早かったね。もしかしてクラリスさんのこと向こうでも耳に入ったかな?」
「こっちの手紙よりも先にクラリス殿との接触が早かったのかもしれませんね。こちらの送った伝令がリベルタさんに接触するのはもう少し時間がかかるでしょうし」
その手紙を受け取り、紙を開くと『四』と書かれている。
これだけを見ると普通なら疑問符を頭上に浮かべるのだろうが。
「へぇ、四番か」
「おお、四番ですか。久しぶりに、義賊として動けそうですね」
「そうだね、それも義賊活動の中でも一番派手に動いていいって、リベルタ君も太っ腹だね♪」
シャリアたちは、その数字の意味を即座に理解してニヤリと笑みを浮かべる。
「情報収集に散らばっている皆が帰ってきたら、どこをターゲットにするか考えないとね」
「ええ、幸いにシャリアさんが色々と情報を収集してくれたおかげで後ろ暗い輩の目星はついていますから」
「僕の可愛さに感謝してもいいんだぞ♪」
「いつも、感謝してます」
これからやることは、法に照らし合わせれば犯罪だ。
しかし、権力者の隠した悪事を表に曝すためには必要な犯罪だとシャリアたちは理解している。
それ故に、彼らは迷わず、そして少し楽しみながら行動を開始する。
一人の可愛らしい男によって率いられた影たちが今動き出すのであった。
今回も楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
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