7 便り
幻幼虫に寄生されていた精霊との接触、このタイミングでできたのはちょうど良かったと言える。
なにせ幻幼虫は南の大陸や精霊界では決して遭遇することが出来ないモンスターだ。
幻幼虫ダンジョンの鍵もあるにはあるが、それを手に入れられるのは『夢幻のオヴェイロン』と戦った後。
幻幼虫とは西の大陸のクエストを進めると戦えるようにはなる。
その戦いは、幻幼虫に寄生された精霊を相手にすることが通常だ。
西の大陸スタートを選んだ初期勢のFBOプレイヤーも最初は何故、精霊が襲ってくるのかわからず、南の大陸や、東の大陸、さらに北の大陸でプレイしているメンバーに情報提供を持ちかけた。
その結果わかったのは、精霊の様子が異常なのは西の大陸だけと言うこと。
他の大陸では、敵対しなければ精霊が襲ってくることはないと知った西大陸のプレイヤーたちは、精霊の様子がおかしいのはこの西の大陸だけの異常だと判断し、そこには何か理由があるはずだとプレイヤーのゲーム脳がささやく。
ゲーマーとはそういう連中だ。
ゲームの進行上で何かトラブルがあるのなら、現実のように無意味な理由があるのではなく、ゲーマーとしてのメタ読みでなにか裏に重要な事情があると勘ぐる。
「ということで、幻幼虫対策にプチスライムゴーストの有用性が実証されたことは、西大陸の精霊たちを救出する目処が立ったと言うことだ。これでクラリスたちを出迎えても問題なく活動ができる」
「でもあれって、そんなに数がないわよね?」
「試作品だったからなぁ、潜水艦にあるのを全部合わせても百体を少し超える程度だな」
そうなってくると、自然とプレイヤーたちはその西大陸だけの異常を、ゲームスタート時に運営から与えられた課題として認識し、対策を練る。
その結果精霊に寄生する幻幼虫の存在を発見し、その対策として生まれたのが、今、俺が手元で転がす小さな壺に入ったプチスライムゴーストというモンスターだ。
壺型の専用アイテムでテイムし、管理し、さらに持ち運ぶことによって運用コストを最小限にした、西大陸のFBOプレイヤーたちのアイデアの結晶。
手のひらサイズの壺に収められたのは、テイムモンスターの輸送コストを下げるために工夫した結果だ。
「十分多いと思いますが、それでも少ないのですの?」
「この大陸に何千、何万って精霊がいることを考えると多くはないな。事情を考慮すれば少ないとも言い難いけど。ネルの言っている通りこれからのことを考えるとフライハイトで量産してもらった方が良いだろうな」
たった一回とは言え、実戦で成果を出せた。
なので、今後の作戦のためにこのプチスライムゴーストは量産する。
「まぁ、テイムモンスターとしてはそこまで強くないけど」
戦闘能力としては、プチと名がつくだけあってそこまで強くはない。
「治療用と偵察用としては中々便利だからな、作っておいて損はない」
「もっと大きいのにすればいいんじゃないの?ほら、元々のスライムって強いよね?そうすれば色々とできるよね」
「そうすると、テイムスキルが必須になるんだよねぇ。専用の道具でテイム状態を維持できて誰でも運用できて、コスパも良いってなるとこのプチスライムゴーストの大きさが限界なんだよ」
だけど、戦闘に関係しなければそもそもそこまでの性能は必要ないのだ。
元々精霊の治療用として、用意してきた手段の〝一つ〟でしかない。
「そう言えば、リベルタはテイマーは育てないのですね」
「育てたいけど、育てられないって言うのが正解かなぁ。今のフライハイトならできなくはないけど、遠征となるとテイマーのコスト維持が大変になるんだよ。テイマーを強くするにはそのテイマーに見合ったモンスターが必要なわけだ。そのモンスターは強くなれば強くなるほど維持するコストは高くなる。コストにも色々とあるんだけど、使役契約を維持する魔力だったり、契約モンスターを飼育するための食事だったり、モンスターが戦闘で怪我したら治療したり、まぁざっと上げるだけでこれだけ上がる。さらに全部のモンスターが常に使えるわけじゃない。こういった砂漠に適さないモンスターだっている」
アミナのプチスライムゴーストのプチ部分をビッグとかキングとかに置き換えて巨大化した方が良いのではという案は、悪くはないけど、今後のことを考えたらコスト面で良くないのだ。
モンスターをテイムするにもモンスターの強さが強くなれば当然だがアイテムだけでは限界が来る。
スキルは必要だし、そこまで来るとテイマーが必要になる。
モンスターを育成、飼育、そして強化のできる専門職。
そのジョブを用意するならモンスターを管理するための牧場を運営する必要も出てくる。
テイムモンスターを異空間に収容して、それで管理できるなんて便利なスキルはないのだ。
そこにあるのは、モンスター牧場として相応の土地に育成環境を整備して、管理し、そこの牧場から召喚で出し入れするという手間のかかる工程だけだ。
エスメラルダのテイマーを用意すればという案は、個人でテイムモンスターの群れを管理し、多勢に対して勝ちを拾うという点ではいいかもしれないが、今回の西の大陸での遠征では相性が悪い。
窓の外を見れば、水の精霊の襲撃という騒動が収まり各施設の建設が再開し、着々と拠点が整備されているが、この環境ではテイマーを活用するよりも普通に戦闘のできる人材を育成した方が活躍ができる。
「まぁ、その環境適応性能トップの竜種をテイムしてくればいいだけの話だけどな。風竜と火竜、それに地竜辺りをテイムできれば、この西大陸の砂漠でも防衛戦力と、移動手段としては使えるとは思う。けど、コストがなぁ」
例外として、竜種をあげるが、この竜種をテイムモンスターとして維持するだけでもかなりコストがかさむからできれば避けたい。
「どれくらい必要なのですの?」
「食料だけでいうなら、風竜一体につき肉が毎日一トンいかないくらいかなぁ」
「い、一トンですの!?」
「ああ、あの巨体だ。それだけの食事はする」
あいつらはただひたすら食事量が多い。
その分だけ強化すれば戦力にはなるけど、人間ユニットと比べると食費というコストでは雲泥の差がある。
テイマーのスキル構成の中に、調理系のスキルが入るのはテイムしたモンスターのバフ効果を見込めるからだ。
何せあいつら、食べれば食べるだけバフを重ねることができる。
同じ効果のバフは重ねることはできないが、別のバフなら色々と重ねることができるから食べれる量イコール、様々なバフ効果を乗せられることを意味する。
「スライムなんて、捕食した相手を溶かすことがメイン攻撃だからそれこそ無尽蔵に食べるぞ」
「どうやって維持するのですの?」
「スライムなら魔力供給で基本的には問題ない。だけど、やっぱり食事を与えた方が懐いてくれるな」
そういう点と使役という管理方法でモンスターが言うことを聞いてくれる点でテイマーは精霊使いと比べればプレイヤーでも比較的使っていた人が多い。
アジダハーカを含めた、東西南北のボスモンスターを使役した猛者もいたくらいだ。
四体の各大陸のラスボスをテイムしたプレイヤーと対人戦をしたことがあったが、こっちが個人に対して相手は怪獣を四体放ってくるんだよ。
しかもテイマーの強化バフを振りまいてくるから、無理ゲー通り越して、クソゲーだった。
勝ったけど。
いかにアジダハーカ級のモンスターが四体いると言っても、攻略方法はわかっているし、モンスターのAIはそこまで優秀というわけではない。
プレイヤーの指示を聞いて、移動したり攻撃したりはしてくれるが、自己判断能力はそこまで高いわけではない。
隙をついて、テイマーを仕留めればあとはどうにでもなった。
「そうなのですの」
「エスメラルダはテイマーに興味があるのか?」
「あるかないか、で言えばないですわ。私は、魔法を放っている方が好きですし」
そんなテイマーの話題を振ってきた、エスメラルダはテイマーになりたいかと思いきや、質問も興味本位だったようで、あっさりと首を横に振った。
そしてその後にすぐに魔法を放つような素振りを見せて笑う。
「テイマーは好みが分かれるからなぁ。牧場経営とかするのなら最強格に食い込めるけど、戦闘面ではテクニックがいるから、玄人向けではある」
そしてそれが良いと俺も頷く。
俺もテイマーを使っていたことがあったが、あれは体を動かすことが好きな人には向かない職業だ。
どちらかというと、将棋とかチェスが好きな、盤面を支配し、戦術や戦略を組むことが好きな人がなるタイプのジョブだ。
「リベルター!!クラリスさんから手紙が来たわ!!」
そんなテイマー談義は、ネルの呼びかけによって中断されることになった。
窓から覗き込むように顔をだした赤髪から生える狐耳がピコピコと揺れる。
砂漠の民のローブを身にまとった彼女の首には防塵用ゴーグルを掛けてついさっきまで外にいたことを示している。
その彼女の片手には便箋が握られて、肩には鷹のようなモンスターが止まっている。
「そうか、トルマンディは無事に接触できたか」
テイマーの話をしているときに、使い魔による文書を送ってきたのはなんともタイムリーな話だ。
南の大陸にあるフライハイトに救援を要請しにきたクラリスの配下でであるエルフの男トルマンディ。
彼は別ルートでクラリスの元に向かいここに使者を派遣するように頼んだ。
もし仮に、元老院の勢力と接敵したときの対策としてエンターテイナーを護衛につけてあるからたどり着けるとは思っていた。
「はいこれ」
「おうって、随分と分厚いな」
その成果である手紙はかなり分厚く、現状のことをかなり細かく伝えようとしてくれているのがわかる。
「リベルタ、この子に水とご飯あげていいわよね?」
「ああ、食べ物はイングリットに聞いてくれ」
「わかったわ!」
その手紙を届けてくれた鷹に向かって、ネルは笑顔を向ける。
うちのパーティの中で唯一、テイムスキルを持っているのがネルだ。
今はまだ死にスキルになっているけど、そろそろネルに使い魔を与えてもいいかもしれない。
楽し気に鷹と話しながら、イングリットの元に歩いていく後ろ姿を見てそんなことを思いつつ、そう言えば西の大陸には〝アレ〟がいたなと思い出した。
あれなら、ネルの足にはぴったりだしコストも並みの竜種と比べれば少なくて済む。
ダンジョンの鍵を手に入れて、ボスをテイムできればネルの戦力強化になる。
『夢幻のオヴェイロン』との戦いの後もあれなら、適応能力という点でかなり有効だと言える。
強化すれば、終盤まで活躍もできる。
「読みませんの?」
「ああ、読む」
ちょっと思考がずれて、手紙を読むのを忘れていてハッとなってエスメラルダに指摘されて便箋の封を開ける。
そこには、この世界では上質と言える紙が何枚も折り重なっていている。
「・・・・・」
始めは軽めの挨拶の定型文が並び、そこからは報告書のような文面が並ぶ。
その内容を、日ごろの書類処理で鍛えた読解能力で読み解くと。
「うーん、これはまた」
頭を掻き、苦笑を浮かべるしかないと言える状況を把握してしまった。
「状況は悪いのですの?」
そんな俺の表情を見て俺の考えを察したエスメラルダに向かって俺は頷き。
「予想よりも悪くはないけど、状況的には悪いと言って良い状況かな?」
リアクションに困ると苦笑を深めるのであった。
今回も楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
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